Cramerの定理による連立方程式の指導

留萌千望高等学校  教諭 佐川 大樹

1 はじめに

留萌千望高校は4学科(電気,建設,商業2学科)あり,1年生の数学のカリキュラムは全学科共通で次のようになっている.

4月 正の数,負の数,分数の計算
5月 指数の計算,整式の加法・減法
6月 整式の乗法・除法
7月 平方根の計算
8月 式の値(代入計算)
9月 等式の変形(1次方程式),連立方程式
10月 因数分解,2次方程式
11月 三角比の定義
12月 三角比の相互関係
1月 図形の計量(正弦定理・余弦定理)
2月 図形の計量(正弦定理・余弦定理)
3月 図形の計量(正弦定理・余弦定理)

 つまり,最初の半年間は中学範囲の計算問題の復習である.私は昨年度,1年生の商業クラスの数学を担当した.4学科中もっともできるクラスといわれていたが,連立方程式の出来が悪く,中間テストではほとんど正解している者はいなかった.
 2元1次連立方程式の計算は

  1. x かまたは y を消去する.
  2. ( y を消去した場合)x の1次方程式となるので,これを解く.
  3. x の解を元の方程式のどちらかに代入する.
  4. 代入した式はy の1次方程式となるので,これを解く.

というような手順であるが,これが彼らにはあまりにも面倒であって,最後までたどりつけないというのが現状である.その原因としては移項,代入,両辺を○倍するなどの文字式,方程式に特有の手順が十分に身についていないという点も挙げられるが,小学校の算数の計算が満足にできていない者もいるということは見逃せない事実である.
 私は数学の教員でいる以上,できることなら生徒たちには微分,積分を理解して卒業してもらいたいと思っている.これはあくまでも理解してくれたらなぁという私の願望である.実際,微分,積分を知らなくても世の中生きていくことはできるのだから,別にそれでもかまわないのである.ところが,算数レベルの四則計算ができないとなると話は違ってくる.生活するうえで支障をきたしてしまうからだ.私は四則計算を彼らにできるようにさせることは願望のレベルではなく,義務のレベルだと感じている.そのため私は今年の1年生には,連立方程式をCramerの定理で計算させようと考えた.このレポートでは,まず生徒の学力を報告し,どのようにしてCramerの定理を導入したか紹介したいと思う.

2 生徒の学力について

 上で小学校の算数の計算が満足にできていない者もいるということを述べた.具体的には,

  1. 九九が十分に覚え切れていない.したがって,因数分解のときに,例えば掛けて 24 になるような2つの数が見つけられない.
  2. 正負の足し算,引き算のルールが定着できていない.例えば,異符号の足し算のときは,絶対値の引き算の計算をしなければならないが,足し算なのに引き算をしなければならないことにとまどってしまう(1−3 の計算を 4 または −4 としてしまう).
  3. 分数の計算が苦手である.約分の原理は理解しているが,3 や 7 などの数で割るものは九九が不十分なため手が止まってしまう(など).また,通分がまったくわかっていない者もわずかながらいる.

 ちなみに私が受け持つクラスの入試の平均点は60点満点で14.0点(23.3%)であった.

3 Cramerの定理

 とする.
 n元1次連立方程式の解は, det A ≠0 のときただ一組の解を持ち,その解は

で与えられる.ここで,Δj は A の第 j 列をで置き換えた行列式である.

(例)  i.e.  
とおき,A の第1列,および第2列を で置き換えた行列式をそれぞれ Δx , Δy とおく.
  
となるから,……(答)

4 導入

 Cramerの定理には行列式の計算が必要になってくる.しかし,行列の内容を触れることはできない.そこで,「式の計算」の回で「適性問題でこういう問題が出題されるよ.」と就職試験の形におきかえて(ごまかして)行列式の計算をさせ,連立方程式の回で「今から裏技を教えるから.これは留高(留萌高校)の連中も知らないんだぞ.」と生徒達に自分たちだけのオリジナルの解き方を持っていると思わせようとした.加減法,代入法がある程度計算できる生徒からは「なんでこんな面倒くさいことするんだ.」と反発もあったが,慣れてくるにしたがって,「以外と簡単だね.」という感想も出てきた.私はこの授業に関しては,計算して答が出せるそして問題が解けて「ヤッター」という実感を持ってもらいたいということを目標としていたので,一応の目的は達成できたと思っている.しかし,次にあげるようにこの授業にはいろいろな問題点もあるので,それについて述べたいと思う.

5 問題点

  1. Cramerの定理は1次の連立方程式にのみ有効な方法であるが,2次以上の式が絡んでくる連立方程式にはまったく役に立たないものである.したがって,1次関数(直線)どうしの交点の座標は求められるが,2次関数(放物線)と1次関数(直線)の交点および2次関数どうしの交点は求められないというデメリットがある.幸い,本校は放物線と直線および放物線どうしの交点を求める場面が3年間を通してないので,授業内で不都合が生じることはないが,大学や専門学校などに進学をする場合に対応しきれないという問題がある.
  2. もともとこの授業は,連立方程式を代入法や加減法で解くことが困難であり,かつ四則演算が不十分である生徒を対象にしたものであるから,方程式に特有の計算はまったく無視している.一応,1次方程式の計算に関する授業は連立方程式に入る前に済ませているが,そのときの授業との関連性はまったくない.授業の流れとしてこれでよいのかという疑問があり,来年度以降のさらなる工夫を試みたい.
  3. こうした試みは何よりも授業が成立しているということが前提である.残念ながら1学年に関しては,落ち着きがない状態がしばらく続いており,時間帯によっては授業自体が崩壊しているときがある(特に金曜日の5校時目).
  4. 先日行われた中間考査で,各生徒の連立方程式の出来の様子は次の表の通りである.平均点および完答者の人数にそれほどの差はなく,今回の実践で思ったような成果が上げられなかったのは残念である.特に,行列式の計算(2つの積の差をとる計算)が定着しておらず(引き算のところを足し算で計算するものが何人かいた),徹底した指導ができなかったのは反省すべき点である.

 ※ 中間考査の結果について

 先日行われた中間考査で連立方程式の計算を3題出題した.そのうちの1題は4月入学直後の課題テストで出題した連立方程式の問題とまったく同じ数値にした.この表は課題テストと中間考査に共通に出題された問題に限定して,各生徒の得点(5点満点)を比較したものである.今回の考査でCramerの定理で解いた者は12名,加減法で解いた者は4名,答だけ書いてあって解き方が不明の者は2名,白紙の者は6名であった.

(問題)
  

(4月の課題テストの採点基準)
 辺々を引くことがわかっている ……(1点)
 y の値が求められる ……(2点)
 x の値が求められる ……(2点)

(10月の中間考査の採点基準)
 x , y の分母の値が求められる ……(1点)
 x の分子の値が求められる ……(1点)
 y の分子の値が求められる ……(1点)
 x の値が求められる ……(1点)
 y の値が求められる ……(1点)

(注)
 解き方の「C」はCramerの定理を用いた者.「中」は中学校で習った加減法で解いた者.「?」は解き方が不明な者.「白」は白紙の者を表す.

6 参考資料

 参考までに授業で使った演習プリントを付けておく.