数検実施の壁

留萌千望高校教諭 佐川 大樹

1 はじめに

 昨年の9月,進学者推薦検討委員会に向けて生徒の成績資料の一覧を作成していたときのことであった.資格取得の項目を見ると,工業系,商業系,英検,漢検とさまざまな資格が書かれているが,数検を取得している者がほとんどいないことに気がついた.思えば昨年の6月に校内で数検の実施を予定していたが,受検者が集まらないために実施を見送ったことがあった.私は数学の教員として寂しさを感じるとともに,何とか数検を受ける雰囲気を全校的に広げていけないものかと考えた.このレポートは今までの数検実施の流れと,今後の取り組みについての私なりの考えを述べるものである.

2 数検とは

 数学検定(以下,数検と表す)は財団法人日本数学検定協会(以下,協会と表す)が主催する資格試験で,平成4年にスタートした.
 数検は1次の「計算技能検定」と2次の「数理技能検定」の2種類の試験から構成されている.普通,2次というと1次試験に合格しなければ受検資格が与えられないが,数検の場合は一度に2つの試験を受け,2つとも基準点に達したとき,その級の合格が認められるシステムになっている.もし,どちらか片方だけ合格している場合(1次合格で2次不合格の場合,またはその逆で1次不合格で2次合格の場合)は,次の回の数検で不合格だった試験だけを受けて合格すればよいということになる.
 1次試験(計算技能検定)は文字通り計算力をみる試験である.当然,電卓は使えない.3級は60分30問,準2級は60分15問で,だいたい7割程度が合格ラインである.(正確な合格ラインは発表されていない).  2次試験(数理技能検定)は応用力をみる試験である.この試験には電卓を使うことが許されているが,別になくてもあまり影響はない(実際,手計算でも十分に対応できる).3級は60分20問で答のみを記入すればよいが,準2級から上級は記述式である.2次の合格ラインは6割程度とされている(これも正確な合格ラインは発表されていない).
 なお,数検の内容を簡単に述べておく.新課程になってイメージが湧きにくくなったが,旧過程で考えると3級は中学卒業程度,準2級が数T・数Aまで,2級が数U・数Bまで,準1級が数V・数Cまで,1級が大学の教養程度と考えておけばよいと思う.

3 級平方根,2次方程式,円,相似比,三平方の定理 他(中1〜高1程度)
準2級2次関数,三角比,確率,数列の基礎 他(中2〜高2程度))
2 級関数,円の方程式,整関数の微分と積分 他(中3〜高3程度)
準1級関数と極限,微分・積分,行列,簡単な曲線 他(高1〜大学程度)
1 級微分積分学,線形代数,確率論,統計学,幾何学 他(高卒〜大卒程度)

 数検は各学校でも団体受検を行なうことができる.数検はほぼ毎月実施されているが,本校では3回の実施(6月,11月,2月)を毎年計画している.しかし,協会の規定では学校実施をするためには最低10人以上の受検者が必要である.そのため受検者がなかなか集まらない本校では数検の実施が困難になっているのが現状である.事実,6月の検定は実施できず,11月の検定も本校の数学科教員が申し込んでかろうじて10人に達したという経緯がある.

3 数検実施に向けての取り組み

 先に述べた通り,6月の検定が実施不可能となってしまったので,11月の検定は何とか実施していきたいと思っていた.しかし,いきなり全校的に数検を受けましょうといっても,授業を成立させること自体が困難であるクラスが残念ながら存在する以上,数検実施には無理があるのは明白である.そこで私は比較的,資格取得に積極的に取り組んでいる2年生の商業クラスにターゲットを絞ることにした.
 まず,2学期の授業から確認テストを毎回行なうことにした(それまでは時間の関係上,確認テストを行っていなかった).そのテストの中にコラムを作り(これは昨年の8月に数実研で発表されたレポートからアイデアを頂いた),数検を宣伝する内容を載せた.そして確認テストが終わって暇を持て余している生徒が自然と読むような形にした.生徒の中にはテストそっちのけでコラムから読み出す者もいたが,コラムを読んでもらうことを第一に考えていたので,あまりうるさいことは言わなかった.
 次に,実力のある生徒(具体的には1学期の定期考査で90点以上を取った者)数名にひとりひとり声をかけていった.最初は嫌がられるかと思い,どのように説得しようかと考えていたが,「数検を受けないか」の一言に受けるとあっさり言ってくれた生徒が多いのには驚いた.日頃からの担任の先生を初めとして科の先生方が検定に積極的に受検させようと指導していただいたおかげだと思っている.結局,このクラスからは6名受検者(いずれも3級)が出て,数検実施が可能となったのである.
 数検を受検する者に対しては,特に補習は行なわず,対策プリント(冊子形式にしてより実践に近い形のもの)を配り放課後等に質問を受け付ける対応をした.受検者の結果は教員1名,欠席者1名を除く8名中3名が合格,2名は1次試験のみの合格,1名は1次試験のみの受検(2次試験はすでに合格している)で不合格,2名は1次・2次とも不合格であった.

4 問題点

 本校は専科の高校であり,どうしても普通教科が弱い.就職試験へ行って一般教養の試験を受けると,まず完膚なきまでに叩きのめされるといったことが多い.そこで,私は来年度から国語科で漢検が必修となっているのと同様に数学科でも数検を来年度の1年生に必修にできないかということを数学科内で提案した.しかし,次に挙げるような問題点のため1年生に必修にすることをあきらめざるを得なかった.

@ 何よりもまず検定料が高い(3級3,000円)という問題点がある.ただでさえ,入学時に保護者から負担してもらう額をできるだけ抑えていこうという時に,これ以上負担を増やすことは難しいと指摘された.確かに,準2級以上になると2次試験が記述式になるので,検定料が高額になるのはやむをえないと思う.しかし,3級までならばほとんど答えだけの解答形式でありさほど採点の手間がかからないため,もっと検定料を低く設定しても問題がないのではと個人的に思う.漢検の検定料が比較的安く本校生にも幅広く利用されていることを考えると,もう少し何とかならないかと思っている(ちなみに漢検の受検料は準2級までは2,000円である).
A 協会のキャッチフレーズに「3級取ったら,履歴書に書こう.」というのがある.これは裏を返せば,4級以下は取っても履歴書に書けないから無意味であるということを協会自らが認めていると疑われても仕方がないと思われる.実際,もし4級以下の取得で履歴書に書いたとしても,数検の存在を知っている者が就職試験の面接官であれば,3級を取得していないことを質問してくるのは目に見えている.
 本校の場合,もともと中学校の数学を十分に理解して入学してきているわけではないので,3級(中学卒業程度)のレベルがいきなり通用するのは全体の1割程度である.したがって,もし本校で数検受検を必修とすれば,生徒の学力に合わせて4級(中2程度),5級(中1程度)を受けさせていかなければならない.
 私の前任校(東京都の私立の進学校)もそうだったが,数検が進学をメインにしている高校で実施されているのを聞いたことがない.数検を取るメリットがないからである.理系の難関大学を志す高校生であれば,準1級を取ることは造作もないことである.確かに,数検の取得によって単位が認定される高校,大学があるのは事実である.しかし,数検を受験する大きな理由として就職活動を有利にするためであるのは間違いがない事実だと思う.現に就職を目指している文系学生が多数受検しているのはその現れであろう.
 したがって,本校のように就職を希望する生徒が多数を占めている高校が中心となって数検が利用されていく方向になると思っているが,どうも協会のキャッチフレーズが本校の数検実施を邪魔しているようでならないと感じている.

5 これからの取り組み

 本校でできる取り組みを述べてみたいと思う.ある程度は予想されていたが,本校で扱うことのない分野(図形の相似)について忘れてしまったと質問してきた生徒がいた.学年が進み,日にちが経つに従って,中学校の学習内容が記憶から薄れていってしまう.つまり,数検3級に受かりづらくなっている.今後,このような分野について補習を企画しなければならないと考えている.以前,私は東京で高校受験を対象とした進学塾で講師をしていたので,そのときの経験が生かすことができればと思っている.
 また,今までのカリキュラムでは3年生の4月から5月までの1ヶ月間(1学期中間考査まで)は,数Uの微分を学習するための準備段階として2次不等式を扱ってきた.しかし,来年度からは数学の授業内でオリジナルテキストを作成し就職対策を行なうことを数学科の打ち合わせで確認した.内容としては中学校の計算問題に加えて判断推理,資料解釈,論理の問題など就職試験独特の問題も含めたものにする予定である.当然,就職対策として数検を受験するような流れに持っていきたいと考えている.もともとは校内の研究紀要の原稿作成から数学科内で打ち合わせを持ったが,進路指導部からの要請もあり,普通教科として生徒の進路実現に何ができるかということについて,今回のようなひとつの新しい取り組みになった.授業を受験対策に充てているという批判も今後予想されるだろうが,現実の厳しさを考えると何か教員のほうから行動を起こさなければという危機感の方が強い.実際,生徒を前にしてどこまで指導に当たれるか不安ではあるが,この取り組みの結果やそこで生じた問題点については今後の数実研で報告したいと思っている.

6 参考……数検取得者入試優遇措置校(道内大学・短期大学)

大学・短大名 入試区別 特記事項
道都大学(全学科) 推薦 公募制Aにおいて加点
専修大学北海道短期大学(全学科) 推薦 書類審査にて参考資料とする
札幌国際大学(全学部) 推薦等
公募制B
芸能・資格・技能・クラブ活動等の課外活動で優れた実績をもつ者で全体の評定平均値3.2以上
酪農学園大学(酪農学部,環境システム学部) 推薦 一般公募制において調査書を点数化
酪農学園大学短期大学部(酪農学科) 推薦 一般公募制において調査書を点数化
札幌学院大学(全学部) 推薦 公募制Aにおいて加点
北海道東海大学(全学部) AO・推薦 AO入試において出願条件の1つとして
釧路短期大学(全学科) 推薦 一般・特待生2種推薦の出願資格の1つとして