札幌新川高等学校 中村文則

○分数×分数=分数−分数?

<先 生>

 今日は、最初に「かず遊び」をちょっとしてみようか。
なる分数の面白い性質として、
    
のように分解することができる。2つの分数の積が2つの分数の差と同じ値になるということだ。右辺を通分することで簡単に確認できるだろう。それでは同様に考えると、
    @   A 
はどう分解できるだろうか。

<まなぶ>

 はい、@ ,A  でしょうか。

<よしお>

 Aはおかしいよ。右辺を通分すると だから左辺と一致しないだろう。

<先 生>

 その通り。安易に差の形に分解できるわけではない。Aの場合は、さらに分子の3を1に変えるために を掛けておく必要がある。従って、 となる。では、いったいどういうときに、単純に積の値が差の値と一致するのだろうか。

<かず子>

 右辺を通分したときに、分子の値が1になっていれば問題ないわけですから、
    
より左辺の分母にある2数の差が1のときだと思います。

<先 生>

 そうだね。左辺の分母の2数の開きがキーになっている。@の場合は分母の2数の差をとると、
    6−5=1
だね。この値1が分子の値と一致していることが大事なんだ。これを
    1=6−5
と見てやる。そうすると、
    
次にAの場合だが、分子の差は、
    8−5=3
左辺の分子の値1とは一致しない。だから3を1に変える必要が出てくる。
    
よってAは、
    
となるということだ。
 結局、この分解のメカニズムは、分数の差の形に分解したあとに、左辺の分母の2数の差で右辺を割ってやればいいということだ。
 まなぶ、自分で問題を考えて分解してごらん。

<まなぶ>

 はい、例えば、 は、分母の差が5だから、
    
となります。

<先 生>

 さて、それでは今日の本題だ。この変形を部分分数分解というが、このアイデアが数列の和の計算で実は応用できるんだ。

ex) 次の数列{an}の初項から第n項までの和を求めよ。
 (1) 
 (2) 
 (3) 
 (4) 
           

<先 生>

 まず(1)からだ。どの項も部分分数分解されたがっているのが分かるだろうか。ひとつひとつやるのは大変だから、一般項で考えて分解してみよう。よしお、数列の一般項は何かな。

<よしお>

 分母の2数の積のうち、前の数の並びはn、後ろの数はn+1ですから、一般項は、
    
となります。

<先 生>

 ではこの一般項に対して部分分数分解をしてみようか、かず子。

<かず子>

 はい、 (n+1)-n=1 ですから差は1、したがって、
    
となります。

<先 生>

 よって求める和は、
    
となるね。さて、あとはこの和を求めればいいのだけれど残念ながらベキ和の公式は使えない。そこで実際に書き抜くんだけど、さあここでちょっとノートの無駄遣いをすることになる。次のようにk=1,2,3,……,nを代入した項の値を縦に書いていこう。
    
さあ、この計算をよくみてごらん。分解された項の中の数がその次に分解された項の数と相殺されて次々に消えていく。そうして最終的に残るのは、最初の項の1と最後の項の だけだ。結局、
    
となるわけだ。

<まなぶ>

 うわあ、なんかドミノ倒しみたいだな。

<先 生>

 うん、いい表現だね。では次の(2)の問題にまなぶ命名のドミノ倒しを利用してみようか。まなぶどうなる。

<まなぶ>

 えーと、まずは一般項からですよね。分母の積をみて前の数は、初項1公差2の等差数列より一般項は2n-1、後ろの数はそれより2多いんだから2n+1、だから一般項anは、
    
となります。次に、分母の2数の差は、(2n+1)-(2n+1)=2。よって2で割って、
    
あとは和をドミノ倒しで求めるだけです。
    
できました。

<先 生>

 どうだろう。消え方も鮮やかだけど、和の値も随分美しくまとまるものだね。それでは(3)をよしおやってごらん。

<よしお>

 まず一般項は、
    
です。次に分母の2数の差は、(n+2)-n=2ですから式変形すると、
    
となります。よって、
    
先生、上手く消えません。

<先 生>

 そうだね。でも次の項は何だろう。

<よしお>

 はい、 です。

<先 生>

 そうすると、第1項目の部分分数分解された数のうち と相殺されそうだね。もう少し頑張って、書きぬいてみよう。

<よしお>

    
となります。

<先 生>

 どうだろう。少しは消え方が見えてきただろうか。実はこのドミノ倒し、倒れ方がちょっと凝っていて一つ置きになっているんだ。そこで、最後の方の項もk=n-2,n-1,n項ぐらいを書いてやらないと消え方がはっきりしない。

<よしお>

    
うーん、本当に消え方が複雑ですね。

<先 生>

 ちょっと分かりにくいかもしれない。そこで、数の消え方を目に見える形にしてみようか。みんなの鉛筆をだね。最初に消える2数の上に置いてごらん。次に、鉛筆の傾きを変えずに下の方向にスライドしていってみよう。どうだろう、どんどんと数が消えていく様子がみえてくるね。そうしてドミノ倒しをして最後まで残った数を集めていくと、
    

<まなぶ>

 先生のノートの無駄遣いという言葉の意味がよく分かりました。これで消え方が2つ置きだともっと大変なことになりますね。

<先 生>

 そういうことだ。でもね。納得するだけのことならもっと上手い方法があるんだよ。

<まなぶ>

 えっ、そうなんですか。

<先 生>

 次のように、項を2つずつまとめて段を下げていつてみよう。
    
 どうだろう。消え方が分かり易くなったと思わないかな。この並べ方でいくと2つ置きに消える場合は、3つの項ごとに下の段に下げていけばいいことがわかるだろう。

<まなぶ>

 先生、じゃあどうして最初からこの並べ方をしなかったのですか。

<先 生>

 実はこの並べ方、厳密にいえばちょっとおかしいんだ。これだとね、2つの項毎にまとめるのだから第n項めが偶数番目の項になってしまうんだ。イメージとしてはこれで結構だけどあまり解答には書かないようにしておこう。
 では最後の問題(4)だ。さて、部分分数分解はどんな形になるだろう。

<生徒達>

 …………

<先 生>

 君達は難しく考えすぎていないだろうか。
3つは2つを含むだよ。

<生徒達>

 ………

<かず子>

 ………あっ、そうか。2つの数に絞って考えればいいんだ。

<よしお>

 かず子、どういうこと。

<かず子>

 先生がおっしゃったのは3つの整数の積は、2つの整数の積でもあるということですよね。

<先 生>

 その通り。

<かず子>

 次のようにします。まず、一般項は、
    
次に、分母の数の並びでn(n+1)の部分に着目すると、この部分は部分分数分解ができます。したがって、
    

<まなぶ>

 さすが、かず子。冴えてる。

<よしお>

 でもかず子。その分解だと上手く数が消えていかないよ。実際、
    
ほら、まったく消えないだろう。

<かず子>

 うーん!………!!、でもね。さらに部分分数分解をしたら上手く行くんじゃないかしら。
    
だから、
    
あとはこれを求めれば完成です。

<先 生>

 凄いね。正解だ。でもこんなに頑張らなくてももう少し綺麗な消え方にする分解はないだろうか。

<生徒達>

 ………

<まなぶ>

 ………先生、nとn+2を分解すればいいんでしょうか?。

<先 生>

 その通りだ。まなぶ、計算してごらん。

<まなぶ>

 まず、nとn+2はその差が2だから、
    
これだと上手く消えると思います。

<先 生>

 やってみよう。
    
どうだろう。随分シンプルにまとめられたね。
 でも、先ほどのかず子の分解も重要だ。結局、3つの整数の積は完全に分解できるってことを示していることになる。例えば、
    
というように分解できる。以前、数と式の恒等式の分野でこの手の問題をみたことがあるだろう。
このように考えていけば、分母が何個の積だってみな部分分数分解が可能になってしまう。では、
    
なんかは、どう分解されるだろうか。

<まなぶ>

 はい、nとn+3の部分で分解します。
  
となります。

<先 生>

 素晴らしい。あとは初項から第n項までの和を求めるのであれば、この形であれば簡単にドミノ倒しができることがわかるだろう。また、さらにこの式を部分分数分解していくと、 で式が表現されることになる。
 もともとこの分解のアイデアは、パズルみたいな数遊びが始まりだったね。カードゲームのような知的娯楽がいまほどない昔は、多分、こんな数遊びをして人々は刺激を求めていたんだろう。生活の中では、呪術なんかと結びつき数のもつ不思議さと神秘さが人々の心の中に増殖していった。部分分数分解から始まる分数の和も項数を増やしていくと無限に触れていくことになる。
 そう考えると今日の問題はとても壮大なドラマがその奥底にがあるんじゃないだろうか。


あとがき

 簡単な補足説明をします。
 (1)については、単純な部分分数分解ですが、その解法はというと、次のようなものが一般的でしょう。
 たとえば、 の分解は、 となることを予想し、これを通分します。
    
これから、与式の分子の値に一致させるために2で割って、
    
とします。しかしこのやり方は、部分分数分解の結果を押し付けてしまうような印象を受けます。なぜ分解が可能かという本質が薄れてしまっているように思うのです。
    
という原因から結果を推測する過程を大切にすべきでしょう。なお、
    分数×分数=分数+分数
なる2つの分数を興味付けとして示しても面白いかもしれません
    ……例:
 (2)は相殺される数が1つおきに出現するパターンの問題です。本文のようなイメージ化しての消去をそれぞれ、
    @鉛筆スライド消去法    A二項改行消去法
とでも呼ぶことにしましょう。相殺出現のパターンが隣り合ってなかったりすると消え方が見えにくいものですが、@、Aといった視覚化をすることで多少は解消できるかと思います。なお次のような方法もあります。
に対して相殺される数を補います。     
 これから、
    
このイメージ化をB補間数消去法と呼ぶことにします。補間数消去法では最後の式の整理の段階でもずいぶんとスッキリとまとめることができます。たとえば、 に対しては、
    
のように、数を補いその和をとると、
    

 式の見やすさ、まとめやすさを考えるとこのイメージ化がbestと思うのですか。
 (4)の部分分数分解も、結果を押し付ける解答が目立つような気がします。しかし、3数の積であろうが4数の積であろうが、その中の2数を選んで逐次分解していくだけのことです。分解のメカニズムを理解をする上でも大事なことではないでしょうか。
 なお、次の例は、恒等式の係数決定問題における係数比較法(数値代入法)の定番ですが、部分分数分解を利用した解答も考えることができます(解答の良し悪しは別として)。

ex) 次の式がxについての恒等式であるとき、定数a,b,cの値を求めよ。
    
           

解)
    
        以上より、

 ところで、「小手技シリーズ」はもちろんフィクションですが、その指導の内容についてはノンフィクションの部分もあります。今回の部分分数分解については、本校1年生を対象とした数学A「数列」単元の授業において、実際に指導した内容を脚色したものです。したがって、この小手技は、「指導案」ということになります。