札幌新川高等学校 中村文則

<先 生>

 今日は授業は組合せの問題です。

ex) 男6人、女4人の合わせて10人の生徒について、次の場合の数を求めよ。
(1) 4人を選ぶとき、少なくとも1人女子が含まれるような選び方は何通りか。
(2) 5人ずつの2つのグループに分けるとき、特定の2人が別々のグループになるような分け方は何通 りか。

○本質をスリムいてみよう!

<先 生>

 まず(1)の問題だ。誰かできる人はいないかな。(よしおとかず子が手を挙げる)。
ではよしお、やってごらん。

<よしお>

 はい、「少なくとも」というkey word がありますから余事象を考えればいいと思います。まず、全体から4人の選び方は
   
これから、女子が一人も選ばれない場合、すなわち男子から4人選ぶ場合の数
   
を引いて、195通りが求める場合の数です。

<先 生>

 (何かいいたそうな顔をしているかず子を見て)…… かず子も同じようになったかな。

<かず子>

 先生、私は別の方法を考えてみました。だいたい、正面からできないからいって裏口にまわるなんて発想好きじゃないんです。
 まず、女子が最低でも1人含まれていればいいんですから、その1人を選ぶんです。その選び方は 4C1=4通りです。
 次に、この選ばれた女子を除いた9人の中から3人を選べば条件を満たしていることになります。だから、4×9C3が求める場合の数です。

<先 生>

 裏口云々の意見はともかくとして面白い考え方だね。これでいいだろうか。

<まなぶ>

 かず子、何か変だよ。だって実際それで計算すると、    
 この数字、よしおがさっき計算した10人から4人選ぶ全体の選び方より多くなってるじゃないか。

<かず子>

 あれ、ほんとだ。何がおかしんだろう。

<先 生>

 一部分が全体を上回ることなんかありえないからかず子の方法は結果として間違いということになるけど、いったいどこが違っているんだろう。

<よしお>

 全体より多いということはダブった選び方があるからだと思います。

<先 生>

 そうだね。「重複しないような数え上げる」という場合の数の鉄則に反しているということだ。でもいったいどこの部分が重複しているのだろうか。

<生徒達>

 …………

<かずお>

 別に間違いはないようにも思えるんだけどなあ。

<先 生>

 このままではちょっと考えにくいかも知れない。では、少し問題を簡略化してみようか。(黒板に書く)

男3人、女2人の5人の中から2人選ぶとき、少なくとも1人女子が含まれる場合の数を求めよ。

 この場合では、全体から2人選ぶ場合の数は、5C2=10通り。そして、男子から2名選ぶ場合は、3C2=3通り。よって求める場合の数は7通りとなる。これに対してかず子の求め方では、2C1×4C1=8。すなわち1つの組合せの場合がダブっていることが分かるね。
 その正体を調べてみようか。そのためには、実際にかず子の方法での場合の数を書き抜いてやるんだ。8通りしかないから大した手間ではないよな。
 男3人の名前をそれぞれx,y,z、女2人をa,bとする。ここで、aとxを選ぶということを(a,x)のように表現しよう。
 では、まず最初に女子aを選んだ場合について書き出そう………よしお、どうなった。

<よしお>

(a,x), (a,y), (a,z), (a,b) となります。

<先 生>

次に、bを選んだ場合はどうなるだろう、かず子。

<かず子>

はい、(b,x), (b,y), (b,z) ,(b,a)……、あっ、aとbの場合がダブっている。

<先 生>

 犯人が見つかったね。さあ、もう人数を多くしても何がダブっているか予想できるだろう。
 最初に選んだ女子をaとすると、9C3の中にはaと女子b,c,dとの組合せが含まれるているが、次にbを選んだときは、bとaとの組合せも含まれダブってくる。同じことがc,dを固定したときにも起こり得るということだ。人数が多くなるとかなりのダブりがでてくることが分かるだろう。それがまなぶが指摘したように、全体の選び方をはるかに超えた数となってでてきた理由なんだ。

<かず子>

 そうかあ。わたし、いい方法だと思ったんだけれどなあ。やっぱり裏から攻めるしかないってことですね。

<先 生>

 そんなことはないよ。かず子のアイデアは素晴らしいものだと思う。そのアイデアを活かして、あとは重複しないように数え上げればなんとかなるんじゃないだろうか。かず子、考えてごらん。

<かず子>

 重複しないようにですか。うーん、女子aを選んだときの女子bと、女子bを選んだときの女子aをダブらないようにすればいいんだから……。あっ、そうか、女子bを選んだときはaも除いて残り8人について考えればいいんだ。

<先 生>

 その通り。aを選んだときは、残り9人から3人を選んで8C3通り。次にbを選んだときは、a,bを除いた8人から3人を選んで8C3通りだ。こうすると重複することはないね。さあ、結局どういう式がでてくるだろう。

<かず子>

 9C3+8C3+7C3+ 6C3=84+56+35+20=195
 やった、答えと一致したわ!

<先 生>

 問題の解法には表も裏もないんだ。結果に対してのアプローチの違いがあるに過ぎない。そのアプローチを見やすくくするためには本質をスリム化して、そして剥いてやるといいということだね。


○リーダーはだ〜れ?

<先 生>

 では次に(2)だ。今度は誰が解答する?。

<まなぶ>

 僕がやってみます。まず特定の2人なんだけどこのままじゃ言いにくいから、よしおとかず子ということにしよう。10人を整列させてから、まず、よしおとかず子に前にでてもらって、あと残り8人が4人ずつよしおとかず子の周りに集まるようにすればいい。よしおのところに来る4人の選び方は、8C4通り。残り4人はかず子のところへいけばいい。次にこれは同じ人数のグループ分けの問題で、2つのグループが見分けがつかないことから、2!で割って……。

<よしお>

おいおい、まなぶ。それはまずいよ。見分けがつかないわけじゃない。よしおのグループって名前がついているじゃないか。

<まなぶ>

 よしおのグループ?よしおはリーダーのように目立つ立場は嫌いなんじゃなかったかい。まあ、仕切り派のかず子なら分かる気もするけど。

<かず子>

 ひどい言い草ね。そしたら私のいるグループは私が親分で、「かず子組」なんて名前がついていて、もうひとつのグループは何にも名前がないってこと。でも私は絶対に私のグループにまなぶはいれないから、もうひとつのグループは「かず子の嫌いなまなぶが入っているグループ」って名前がつくことになるわよ。

<先 生>

 ちょっと話が数学とはかけ離れてきたね。問題を整理しよう。一般にn組の構成個数が同じグループの場合、グループに区別がつけられない場合にはn!で割ってダブりを解消するんだったね。いまの場合、よしおとかず子が別々のグループにいるってことは固有の名前がつき区別がつくかどうかということになる。どうだろうか。

<まなぶ>

 だって先生、まず2人を前にだしたとき、よしおが左にいって、かず子が右に行き周りに他のメンバーが集まる場合とよしおが右、かず子が左にいく場合の2通り考えられるから、よしおは右と左どちらにもいる可能性があるんじゃないですか。その分のダブりを解消するために2!で割る必要があると思うんですけど。

<かず子>

 それは、2!で割るんじゃなく、私とよしおが右と左どちらを選ぶかということなんだから、その選び方2!を掛けるということだと思います。でも、別に私が左側にいて、よしおが右側いると固定して考えてもおかしくはないのではないの。だいたいなんで私がまなぶの為に右往左往しなけりゃいけないの。

<先 生>

 ちょっとまった。また脱線してきた。
 ではこの問題も(1)のときと同じようにスリムいてみようか。かず子とよしおとまなぶ、そして先生の4人で考えてみよう。
 かず子とよしおは違うグループだから、あとは先生とまなぶがどちらかに入ればいいかということだ。かず子のいるグループで考えるとまなぶどうなる。

<まなぶ>

 かず子と僕か、かず子と先生だから2通りです。

<先 生>

 このとき、よしおのいるグループは自動的に決定してしまうからこれが求める場合の数ということだ。次に先ほどのまなぶ流の分け方では、
   
となる。どうやらまなぶの方が間違っているみたいだね。

<かず子>

 先生。まなぶは間違ってないよ。だってわたしとまなぶの組は絶対できないから実質は1つよ。

<まなぶ>

 かず子。ゴメン。もう分かったよ。でも、グループに名前がついているってことがやっぱりしっくりこないなあ。

<先 生>

 それではちょっと見方を変えてみようか。混乱の原因は、よしおとかず子をまず選んでグループに名前をつけたってことだ。二人を主役にしてその後に脇役のメンバーを選んだということになるけど、この選出順を逆にしてみよう。まなぶ、2人を除いた8人を2つのグループに分ける方法は何通りだい。

<まなぶ>

 はい。8人から4人選んでその後……(不安げに)……2!で割っていいんですよね。

<先 生>

 この場合は問題ない。    
           となるね。次に、こうやって分けられた2つのグループによしおとかず子を入れてみよう。さてその方法は何通りかな。

<まなぶ>

 もちろん、2!通りです。だから求める場合の数は、
   
あっ、2!が消えた。

<先 生>

 分かったかな。ところでこの場合、二人の立場はグループのリーダーではなく後から加入した新参者ということになっているね。結局グループの性質を決めるのは必ずしもリーダーである必要はないんだ。グループの中に特定できる誰かがいればいいということになる。2!をかけるということは、2つのグループにA,Bの名前をつけ、固定することと同じことが分かるね。

<まなぶ>

でも、先生。その場合も結局後からはいったよしおとかず子がそのうちグループで勢力を伸ばしてリーダーになるってこと………。

<かず子>

 (話しを遮って)……いい加減にしなさい!


あとがき

 今年度第1回目の数実研研究会は、北海道札幌リコー(株)のMA事業部担当者のご好意により、会場を札幌駅前のニッセイMKビル会議室に移し、いまもっとも現場に近い電子機器である、メディアサイトを利用しての研究会でした。巨大な液晶デスクトップパソコンともいえるその画面は、マウスの代わりに指をタッチすることでソフトの立ち上げ操作が可能であり、チョークと化した指が色とりどりの数学を鮮やかに描いていく様をみて、誰もが最先端の技術に感銘し、21世紀の授業の1シーンを垣間見た思いがしました。

 さて、その研究会の後、興奮冷めやらぬ余韻を残して、数学好きのおじさん達が誰誘うともなく集まって寄った居酒屋ででた話題が今回の組合せの小手技です。発端は、

「昔は場合の数を求めるときには重複なく数えるっていうのが教科書に必ず載っていたけど、最近はないよなあ」
「そうそう、そういえば生徒からこんな質問でたんだけど、どう思う」      ………………………………………………………………………………
 フランクな人と人との付き合い。数実研の原点がここにあります。