ex) 円の半径をrとして切頭円柱の体積を求めよ。 |
<よしお>この大根でできた立体は、円の半径と高さが同じだから、直径を含むように、45゚の角度で包丁をいれたということですね。
<先 生>そういうことだね。ところでこの問題を解く前に、ちょっとおさらいだ。立体の体積はどうやって求めるかというと、立体を適当な方向にスライスして、それぞれの断片の面積を求めそれを集めればよかったんだよな。たとえば、円の円周の長さを年輪のように増やしていくと円の面積になる。円周2πrを積分すると円の面積πr2となるということだ。また、球面の表面積4πr2をチョコボールの表面にチョコをコーティングしていくように塗っていくと、球の体積 が求められる。
一般に、立体図形を例えばまな板の上に乗せて包丁で切った切り口の面積をS(x)として、それを端から端まで集めたものが立体の体積Vになる。
ということだ。したがって大根の体積を求めるためには、どうこの大根を切っていくか、すなわちその調理法を最初に考えればいい。今日の授業ては、まずみんなに大根の切り方を考えてもらって、その切り方ではどう体積が求められるかtryすることにしよう。
誰か、オリジナルの切り方を提案してくれないかい。
<よしお>はい、僕なら底面の切り口の直径に垂直に包丁を立ててスライスしていきます。
<先 生>ではまず、よしおの方法で料理してみようか。ところでそのときの切り口はどんな形になるだろうか。
<よしお>もともと円柱を45゚の角度で切った図形ですから直角二等辺三角形になります。
<先 生>これは分かり易いね。したがって大きさの違う直角二等辺三角形を端から端まで集めればいいということだね。ではその直角二等辺三角形の面積を次に求めよう。まな板の位置を図のx軸として、中心を原点とする。原点から右にx離れた点の直角二等辺三角形の面積を求めてみよう。
<よしお>はい。上図において、三角形OABは直角三角形で、OB=r(円の半径)ですから、
AB=BCより直角二等辺三角形ABCの面積S(x)は、
<先 生>いいですね。あとは集めて終わりだ。なお集める範囲は、原点の右側半分だけで十分だ。図形の対称性から2倍すればいいね。
<よしお> となります。
<先 生>さあ、このよしおの調理法がお手本だ。次は誰が挑戦する。
<かず子>はい、私です。私はかつら剥きにしたらどうかと思います。
<まなぶ>カツラムキってなんだい、かず子。
<かず子>いやーねぇ、外側から皮を薄く剥いていくことよ。
<まなぶ>さすが、技の職人、かず子だな。
<かず子>ちゃかさないでよ。
<先 生>でも確かに面白い切り方だね。
では、そうやって切って一皮剥いたものを広げるとどんな図形になるだろうか。
<よしお>図のような形ですよね。なんだろう?、円弧にも、放物線にもみえるな。
<かず子>サインのカーブですよね。洋服の型紙をつくっているときこんな形があったから、お母さんに聞いたら確かそういってたわ。
<先 生>その通り。かず子のお母さんは博識だね。洋服の首周りはこの形だものね。確認してみようか。 図の原点Oを皮むきの出発点にしよう。Oからx離れた点で剥くとき、剥いた皮の長さ、すなわち弧の長さは、半径xの円の円周の半分だからπxだね。このとき図の端点Aから中心角θ分だけ離れた点の皮の高さを求めてみよう。中心角θに対応する弧の長さは、xθ。このとき右図の底面は半径xの半円より円周上のy座標 x sinθ が高さに等しい。以上より、剥いた皮を広げると図のような形になる。
ここで、
(u,v)=(xθ,x sinθ)
とすると、関係式 が得られる。
さあ、これで剥いた図形が正弦曲線であることが分かったね。
では次にこの曲線の面積を求めてみよう。
<まなぶ>なんか難しそうですね。
<先 生>図をよくみてごらん。この正弦曲線の周期は2xπ、最大値はxだね。sinθの面積との関係はどうなっているだろう。
<よしお>そうか。縦横にx倍なんだからx2倍。だから面積S(x)は、
ですね。
<かず子>したがって、切頭円柱の体積は
よしおの結果と一致するわ。
<先 生>さあ、最後はまなぶの番だ。
<まなぶ>真打登場。料理の鉄人まなぶの腕の冴えをご披露しましょう。だいたい諸君の切り方は工夫はみとめるがいまいちだ。よしおの切り方は手際がいいけど切った図形はどれも直角二等辺三角形。図形にうまみがない。それに対してかず子のは確かにユニークだけど、かつら剥きするのにいったいどれだけ時間を要するのだろう。折角の新鮮な素材が痛んでしまう。この両者の欠点を補ったのが……
<かず子>ごたくはいいから早くしなさいよ。
<まなぶ>オホン。えーっ、僕の技は名づけて、円月殺法風車の舞。
<かず子>なにそれ。
<まなぶ>いいから聞けよ。包丁を直径に充てて、円の中心を通るように、トントントントーン、こう放射状に切っていくんだ。
<かず子>ふーん。まあ面白しろそうではあるわね。でもその切り方で求められるのかしら。
<先 生>これはいろいろな意味で興味ある切り方かもしれない。とにかく、求めてみようか。まず、切り口の図形はなんだろう。
<まなぶ>もちろん、直角三角形です。
<先 生>それではつきに辺の長さだ。放射線状に切るわけだから、底面の円の直径をx軸とすると、x軸の正の方向となす角θを0からπの範囲で変化させればいい。角度をθとして、直角三角形の2辺の長さを求めてみよう。
<まなぶ>えーっと、底辺の長さは底面の円の半径rです。三角形の高さは底面の円周上のy座標の値に等しいから r sinθです。
<先 生>そうすると切り口の面積は
ということだね。
<まなぶ>はい、だから体積は、θを0からπまで集めて、
あれっ?、おかしい。結果があわないぞ。なんで?
<よしお>計算が間違っていたところはなかったと思うけどな。先生、どこが間違っているのでしょう。
<先 生>実は、みんなに謝らなければならなことがあるんだ。先生、いままで嘘をついてきたんだ。
<かず子>えっ、いったいなんのことですか。
<先 生>みんなには立体をスライスした図形の面積を集めると体積になるっていっただろう。これは嘘なんだ。
<まなぶ>それのどこが嘘なんですか。
<先 生>考えてもごらん。面積を集めて体積になるなんてことがありえると思うかい。
<よしお>そういわれれば確かに。面積は二次元上のものだから、どんなに集めたって二次元を超えることなんてないですよね。
<先 生>その通りだ。面積を集めると体積になると言った方がインパクトが強いからみんなにはそういい続けてきたんだけど、正確にいうと面積を集めるのではなく、厚さが微小の体積を集めるということなんだ。
<まなぶ>大根の薄切りを集めるということですか。
<先 生>言い得て妙だ。大根をスライスしたって切り口だけ取り出すわけにはいかないだろう。どんなに透けて見えるほど薄く切っても微小の厚みはあるというわけだ。だから積分は、体積を集めて体積という当たり前のことをいっていたことになる。最初からこう表現してしまうとなんか味気ないだろ。
<かず子>まあ、いわれればそうですね。
<先 生>したがって、いま微小の厚みを凅とすると、切り口がS(x)である部分の体積は、S(x)凅。それをx軸方向に集ていくと体積になる。積分の記号∫はSum(和)のSを上下に引き伸ばして作ったんだったよね。
aからbまで Sum(集める) S(x)凅(x軸方向) ⇒ (凅がdxに替わる)
とみなせばいいということだ。
たとえばよしおの調理法では、 だけれども、これに微小の厚みを加えた立体に対して、それをすべて集めると、
となる。Δxが、dxに変わることに注意しよう。
<まなぶ>でもどうしてかず子やよしおの切り方だと求められて、僕のだと駄目なのです。
<先 生>切り取られた図形を考えてごらん。かず子とよしおの図形の厚みはみな微小だけど同じ厚みだろう。まなぶのはどうだろう?。
<まなぶ>あっ、僕のは放射状に切ったのだから厚みが違ってくる。
<先 生>ではそれはどんな図形かな。
<まなぶ>はい、底面の半円の中心を頂点とする角錐になります。
<よしお>そうか、だからこの場合は角錐を集めてもとの立体に復元すると考えればいいんだ。
<先 生>そういうことだ。角度θから、微小な角度Δθ増えたときの角錐の体積を求めてみよう。 なお、微小角を中心角とする弧の長さは線分とみなしていいわけだから、底面の図形は、長方形として考えてごらん。
<まなぶ>そうすると、弧の長さは rΔθ、もう一辺の長さは先ほど求めた r sinθだから、長方形の面積は、r2sinθΔθです。角錐の高さはrより、したがってその体積は、
となります。先生が先ほど示したように、
とみれば、求める体積は、
やった、先生、一致しました!。
<かず子>でも結局先生の手助けを必要としたんだから、まなぶの調理の腕もたいしたことないわね。
<まなぶ>なにいってんだい。ぼくのこの切り方がなかったら先生は嘘をつき続けたってことだろ。僕の解法を通して真実が暴かれたんだし、同時に、新しい調理の可能性が開けたってことじゃないか。肉を切らせて骨を絶つ。これこそ料理の極意だと思うな。
<かず子)なに、訳の分からないこといってんのよ。
この長方形の横の長さは、 、縦の長さはxですから、その面積は、 、これを0からrまで集めると、
r2-x2=tとおいて、両辺の微分をとり、-2xdx=dt
x | 0 → r |
t | r2 → 0 |
これから、
この切り方は置換積分の復習の好例となります。
あるいは、底面に平行にスライスすることを考える生徒もいるでしょう。
切り口は円弧になります。この円弧を集めてみましょう。
底面の半円の中心を通り、半円に垂直にx軸を立て、x離れた点をA(x)とします。
この点で切ってできる円弧の面積を求めます。
図形を上から見下ろすと、図の形になります。扇形ABCから三角形ABCを引いた部分が切り口の面積S(x)になります。円周上の点Bが、横軸の正の方向となす角をθとすると、
よって、S(x)=r2(θ-sinθcosθ) となります。
さて、これをxについて、0からrまで集めればいいのですが、xで積分することはちょっと大変です。そこで、θに対するパラメータ積分で計算します。
以上より、 が得られます。
したがってこの切り方は、パラメータ積分、部分積分の復習例となります。
このように、切り口の図形が、直角二等辺三角形、直角三角形、円弧、正弦曲線、長方形といろいろ変わると、応じて体積の求め方が工夫され、一通りの学習が可能となります。教科書のように単発で終わらしてしまうにはもったいない題材かと思うのですが。
ところで、上述以外の切り口は果たしてあるでしょうか。たぶん、生徒がいいアイデアをだしてくれると思います。最後に切頭角柱の体積は、重心の性質を利用すると、次のように求めることもできます。
切頭角柱の底面の図形の面積をSとし、その図形の重心Gにおける角錐の高さをhとすれば、体積Vは、
S=Sh
で与えられます。
立体の体積を平面をスキャンしたあとに空間をスキャンすると考えれば、導き出せます。これを利用して、切頭円柱の体積を計算してみましょう。
まず、底面である半円の重心ですが、右図x軸上にあります、その位置をG(g)とすると、
で求められます(拙著レポート「四角形のへそ」参照)。よって、
(分母)=(半径rの1/4円)= , (分子)= ですから、
∴
右図△OGHは直角二等辺三角形より、
h=GH=OG=g
よって、