札幌新川高等学校 中村文則

○遠回りしましょ!

<先 生>

 まず、前回の復習からだ。

ex) 次の数列{an}の一般項を求めよ。
 (1) 1・1, 2・3, 3・5, 4・7, 5・9, 6・11…………
 (2) 1,1+2,1+2+4,1+2+4+8,1+2+4+8+16,1+2+4+8+16+32…………

 よしお、解答してごらん。

<よしお>

 はい、(1)は簡単です。an=n(2n-1) です。次に(2)の第n項目は、
    an=1+2+22+23+24+25+………+2n-1
より、初項1、公比2、項数nの等比数列の和ですから、
    
となります。

<先 生>

 さらにこの数列{an}の初項から第n項までの和も、狽フ公式を使えば簡単に求められるんだったね。
 さて、それでは、今日の問題を考えてみようか。

ex) 次の数列{an}の一般項を求めよ。
 (1) 1, 6, 15, 28, 45, 66, …………
 (2) 1, 3, 7, 15, 31, 63, ………………

<先 生>

 誰か一般項をいってください。

<生徒達>

 ………

<かず子>

 先生、規則性がまったく分かりません。いえと言われても………。

<まなぶ>

 ……!。先生、分かりました!!!  (1)は、an=n(2n-1), (2)はan=2n-1 です。

<よしお>

 えっ!。どうしてすぐ分かるんだい?

<まなぶ>

 何いってんだい。これ、復習問題の(1),(2)の数列の各項の数値を計算しただけのものじゃないか。

<かず子>

 あっ、ほんとだ。先生、それはないよ〜。

<先 生>

 みんなを騙すつもりはなかったんだけど、実はこれはとても重要なことを意味しているんだ。 仮にみんなが復習の問題をやっていなかったとしたら、先ほどかず子がいったようにまったく規則性を見出せず、この数列の一般項は求められなかったということだ。いままでやった問題は、数列の各項が「自分はこんな規則性をもっているよ」ってアピールしているものばかりだったね。しかし、中にはへそ曲がりがいてその規則性を隠している数列もあるんだ。ではそういった数列の一般項はどうやって求めたらいいんだろうか?

<まなぶ>

 実は、僕も、規則性がまったく分からなかったから「もういいや」と思ってたまたま復習の問題に目を移してボーっと眺めていたら気がついただけなんだ。この数列だけから規則性を見つけることは無理だと思いますが。

<先 生>

 そこでだ。実は規則性が見つからなかった場合の奥の手がある。その技について学ぼう。
 ちょっと作業をして貰おう。(1)の数列の隣り合っている2項の(番号の大きいものから小さいものの)の差を求めてごらん。

 どうだろう。隠されていた数列の規則性を暗示するような項の並びが現れてこないだろうか。これも、ひとつの数列と考えることができる。この数列を元の数列の階差数列という。ところでこの階差数列はどんな規則性をもっているだろうか。

<まなぶ>

 へーっ、不思議だなあ。等差数列になっている。

<先 生>

 その通り。初項が5で公差が4の等差数列だ。では一般項はよしお、どうなる。

<よしお>

 4n+1 となります。

<先 生>

 では次に階差数列の項と元の数列(原数列)の項との関係を調べてみよう。
 例えば a2=6であるけれど、6=1+5と分解することができる。次にa3=15は、15=9+6=9+5+1
 こうしてみると、数列{an}の各項は、階差数列を利用して分解できることが分かるだろう。
    a6=66=45+21=(28+17)+21=(15+13)+17+21=(6+9)+13+17+21=1+5+9+13+17+21
 これから第n項anを分解すると
    an=1+(5+9+13+17+21+…………+○)
となるけど、この最後の項の値○はなんだろうか。

<まなぶ>

 4n+1じゃないんですか。

<先 生>

 まなぶ、階差数列の項数は何個だろうか。a1からanの各項の間に項を作っていったんだから。

<まなぶ>

 あっそうか。n-1個です。

<先 生>

 原数列の項数より1つ減ることに注意しよう。したがってその値は何かな。

<まなぶ>

 はい、階差数列は、公差が4の等差数列ですから、n-1項目は、
    4n+1-4=4n-3
となります。

<よしお>

 先生。階差数列の一般項は、4n+1ですから、nをn-1と読み替えて、
    4(n-1)+1=4n-3
でもいいんですよね。

<先 生>

 実は、よしおのいっていることは数列の問題を解く上でとても重要なことだ。数列{an}の添字をどう扱うかが数列の単元の理解の鍵となる。そのことはあとで考えてみよう。さて、これで階差数列の末項が分かったから階差数列を利用して数列{an}の一般項を求められる。かず子、計算してみよう。

<かず子>

 a1に、初項5,末項4n-3,項数n-1の等差数列の和を足せばいいんだから、
    

<先 生>

 どうだろう。復習問題の(1)の答えと確かに一致したね。では同様に(2)をやってごらん。

<かずお>

 えーと、階差数列は、初項が2で公差が2の等差数列で、第n-1項までの和だから、
    
となります。

<先 生>

 さあ。以上より階差数列を利用すると、元の数列の一般項が求められるということがわかったね。まとめると、
    (数列の第n項)=(数列の初項)+(階差数列の初項から第(n-1)項までの和)
ということになる。次にこれを公式化してみようか。
 数列{an}の階差数列を{bn}とする。
    
となる。

<まなぶ>

 先生、何か難しくなってきたけれど、さっきやったように図をみてやればできるんだからこんな公式は必要ないんじゃないですか。

<先 生>

 その通りだ。

<まなぶ>

 えっ!。先生、反論しないんですか。

<先 生>

 まなぶのいっていることは間違いじゃない。ではなぜこんな公式が必要かというとそれは「思考をラクする」ためなんだ。

<かずお>

 思考をラク……ですか。

<先 生>

 うん。先ほどまなぶが等差数列のn-1項めの値を公差を利用して求めたろう。ところがこの狽フ公式はそういった細かい部分の思考を和らげることができる。ベキ和の公式においてnをn-1と読み替えるだけなんだ。実際、(1)の階差数列の一般項はbn=4n+1だから
    
となる。要は狽フ計算ができれば階差数列{bn}はどんな数列であったって構わない。計算がマニュアル化されてしまうということになる。そういった意味での思考のラクさがあるというわけだ。

<まなぶ>

 少し分かった気がするけれどなんか味気ないですね。

<先 生>

 味気ないと同時に実は困った問題も起きてくる。この公式はよくみると完全ではないんだ。

<まなぶ>

 どうしてですか。

<先 生>

 数列{an}は、n≧1で定義されてるね。ところでこの公式で求められない項はないだろうか。

<生徒達>

 ………

<よしお>

 分かりました。n=1の場合ですね。

<先 生>

 詳しく説明してごらん。

<よしお>

 はい。公式にn=1を代入すると、
    
となりますが、狽フ定義から は、初項から第0項までの和となって意味をもたないからです。

<先 生>

 その通りだ。したがって、
    
であり、a1の値が公式で求めた{an}とまとめられるか確認をしなければならないんだ。
 例えば(1)の場合は次のように書く。
a1=1 は、an=n(2n-1) (n≧2)   においてn=1とした場合に一致する。
よって、 an=n(2n-1) となる。

<まなぶ>

 なんかすごく煩わしいですね。初項が一致しないことなんかあるんですか。

<先 生>

 ない。

<まなぶ>

 じゃあ、なんでそんな確認が必要なんですか。

<先 生>

 数学の論理性へのこだわりといえばいいんだろうか。マニュアル化した以上は公式として完璧でなければならないんだ。でも、みんなが最初に考えた方法もn-1項めまでの和を考えているということでいえば、n≧2でしか実は成立してはいない。したがってn=1の場合を吟味するのはやはり必要なわけで、そのことも含めて公式としてマニュアル化したと考えればいいのではないだろうか。

<まなぶ>

 数学を作ったのは数学者だから結局その数学者のこだわりということになるかと思いますが、あんまつ付き合いたくないですよね。なんとかならないんでしょうか。

<先 生>

 すべてのケースに適用するのは難しいけれど、ある程度は解決できる。

<まなぶ>

 どうするんですか。教えてください。

<先 生>

 今日の授業の出発点を戻ってごらん。階差数列はどういったときに考えるんだろう。

<まなぶ>

 もとの数列の一般項がすぐだせないときです。

<先 生>

 そうだね。ではすぐ出せれば問題はないわけだ。

<まなぶ>

 そりゃ、そうですけど、すぐだせないから階差を考えたのではないですか。

<先 生>

 その階差は原数列から作ったものだから当然原数列の性質を反映したものになっている。

<まなぶ>

 先生、よく分かりません。

<先 生>

 階差数列が等差数列になる場合を考えてごらん。一般項はnの1次式で表される。したがって、原数列の一般項は、等差数列の和を考えると、nの2次式になるだろう。

<まなぶ>

 余計、分からなくなりました。

<先 生>

 では階差数列が等比数列の場合を考えてみよう。初項b、公比rとすると、
    
 だから{an}は公比rの等比数列が少し横にスライドするだけに過ぎない。(2)の場合、階差数列である等比数列の公比は2だから、{an}の一般項をなんとか2の累乗を利用して表現できないかと考えてやる。そうすると案外規則性は見つかるもんなんだ。

<かず子>

 なるほど。では、(1)の階差数列が等差数列になっている場合はどうするんですか。{an}がnの2次式ということは分かりますけどその規則性を見つけることは難しいと思いますが。

<先 生>

 例外が1つある。2次式でも簡単に一般項が予想できる形といったら何だろう。

<よしお>

 定数項を含まない2次式ですか。

<先 生>

 正解だ。an=pn2+qn=n(pn+q)とみてやれば、pn+qは等差数列を表すから簡単に一般項を予測できる。さて、そこでだ。いま階差数列がbn=pn+qであるとして、一般項anをちょっと計算してみよう。
    
 さて、ここで、a1-qの部分がなければいいわけだ。すなわち原数列の各項にq-a1を加えてスライドしてやると定数項を含まない2次式になるはずだ。exの(1)の場合、
    1, 6, 15, 28, 45, 66,
に対してbn=4n+1 だから 1-1=0 だからこの数列の一般項はもともと定数項を含んでいないことがわかる。よって、
    1・1, 2・3, 3・5, 4・7, 5・9, 6・11,……………,n(2n-1)
と予想できることになる。別の問題で確認してみよう。

ex) 次の数列{an}の一般項を求めよ。
  2, 4, 9, 17, 28, 42, 59,…………

<まなぶ>

 階差数列は、
    2, 5, 8, 11, 14, 17, ……
だから、等差数列で一般項は、3n-1です。したがって、-1-2=-3  を原数列に加えて、
    -1, 1, 6, 14, 25, 39, 56,…………
 これから一般項を予想すると、
    
 よって求める数列の一般項は、
    
となります。

<先 生>

 できたね。ただこの解法を実践に生かすのは難しい。なぜかというと数列の多くの問題がマニュアル化されたものになっているからだ。諸君はこのあと漸化式なる数列の圧縮された形から一般項を求める問題にtryすることになるが、その過程で階差数列の計算が必要となってくる。そのとき、「公式の形式のこだわり」にこだわっていると、マニュアル化された計算が途中でストップしてしまうことになるんだ。結局は階差数列の公式として暗記し、n=1の例外も、解答の中のまとめの言葉として覚えるのがbestということになる。たまには数学のこだわりに妥協してやるのもいいじゃないか。


あとがき

 この本文の前半は階差数列の導入の指導案です。階差数列の問題は、規則性がまったくみえない数列を並べておいて、その数列の一般項を階差を使って求めることから入ると思いますが、生徒にとっては結果がなかなか見えないままに五里霧中で進んでいくわけで、それをあらかじめ、一般項がどうなるのか与えておいて本文のように階差の説明にはいると分かりやすいのではないかと思います。

 数列の多くの問題は、「一般項とその和を求めよ」という問題に帰着してしまいます。では、どうやって求めるかということの方法論の展開と考えて差し支えないでしょう。その中で階差数列の位置付けはというと、端的にいうと「回り道の論法」ということになるかもしれません。しかし実際は、規則性の見出せない数列の項を羅列して、どうすると迫ってしまう。そうではなくて、「一般項が見つかればいいんだけれど見つからない場合は回り道をすることで求められる」というように非常手段として押さえることで教わる側も安心するのではないでしょうか。

 本文の後半は、まったくの脚色で、ナンセンスな内容になってしまいました。こういった考え方をすると何でもありになってしまいます。nの2次式になるのなら、3点 (1,a1),(2,a2),(3,a3)を通る放物線の方程式を求めてもいいということでしょう。

 ただ、階差数列による解法の2つの2つの点は、やはり頭を悩ますことではあります。
  @ 階差数列の初項からn-1項までの和の計算
  A n≧2の制限
 これを何ととか解消する手立てということで本文の後半を書いたのですが失敗でした。n-1の問題は、
    Sn= an-an-1
でも扱うわけですから、もちろん指導上大事なこととは思いますが、階差数列の場合はやっぱり付けたしという感は否めません。

 そこで、ちょっと別の観点からこのことについて考えてみましょう。

 @,Aという2つの問題点を上で列挙しましたが、実はこの2つは本質的には同じものです。@の計算のためにAを考える必要が生じたと解釈した方がいいかもしれません。それならば、階差数列の和をn項目までとるようにすれば問題は解決するということになります。そこで、
    bn=an-an-1  (n≧2)
ように一つ階差をずらしてやります。すると、
    
となります。しかしこの場合もn≧2でしかanは求められません。それで、ここでダミーとしてあらかじめa0を定義しておけば、
    
となりすべての自然数nに対してanは求められることになります。

 本文の例題で考えてみましょう。ex)(1)は、右図のように階差が4の等差数列ですから階差数列の初項として、
    b1=5-4=1
を考え、さらにa0=a1-b1 とすれば、
    a0=1-1=0
となります。以上より、次のように解答します。

 a0=0 とすると、階差数列{bn}の一般項は、
    bn=4n-3
 よって、
    
となります。同様に、ex(2)についても、
    a0=0  (b1=1 に対して)
と定義すると、bn=2n-1ですから、
    
 さらに、漸化式についても次のように扱えばいいことになります。

ex) 次の漸化式で与えられる数列{an}の一般項を求めよ。
  a1=3, an+1-an=3n+1

 n=0を代入して、a1-a0=1  ∴ a0=2
 {an} (n≧0) の階差数列は、
    bn=an-an-1=3n-2
より、
    

 さて、この解法は市民権を得るでしょうか。