<まなぶ>はい、∠AOHです。
<先 生>そうだね。ここで三角形AOHは直角三角形だから、求めるOHの長さは三角比を考えると、
OH=OAcosθ
で与えられます。OA=|n|ですから、OH=|n|cosθ 、これが求める垂線の長さということになります。ところで問題はこの の値はなんだろうか。
<生 徒> ………
<先 生>θの意味をよーく考えてごらん。
<まなぶ>えーと、θは直線とx軸のなす角だから、……。
<先 生>そう、角度が変わると直線の何が変わるのだろう。
<よしお>直線の傾きですか。
<先 生>その通り、では三角比で傾き(傾斜)を表すものはなんだったろう。
<かず子>タンジェントです。
<先 生>そうだね。だから、
tanθ=m
なる関係式が得られるね。だいぶ、目標に近づいてきた。あとは、タンジェントをコサインで表現すればいいのだけれど、これは以前、三角比の学習でやったのだけれど、とうすればいい、まなぶ。
<まなぶ>えっ、あのう、忘れました。
<先 生>では、思い出してごらん。cos2θ+sin2θ=1をちょっといじればおしまいだ。
<まなぶ>そうか、タンジェントを作ればいいんだから、両辺をcos2θでわると、
となります。
<先 生>その通り。さあ、これから、
となるから、 ………(*)
で与えられる。ずいぶんきれいな式で表現できたね。
では、次に、(*)を利用して、点A(x1,y1)と直線y=mx+nとの距離を求めよう。これはカンタンだ。(*)を使えるように定点が原点になるように図形を平行移動すればいいだけだ。では、x軸、y軸方向にどれだけ平行移動させればいいだろう。
<よしお>はい、x軸方向に、−x1,y軸方向に−y1です。
<先 生>そうすると、直線の方程式は、
y+y1=m(x+x1)+n すなわち、y=mx+mx1−y1+n
となる。以上より、点と直線の距離AHは、
……(**)
となるね。
<まなぶ>先生、なんだか式が汚くなっちゃったように思えますけど。
<先 生>そうだね。ではこれをもう少し見やすくしてみようか。いままで、定直線は標準形であらわしたけど、今度は、一般形ax+by+c=0として表現してみよう。これを公式に適用するために、傾きとy切片を求めてごらん。
<よしお> ですから、です。
<先 生>ではこれを(**)に代入すると、
どうだろう。点と直線の距離が、ずいぶんすっきりした公式でまとめられたね。
そこで、上の小手技ではそこのところにこだわって、「有機的組立て」を重視してまとめてみた。有機的組立てとは、「数学T」から「数学U」へのスムーズな橋渡しのことである。点と直線の単元は、数学Tの三角比の後に、数学Uで扱われるが、手法でいえば、古来の幾何的に図形の性質を調べることから、図形をデカルト座標上に置き換え、代数的に処理するものである。したがって、指導の流れとしても三角比のもつ性質が座標上でどう表現されるかその結びつきから点と直線の関係を述べたほうがいいのではと思う。
例えば、2直線の垂直条件については、直線とx軸の正の向きとがなす角をθとすると、垂直な直線とx軸とのなの角はθ+π/2であるから、
なる関係がえられる。これを代数的に解釈すると、2直線の傾きをそれぞれm,nとすると、
となるわけである。同様に点と直線の距離の公式は、y切片が±1で、傾きがtanθである直線と原点との距離dで考えると、
で与えられる。
一般には、円x2+y2=p2の円周上の点、H(pcosθ,psinθ)における接線の方程式(右図)、
xcosθ+ysinθ=p
を直線の正規方程式(Hesseの標準形)というが、このとき原点と直線との距離はOH=pであるから、P=sinθの場合が上述の三角比の公式にあたることがわかる。
こういった背景を踏まえて、点と直線の距離の公式は導かれるべきではないだろうか。
ところで、本文の説明は実はずいぶん乱暴なところがある。それは、直線の方程式を
y=mx+n (m>0,n>0)
と制限してしまっていることである。m=0,m<0,n=0,n<0は、意識的(作為的)に避けている。
これは、公式をビジュアルなイメージとしてとらえたかったためである。
厳密には、原点と直線の位置関係は左図のように、4つのcaseが考えられる。このそれぞれに対して直線が、x軸の正の方向となす角θを設定して距離を求めるわけである。しかし、直線をx軸対称、y軸対称しても原点と直線の距離は不変であるわけだから、1つの場合だけを導けば十分であろう。
ここの部分の説明は、学校現場において厳密性の許容度が異なるように思えるが、多くの学校は、本文の説明で事足りるのではないだろうか。
なお、本文を記述した後、現在出版されている教科書で、点と直線の距離を図形的に解釈しているものがないかと、ふと思い、調べてみたところ、近年出版された、K書店の説明が、直角三角形の相似比を利用したものであった。
徐々にではあるが、数学教材の視覚化は、浸透してきているのかもしれない。