札幌新川高等学校 中村文則

○漂う三点と切片形の深い関係

<先 生> 今日は、放物線決定問題の復習をしよう。

ex) 次の3点を通る放物線の方程式を求めよ。
 (1) A(3,0),B(2,0),C(0,6)
 (2) A(1,3),B(3,3),C(4,9)
 (3) A(−1,35),B(2,5),C(5,11)

 まずは(1)を解いてごらん。

<まなぶ>ぼくはこの3点通過の問題は嫌いなんだよな。ただ放物線の一般形に3点を代入するだけだろ。なんか面倒くさくて。

<かず子>なにいってんの。(1)の問題は、3点といっても特別な点じゃないの。

<まなぶ>えっ、あっ、そうか。軸との交点だ。そうすると一般形じゃなくて、何ていったっけ。セップン……。

<かず子>いやーね、切片形よ。x軸との交点を(α,0),(β,0)とすると、放物線はy=a(x-α)(x-β)と表されるわ。

<よしお>だから、この場合は、y=a(x-3)(x-2)。 ここで、点Cを代入してグラフの開きaを求めると、a=1
 以上より、y=(x-3)(x-2)

<かず子>つぎは、(2)ね。これはまなぶがいうように単純に代入するしかないわね。

<先 生>そうだろうか。この問題の3点もその値に注意してごらん。

<まなぶ>なにかあるんでか。ずいぶん3が並んでるのは分かるけど……。

<よしお>そうか。AとBのy座標が同じということですね。

<まなぶ>どういうことだい。

<よしお>放物線の対称性を考えればいいんだ。点Aと点Bの高さが同じということは、その2点の中点は軸上にあるということだろ。

<まなぶ>そうか。すると軸の方程式はx=2だから、放物線はy=a(x-2)2+qとおけるから、あとは点を代入してa,qを求めればいいんだ。

<先 生>そうだね。でも、もっと別な見方をすることもできる。3点のy座標から3を引いてごらん。

<かず子>3点は、(1,0),(3,0),(4,6)となりますね。あっ、これ(1)と同じだわ。

<先 生>これは図形的にはどう考えればいいのかな。

<かず子>グラフをy軸方向に−3平行移動させて、切片形にしたということですね。だから、y=a(x-1)(x-3) に点(4,6)を代入して、a=2。したがって、y=2(x-1)(x-3)。そして最後にまたy軸方向に3平行移動させると、y=2(x-1)(x-3)+3=2x2-8x+6となります。

<先 生>その通りだ。ただこの場合は基準を切片形から始めた方が楽だ。(1,0),(3,0)を通る放物線をy軸方向に3平行移動したものとみてやれば、求める方程式は、y=a(x-1)(x-3)+3とおける。あとは点B(4,9)を代入すればいい。では最後は(3)だね。

<よしお>これはもうどうしょうもないですね。一般形y=ax2+bx+cに代入して、……。

<まなぶ>よしお、まてよ。僕は他の方法があると思うな。

<よしお>どうしてだい。

<まなぶ>だって、(1),(2)の問題をみてみろよ。切片形で解いているだろ。先生のしつこい性格を考えると(3)だけがただ代入するなんて何か腑に落ちないよ。問題の点だってわざと計算が面倒なような数値にしているし。

<先 生>あまり論理的な推理とはいえないが、間違ってはいない。実は今日の本当のテーマは3点通過の放物線を切片形で解いてみようということなんだ。

<よしお>先生、この3点はなにか特殊な点なんですか。

<先 生>いや、先生が、適当にとった点だよ。

<よしお>それではどんな3点が与えられても切片形で方程式が求められるってことですね。

<先 生>そう、それも実に簡単にできるんだ。

<かず子>でも、(2)と違って高さが違っているわけだから、難しいような気がするんですけど。

<まなぶ>だから、高さを同じになるようにすればいいってことなんだろうけど、分からないなあ。

<先 生>ヒントをあげよう。3点のうち2点、そうだなBとCにしようか、この2点を通る直線の方程式をまず求めよう。

<まなぶ>傾きは、 だから、y=2(x-2)+5=2x+1

<先 生>次に3点を通る放物線を適当に予想して描き、求めた直線BCを引いてごらん。切片形が見えてこないかい。

<よしお>確かに、放物線によって直線が切られているわけだからこの部分を切片とみれないことはないけど傾いているからまずいですよね。

<かず子>それじゃあ、直線とx軸との交点を中心として放物線上の2点B,Cがx軸上にくるまで回転させたらどうかしら。

<よしお>うーん、でもそれだとx座標の値も変わってしまうし、それを求めるのも大変だよ。第一軸がy軸と平行でなくなってしまう。できればx座標の値を変えないで、切片形を作れれば最高なんだけど。

<まなぶ>みんな、何そんなに難しく考えているんだい。簡単だろ。放物線の方程式から2x+1を引けばいいだろ。ほら、こうやって、放物線上の各点から2x+1の値分だけ引いて点をプロットすると切片形が浮かんでくるだろ。

<かず子>本当だわ。でも、もともとの放物線が分かっていないのだから引きようがないと思うけど。

<よしお>いや、大丈夫だよ。(2)を解くときに先生がいってたろ。もとの放物線を基準にするんじゃなくて、切片形を基準にした方が考えやすいって。だから、切片形に2x+1の値を加えたものが、もとの放物線とみなせばいいんだ。

<先 生>結論がでたね。まなぶのいうとおりだ。求める放物線から2x+1分y座標の値を引いてやると切片形となる。1次式を引くわけだからグラフの開きは変わらない。2次の項の係数をaとすると、切片形の方程式はどうなる。

<まなぶ>点B,Cのx座標から、y=a(x-2)(x-5)です。

<先 生>そう、この切片形を基準にしよう。そうすると求める方程式はどうおけばいい。

<かず子>はい、逆に2x+1分だけy軸方向に上げればいいんだから、
   y=a(x-2)(x-5)+2x+1
となります。あとは、aを求めるために、点Aの座標を代入すればいいんですね。
 18a-1=35 よりa=2, だから、y=2(x-2)(x-5)+2x+1=2x2-12x+21
 へーっ、先生、出来ました。

<先 生>いまは、2点B,Cで求めたわけだけど、では、試しに今度はA,Bで計算してごらん。

<まなぶ>ぼくがやります。
 まず、直線ABの方程式の傾きは-10より直線の方程式は
   y=-10(x-2)+5=-10x+25
 だから、求める方程式は、
   y=a(x+1)(x-2)-10x+25
とおけます。最後に点Cを代入して、18a-25=11 よりa=2
 以上より y=2(x+1)(x-2)-10x+25=2x2-12x+21
 凄いですね。簡単に求まっちゃうんだ。

<先 生>3点通過の問題は、放物線上の2点で切片が決まることより、この2点がグラフの幅を表していることになる。そして残りの1点で、切片から頂点までの高さが決まり、開きが確定することを表しているわけだ。これで、まなぶの単純に数値を代入して求めてしまうことへの不満は解消できたことになるね。


あとがき

 本文中の3点通過の関数決定におけるまなぶの不満は指導側の不満を代弁しています。
 2次関数の決定問題を解くには、条件中のkey-wordから2次関数の三態を使い分けます。三態とは、
   @一般形 y=ax2+bx+c  A標準形 y=a(x-p)2+q  B切片形 y=a(x-α)(x-β)
です。軸、頂点、x切片などのkey-wordは、三態に直結するわけです。
 この三態はグラフの開きを表す2次の項の係数を共有し、問題によって、三者三様の輝きをみせます。
 その輝きは、当然、key-wordに反映されているわけですが、関数決定問題において、3点通過の場合だけは、途端に輝きを失ってしまいます。3点通過の通例の解答は、「3点を一般形に代入する」ことになりますが、これを3点をkey-wordと捉えて、一般形を使うと考えればそれはそれで一貫性はあるですが、何か、釈然としないのです。それは、たぶんグラフそのものの性質がまるで見えてこないからです。単純に数値を代入するだけの計算問題となり、3点のそれぞれのもつ意味は黙殺されたことになります。
 3点通過のグラフはなにも放物線に限られたわけでなく、例えば円だって考えられます。しかし、円の場合は、「円の中心は弦の垂直二等分線の交点」という性質を使えるわけですから、それぞれの3点は生きてくるわけです。
 そこで、この3点、とりわけx座標の意味に拘ってみたのが本レポートです。
 この切片形の話題は、過去、数実研究夏季セミナーにおいて藻岩高校菅原先生のレポート「切片形からみた二次関数のグラフ」で報告されています。
 菅原レポートは、放物線の一般形y=ax2+bx+cを、y=x(ax+b)+cとみることで、切片形への変換を図っています。y=x(ax+b)をy軸方向へ平行移動することで、x軸と交点をもつ場合でしか適用できなかった切片形を一般化し、かつ放物線の一般形と連結させました。さらに、2切片における接線の交点、すなわち極点を利用して軸の方程式、および頂点の座標を導きだし、標準形へと発展させる非常に斬新かつユニークなレポートでした。
 これに対し、本レポートで扱った切片形も、y=a(x-α)(x-β)からの変形を試みますが、平行移動という概念ではなく、むしろ、和関数の亜種とお考え下さい。従来の和関数は、基本形y=ax2に直線を乗せることで一般形を合成しましたが、ここでは、切片形に直線を乗せることで一般形への変換を試みたわけです。和関数ではグラフの開きが決まった放物線に対して、直線を加えることで、頂点が形成され、グラフが確定していくわけですが、切片形においてもその性質は保存されています。したがって、開きを固定して考えれば、2つの条件要素があれば十分であり、その条件が通過2点ということになります。
 本文では、視覚的配慮のためそのことをずいぶんと大雑把に結論づけてしまいましたが、以下、証明してみましょう。

【性 質】
 放物線y=ax2に平行で、2点A(α,f(α)),B(β,f(β))を通る放物線の方程式は、直線ABの方程式をy=g(x)とすると、
   f(x)=a(x-α)(x-β)+g(x)
で与えられる。

 放物線の方程式をf(x)=ax2+bx+cとします。
 直線ABの方程式は、
   
よって、
   
 以上より、    f(x)=a(x-α)(x-β)+g(x)
 ex1) y=3x2で、2点A(1,2),B(4,5)を通る放物線の方程式を求めよ。
 解) 直線ABの方程式は、y=x+1より、求める放物線の方程式は、
   y=3(x-1)(x-4)+x+1
    ∴ y=3x2-14x+13

 次に、切片形と、一般形、標準形との関係をみてみましょう。

(1)切片形⇔一般形
 一言でいうと、「解と係数の関係」ということになります。
 この関係自体が切片形から導かれたものであり、その利用法が相互の変換を表しています。

(2)切片形⇔標準形
 f(x)=a(x-α)(x-β) とすると、放物線の軸の方程式は、その対称性から明らかに
   
となります。また、頂点のy座標は、この値を代入しても求められますが、f(x)のグラフの開きから、頂点から切片の値の増減を、
   
と読み取ることができます。以上より、
   
と標準形への変形が完成します。標準形から切片形は二乗差の因数分解の公式より得られます。
 では、x軸との交点がない場合ですが、これは菅原レポートに拠ります。
   
より、
   軸の方程式は、 、頂点のy座標は、
となります。
 このように、二次関数の三態は容易に他の型へと変換が可能になります。基本的には前述したように、平面上の2点が与えられていれば、切片形からのアプローチが可能といえるでしょう。

 ex2) 2点A(1,2),B(4,8)を通りx軸に接する放物線の方程式を求めよ。
 解) 直線ABの方程式は、y=2xであるから、
      y=a(x-1)(x-4)+2x=ax2+(-5a+2)x+4a
  とおける。右辺=0の判別式をDとすると、
      D=(-5a+2)2-16a2=(a-2)(9a-2)
  x軸と接するからD=0より、a=2,2/9 を得る。

 また、切片形は、本来、放物線と定数直線との交点の意ですから、切り取られた弦の長さに関係する問題は切片形の領分になります。

 ex3) 放物線y=x2-2ax+a+1 がx軸から長さ2の線分を切り取るとき、aの値を求めよ。
 解) 軸の方程式は、x=aであるから、切片のx座標は、a-1,a+1である。
  y=0とする二次方程式において、解と係数の関係より、
      (a-1)(a+1)=a+1 ∴  a=-1,2

 ex4) y=2x2-3x+1 を原点を通るように平行移動した放物線の方程式を求めよ。
 解) y=(x-1)(2x-1) より、x切片のx座標は x=1,1/2。よって、切り取られる弦の長さは 1/2。
  また、グラフの開きは2であるから、
      

 ところで、切片形では通過2点から、グラフの開き以外の要素が確定できます。そして、残り1点を代入することで、グラフの開きを確定し、放物線が決定するわけですが、では通過3点から最初にグラフの開きを確定することを最後に考えてみましょう。
 とりあえず、通過3点A(α,f(α)),A(β,f(β)),C(γ,f(γ))を通る放物線の方程式を単純に代入することで求めてみます。
 放物線の方程式をf(x)=ax2+bx+cとし、3点を代入します。
   
より、
    ………(*)
 ここで、
   
 よつて、
   凵=|(α−β)(β−γ)(γ−α)
 これから(*)に3点を代入することで、二次関数の各項の係数a,b,cが得られますが、実際の問題ではこんな計算は面倒なばかりなんの役にも立ちません。
 ただ、グラフの開きを表すaの値をみると、
   
と変形することができます。
 この計算を次図のようにモデル化してみましょう。、グラフの開きがリズムカルに計算できます。

 

 例えば、次の問題。
 ex5) 3点A(1,−2),B(2,1),C(3,8)を通る放物線の方程式を求めよ。
 解) 3点A(1,−2),B(2,1),C(3,8)を通る放物線のグラフの開きaは、
     (分母)=(1−2)(2−3)(3−1)=2
     (分子)=(1+4)+(16−3)+(−6−8)=4
  よって、a=2を得る。
  また、2点A,Bを通る直線の方程式は、y=3x-5より、放物線の方程式は、
     y=2(x-1)(x-2)+3x-5
      ∴ y=2x2-3x-1