正弦・余弦定理の彼方にあるもの
<先 生>三角形を決定するには、
@3辺 A2辺と間の角 B1辺と2角
が与えられていればいいんだったよね。今日はBの場合について、三角形を解いてみよう。
ex)次の三角形を解け。 (1) a=2,B=60°,C=75° (2) a=2,B=60°,C=45° |
<先 生>まず(1)です。さあ、ノートに解答を作ってご覧……、では、よしお、どうなった。
<よしお>はい、まず、A+B+C=180°より、A=45°です。ここで、辺BCと対角Aが分かってますから正弦定理より、
∴
また、第1余弦定理より、
<先 生>では、(2)をまなぶ、解いてごらん。
<まなぶ>(1)と同じように、三角形の内角の和は180°ですから、
A=180°−(60°+45°)=75°。
次に、正弦定理を使って、
よって、b=… あれ?。先生、求められません。
<先 生>そうだね。75°の三角比が分からないから正弦定理は使えそうにないね。
では、どうすればいいだろう。
<生 徒> ………?
<先 生> それでは、もう一度三角形の解法を整理してみよう。三角形を解くためのアイテムは、正弦定理と3つの余弦定理しかなかったよね。余弦定理については、2辺と2つの角が分かっていれば第1。2辺と1つの角のときは第2。そして、3辺が分かっていれば第3余弦定理(のものを勝手に第3と命名しています)を使うんだったよね。2つ以上の辺に長さが分かっていなければならないということです。今の問題の場合、分かっている三角形の要素は、1辺と3つの角だから余弦定理はどうやら使えそうにない。だからといって、まなぶがやったように正弦定理も無理だし。八方塞ですね。どうすれば、いいでしょう。それぞれの定理では帯に長しタスキに短しだし……
<まなぶ>先生、定理を合わせる訳にはいかないんですか。
<先 生>どういうことだい。
<まなぶ>それぞれの定理で単独に求められないのなら、そのう一致団結ってやつで、なんでもみんなで協力すればうまく解決しますよね。
<先 生>うん、素晴らしい姿勢ですね。それでは、それぞれの定理の協力できる部分を探してみよう。まずは、正弦定理だ。正弦定理の図形的な意味は何だったろう、かず子。
<かず子>三角形の辺とその対角の正弦の比が等しいということです。
<先 生>では、その比の値は。
<かず子>はい、三角形の外接円の直径です。
<先 生>そうだね。ところで、いま問題で与えられている角度のうち計算で求められるものは、
B=60°,C=45°
ですね。ところが、どちらも対辺の長さが分からないから、正弦定理は使えなかったのだけれど、その比の値が外接円の半径ということが分かっていれば、
より、
と表せます。どうだろう。b,cの値がちょっと見えてきたね。さて、次は余弦定理の出番だ。さあ、どう使ったらいいだろうか。
<かず子>3辺の長さと、1つの角が分かったことになりますから、第2余弦定理 に代入して、
を解いてRを求めればいいと思います。
<まなぶ>でも、角は2つの値が分かっているから第1余弦定理の方がいいのではないでしょうか。
<先 生>やってみよう。に代入してごらん。
<かず子> より、
∴
<先 生>したがって、
となる。まなぶがいったように1つの定理で解決できないことでも、互いに補い協力していけば糸口がみえてくるんですね。
Note)
正弦定理+余弦定理=加法定理?
ex)の解法は、本文以外にもいろいろ考えられます。1番安易な方法は、
を覚えてしまうことです。これから、
から、正弦定理より、
を求めればよいわけです。このように求められる理由は、代数的に解くことのできる三角形が極めて限定されていることが背景にあります。したがい幾何的にこのことを利用すると、(1)、(2)ともに2つの直角三角形に分割し、その辺の比を考えることで求めることも可能となります。
(1) | (2) |
また、第2余弦定理を使うと次のような解答も考えられるでしょう。
AB=x,CA=yとおくと、
……(*)
∴
これから、x,yが求められます。
これに対して本文の解答ですが、三角形の要素として、2つの角(3つの角)と1つの辺の長さが与えられているとき、
3つの角で形がきまり、1つの辺で大きさが決まる
ことから組立てています。三角形の大きさを決定するのは、三角形の外接円の半径ですから、このことを利用すると、次の解答が考えられます。
右図のように、
[円周角の大きさ=2×中心角の大きさ]
ですから、外接円の半径をRとし、△OBCに第2余弦定理を用いると、
より、
これから、各辺の長さが求まります。
これを本文では、正弦定理を使って各辺の長さを外接円の半径で表現することで大きさを決めています。
そして、外接円の半径を決定するために、第1余弦定理を使っているのですが、この第1余弦定理について、もっと触れたかったのが実は本文の趣旨なのです。
第1余弦定理は、教科書では何故か省略されることが多く(触れてあっても問いの問題程度)、第2余弦定理が大手を振って紙面を飾っています。何故でしょう。第1…とあるくらいですから、baseはこちらであるべきはずなのです。
多分、その理由は第1余弦定理は、2つの角(3つの角)と2つの辺が与えられたときに使える定理であり、三角形の決定条件の3要素(例えば(A,b,c),(A,B,c),(a,b,c))に比べて要素数が多すぎるためではないかと思われます。しかし、三角形を解く過程の中では、第2余弦定理を使って(*)のように無理して2次方程式を作るのではなく、要素が確定して増えていく中で自然に第1余弦定理が使われるべきではないのでしょうか。
そして、それ以上に、正弦定理と余弦定理(もちろん第1)の組合せの中で見え隠れしているあの定理の存在が気になるのです。
具体的に探ってみましょう。
本文のように、正弦定理を使って辺の長さを外接円の半径Rで表現すると、
これを第1余弦定理、
に代入します。
∴
が成立します。
ここで、△ABCにおいては、A+B+C=180°ですから、
となることから、
……@ |
同様に得られる、
に対して、C=180°−A−Bを代入すると、
0°<A<90°より、ですから、
……A |
……B |
……C |
さらに、
(A,B)=(0°,0°),(0°,90°),(90°,0°),(90°,90°)
のとき、加法定理が成立するのは明らかであり、一般角A,Bに対しても、
とおけば簡単にその成立を証明できます。
結局、正弦定理と余弦定理の融合の果てには加法定理が大きく横たわっていたということです。
考えてみれば、三角形の解法の過程の中で、15°や75°の三角比の値が求まってしまうことはよくあるわけで、これらの角は加法定理を使って本来求められるわけですから、正弦・余弦定理は加法定理的性質を含みもっていることが暗示されていたわけです。
そして、これは第1余弦定理から得られるものであり、第2余弦定理では、三角比どまりの図形の計量で終ってしまうのです。よく、三角比と三角関数の指導に関しては、「卵が先か鶏が先か」論争がおきますが、第1余弦定理をkey-wordとするとスムーズな流れの指導の組立てが考えられるのではないでしょうか。