平成10年8月1日 第26回数実研

「内積の定義」の導入について

札幌稲北高等学校  角田 義一郎

  1. はじめに

     平成10年度2年生の「数学B」を3年ぶりに担当して4か月経ちました。
     新学期は「第1章 ベクトル」から授業を開始。ベクトルの「内積の定義」が,生徒にとっては難しく感じられ「定義」がスーッと頭に入っていかないようでした。
     生徒にとって「内積の定義」をわかりやすく導入するには,どうしたらよいかその方法を考えてみました。来年(平成11年)度の「数学B」の教科書を10冊参考にしました。

    1. 数学B (知研出版)
    2. 改訂版 数学B (数研出版)
    3. 新数学B (第一学習社)
    4. 新編 数学B (文英堂)
    5. 新版 数学B (実教出版)
    6. 新編 数学B (東京書籍)
    7. 数学B (東京書籍)
    8. 数学B [改訂版] (旺文社)
    9. 探求 数学B (数研出版)
    10. 新編 数学B (第一学習社)


  2. 導入その1  (唐突な感じ…)

     2つのベクトルに対して の内積といい記号でと書く。

    内積の定義
      のとき  

    (生徒にとっては「??」でわからない)

     これを内積の定義とする導入方法は,唐突な感じをうけ生徒にとってチンプンカンプンと思われる。・・・以下次のように続く。

    ・ベクトルのなす角

     でない2つのベクトルに対して1点Oを定め,である点ABをとる。このとき∠AOBの大きさθをのなす角という。ただし,0°≦θ≦180°
     でない2つのベクトルに対し,2点A(a1a2),B(b1b2)をとれば,である。

     のなす角が0°≦θ≦180°のとき△OABに余弦定理を適用すると
      AB2=OA2+OB2−2OA×OB cosθ
      (b1a1)2+(b2a2)2=(a12a22)+(b12b22)−2OAOBcosθ
      −2(a1b1a2b2)=−2OAOBcosθ
     ここで OA=OB=である。


    ベクトルの内積
      のなす角をθとすると  


  3. 導入その2  (その1よりはポピュラー)

     でない2つのベクトルに対して1点Oを定め,とする。
     このとき∠AOB=θを のなす角という。ただし0°≦θ≦180°
     このときを,の内積といい,記号で表す。

    内積の定義
      のなす角をθとすると  

     ・内積の成分表示

     でない2つのベクトルとし,原点Oを始点として,である点ABをとる。
     のなす角をθとすると
     △OABに余弦定理を用いると AB2=OA2+OB2−2OA×OB cosθ
       
      ゆえに  
      この等式はまたはのときも成立。

    内積と成分
      のなす角をθとすると  


  4. 導入その3 ( 図形のイメージから入る )

     余弦定理からへと進む。

     でない2つのベクトルに対して,点Oを定めであるように点ABをとる。
     このとき∠AOBの大きさθをのなす角という。ただし 0°≦θ≦180°とする。
     △OABにおいては,余弦定理により BA2=OA2+OB2−2OA×OB cosθ
     ・・・ @
     これは θが0°または180°のときも成り立つ。

     このように,2つのベクトルに対して を考えることは図形的にも意味がある。 を,の内積といい 記号でと表す。

    * 考察 余弦定理から を導くと,図形的なイメージがあるので内積がわりとスムーズに導入できる。
       
     また のとき@は
      
    と表されるので   

    ベクトルの内積
      定義1.  
      定義2.のとき  


  5. 導入その4  (内積を加法・減法以外の演算として考えさせる)

     上への正射影として扱う。

     2つのベクトルについて,加法・減法以外の演算を考えてみよう。
     でない2つのベクトルについて1点Oを定めてとするとき∠AOB=θをのなす角という。ただし 0°≦θ≦180°

     このとき の内積といい と表す。

      内積の定義    

     内積の定義から内積と成分へは,導入その2と同様な形式で進む。

      のとき  


  6. 内積のイメージ化(生徒に対して)

     は を表す記号であることを力説してイメージとして2辺きょう角がうかぶようにさせる。

    2辺きょう角のイメージ化

      は,内積である。記号でと表す。  

      は,平行四辺形の面積である。面積は記号でSと表す。  


  7. スカラー積について

     スカラー積のことを,内積(inner product)という。

    直観的定義
     2つのベクトルの大きさをのなす角をθとするときで表されるスカラー量(実数)をベクトルスカラー積といい,で表わす。 

    スカラー積代数的表示
       のとき   

     実数実数=実数, 複素数複素数=複素数 であるが,ベクトルのスカラー積は  ベクトルにならないので,スカラー積はふつうの意味の積ではない。
     しかし,ふつうの積に似た性質(1)(2)(3)があるため,便宜上とよぶ。
         交換法則            (1)
         分配法則          (2)
         結合法則  ただしαは実数 (3)


  8. ベクトル積について

     2つのベクトルによってつくられる平行四辺形の面積を,この面に直角の方向をもったベクトルベクトル積といい,で表す。
    ベクトル積のことを外積(outer product)という。
     べクトル積の大きさは,2つのベクトルのなす角がθのとき
       
    とする。ただし,その向きはからへ180°の角度でまわるとき右ねじの進む向きとする。