円関数から加法定理へ

− 三角関数諸公式への見通し −

札幌東高等学校  大山 斉

 観覧車のように回転によって位置が決められる場合がよくある。回転運動は点が円周上を運動することについて調べていけば良い。まず回転を表す量として角度が導かれる。中心O,半径OAの円周上を点がAを出発点として反時計回りあるいは時計回りの運動を行う。

 このことから正,負の角度が存在すること,また360°以上の角度も存在することが自然に導かれる。このような円周上の点の運動の中で最も基本的なものは単位円周上の点の運動であろう。座標平面で単位円を考え,点Aの座標を(1,0)とする。原点をO,この単位円周上の点をPとするとき,Pの座標(xy)は∠AOPによって決定される。したがって∠AOP=θを自然数とし,xyを従変数とする関数がそれぞれ考えられる。

 また,動径OPの傾きもθを自然数とするときの従変数であると考えられる。そこで次の@,A,Bのように定義する。

 単位円周上の点Pの座標を(xy),動径OPの角度を∠AOP=θとして表すとき
   x=cosθ …@,y=sinθ …A, ・・・
   (動径の傾き)==tanθ …B
 したがって,tanθ= …Cとする。


 次に点Pのx軸に関する対称点をQとし座標を(x',y')とする。このとき動径OPの角度はθで,動径OQの角度は-θであるから,@,Aの定義より
   x=cosθ,y=sinθ
   x'=cos(-θ),y'=sin(-θ)
となる。PとQはx軸に関して対称なので,x'=xy'=yとなる。したがって,次の公式が得られる。
   cos(-θ)=cosθ …D,sin(-θ)=-sinθ …E



 次に単位円周上の点P,P'について動径OPの角度がθ,OP'の角度が-θならばPとP'は直線y=xに関して対称である。点(0,1)をBとすると∠BOP'=θ。動径OMの角度をとすると
   ∠P'OM=(-θ)-=-θ,∠MOP=
より,
   ∠P'OM=∠MOP
となるから,PP'はOMに垂直で,PP'の中点はOM上にあることがわかる。Pの座標を(xy),P'の座標を(x',y')とするとき,x'=yy'=xの関係がある。また,@,Aの定義より
   x'=cos(-θ)=,y=sinθ
   y'=sin(-θ),x=cosθ
であるが,これを今の関係式に代入して
   cos(-θ)=sinθ …F
   sin(-θ)=cosθ
が得られる。


 次に定義@とAをもとにし,D,E,F,Gを利用して加法定理を導くことができる。

 図において動径OPの角をα,∠POQ=βとすると動径OQの角はα+β,∠AOR=βとすると動径ORの角は-βとなる。したがって,@,Aの定義によると点Qの座標は(cos(α+β),sin(α+β)),点Rの座標は(cos(-β),sin(-β))となる。D,Eを考慮してRの座標は(cosβ,-sinβ)となる。このときより
   {cos(α+β)-1}2+sin2(α+β)={cosα-cosβ}2+{sinα+sinβ}2
が得られ
   cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ …H
を得る。Hにおいてβのところに-βを代入し,
   cos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ …I
を得る。
 次にF,Gよりcos(-(α+β))=sin(α+β)であるが,また
   cos(-(α+β))
   =cos((-α)-β)
   =cos(-α)cosβ+sin(-α)sinβ
   =sinαcosβ+cosαsinβ
となり,したがって
   sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ …J
が得られる。そして,Jにおいてβに-βを代入して
   sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ …K
を得る。


 このようにして加法定理が導かれたが,H,I,J,Kをもとにして,三角関数の諸公式が得られる。たとえば,J+Kより
   sin(α+β)+sin(α-β)=2sinαcosβ …L
となるが,これより
   sinαcosβ={sin(α+β)+sin(α-β)} …M
となり,積→和の公式が得られる。
 また,Lにおいてα+β=A,α-β=Bとおくと,α=,β=となり
   sinA+sinB=2sincos …N
として,和→積の公式が得られる。このようにしてJ−K,H+I,H-Iの式をもとにして,同様な操作によって,積→和・差,和・差→積の公式が得られる。また,HとJにおいてα=β=θとおくことにより2倍角の公式が得られ,またこの2倍角の公式をもとにして半角の公式が得られる。以上@,Aを基本的な定義として導いたものである。したがってこの場合のcosθ,sinθ等は三角関数というよりも円関数と呼ばれるのがふさわしいといえる。また,@,Aは途中で定義の拡張や概念の拡張を行う必要がないところに特徴がある。


 最後に図形への応用について考えよう。中心が原点の単位円と半径rの円がある。

 図でPの座標は(cosθ,sinθ)で,P'の座標は(rcosθ,rsinθ)となる。いま,θを鋭角とすると
   P'P''=rsinθ,OP''=rcosθ
r=OP'より
   
となり,直角三角形OP'P''における三角比が得られる。この三角比から正弦定理,余弦定理を導くのは容易である。