《  a=b と a≡b  》

−方程式と似ている合同式−

札幌東高等学校  大山 斎

 もう数年も前のことであるが、中学1年生から次のような問題についての説明を求められたことがある。

 A中学校前を通ってB駅まで行くバスは3系統ある。午前9時から午後5時までの間、系統番号@のバスは8分間隔、系統番号Aのバスは12分間隔、系統番号Bのバスは15分間隔で走っている。 そして、午前9時にこれら3系統のバスは同時にA中学校前のバス停を出発する。
 ある日、系統番号@のバスだけ発車時刻の1分前にA中学校前のバス停に到着していた。たとえば午前9時7分に到着し、午前9時8分に発車していた。このとき系統番号@のバスの到着と同時に発車していくバスは午前9時から午後5次まで何台あったか。また3系統のバスが同時に発車することはこの日にはあり得るか。

 中学1年生のしかも初期の段階では、文字代数による解法ではなく、最大公約数や最小公倍数の性質を使って解くのであろうが、説明には大変苦労する。高校でも整数の問題として興味深い教材になり得る。整数に関する問題を合同式の性質を用いるとすっきり解ける。そのような問題は少なくないが、現在の高校ではそこまで深入りせずに整数教材を扱っている。しかし、ここではあえて合同式の性質を考えつつ上の問題を考えてみることにしよう。

 整数a,bをそれぞれ正の整数mで割って等しい余りrを得たとする。q1,q2を商として、
  a=mq1+r, b=mq2+r  (0≦r<m)
   これより、a−b=m(q1−q2)
 ここでq1-q2は整数なので、これをkとおくとa−b=mkとなり、a−bはmの倍数となる。ガウスはこれを次のように表した。
   a≡b (mod m)
 そこで、次のように定義している。

2つの整数a,bはa−bがmの倍数であるとき、mを法として合同であるといい、a≡b (mod m)と表し、これを合同式という。
 例えば、13−3=5×2 より 13≡3(mod 5)、13−(−2)=5×3 より 13≡−2(mod5)となる。この合同式は、次の(T),(U),(V)の3つの性質を持つ。

【1】a,b,cを整数とするとき、
 (T) a≡a
 (U) a≡b (mod m) ならば b≡a (mod m)
 (V) a≡b (mod m), b≡c (mod m) ならば a≡c (mod m)

 証明は省略するが、(T)を反射律、(U)を対称律、(V)を推移律と呼び、(T)(U)(V)の3つの性質を持つ関係を同値関係と呼んでいる。同値関係を満たすある関係が与えられると、ある集合をこの関係に基づいて、互いに共通部分を持たない空でない部分集合の合併として表すことができる。つまり、集合の要素を分類して共通な性質を持った要素ごとにまとめるいことができるわけで、数学ではこれを類別と呼んでいる。更に合同式では次の定理が成立する。

【2】 a≡b (mod m), c≡d (mod m) のとき
 (T) a+c≡b+d   (U) a−c≡b−d   (V) ac≡bd

 以上の性質を利用すると、更に次のことも成り立つ。(証明は略)

【3】 a≡b (mod m)で、cを整数、nを正の整数とする。
 (T) −a≡−b   (U) a±c≡b±c  (V) ac≡bc   (W) an≡bn

 以上の諸性質は等号の=についても成り立つ性質である。このことは合同式としての≡と等号の=とは形の上での演算としては、非常に似た性質を持っていることになる。方程式を解いたりするのも等式のいろいろな性質を用いながら計算しているわけなので、似た性質を持つ合同式についても、ほとんど方程式を解くのと同じようにして計算できるわけである。いくつかの例を考えてみよう。

pは7で割ると5余り、qは7で割ると4余る整数とする。このとき次を7で割ったときの余りを求めよ。
 (1) p−2q     (2) pq    (3) q20

(解) p≡5 (mod 7)  q≡4 (mod 7) 
 (1) p−2q≡5−2×4≡4 (mod 7)  よってp−2qは7で割ると4余る。
 (2) pq≡5×4≡6 (mod 7)  よってpqは7で割ると6余る。
 (3) q3≡4×4×4≡1 (mod 7) より
      (q3)6・q2≡16・42≡2 (mod 7)
   よって q20は7で割ると2余る。

 ある大学で出題された次のような問題も、なかなか考えづらい問題の部類にはいると思われる。これも合同式を使うとすっきりと、しかも明解に説明してゆくことができる。

 385より小さい自然数xを5,7,11で割った余りをそれぞれ a,b,cとするとき、231a+330b+210cを385 で割った余りはxに等しいことを示せ。

(解) p=231a+330b+210c とおく。385=5×7×11に注意。
 まずpを5,7,11で割った余りを求める。それはa,b,cである。よって、
   p≡a (mod 5),  p≡b (mod 7),  p≡c (mod 11)
 また、題意より
   x≡a (mod 5),  x≡b (mod 7),  x≡c (mod 11)
 ゆえに、
   p−x≡0 (mod 5),  p−x≡0 (mod 7),  p−x≡0 (mod 11)
 これより、p−xは5,7,11で割り切れるから、5×7×11で割り切れる。
   p−x≡385k (kは整数)  ∴ p=385k+x
 よって、pを385で割った余りはxである。

 次の入試問題も合同式を使いながら解いていくと簡単にできるが、そうでない解法だとかなり考えづらい問題となろう。

 自然数で3で割ると2余り、5で割っても2余り、7で割ると5余るものは無数にあるが、このち最小のものは(    )であり、一般には   (     )l+(     ) という形に表せる。  lは0または自然数である。

(解) n−2≡0 (mod 3)…@, n−2≡0 (mod 5)…A, n−5≡0 (mod 7)…B
 @,Aより n−2は3,5で割り切れるから15で割り切れる。
    ∴ n−2≡15k …C  これをBに代入して、
   15k−3≡2×7k+k−3≡k−3≡0 (mod 7)
    ∴ k−3≡0 (mod 7)
  ゆえに、k−3≡7l    ∴ k=3+7l
  これをCに代入して
    n=15(3+7l)+2=47+105l
  l=0を代入して題意に適する自然数の最小のものは47である。

 ある整数の1の位の数字は、その整数を10で割った余りを求めるとよい。一般に整数aの1の位の数字はa≡r (mod 10) となるr(r=0,1,2,…,9) を求めるとよい。

19871987の1の位の数字を求めよ。

(解) a=1987とすると a≡7 (mod 10)
   a2≡72≡9 (mod 10),  a3≡7×9≡3 (mod 10)
   a4≡3×7≡1 (mod 10)
 よって、a1987≡(a4)496・a3≡1496・a3≡a3≡3(mod 10)
 ゆえに、19871987の1の位の数字は3である。

 普通の方程式だと4x=12よりx=3となるが、合同式で4x=12 (mod m)よりx≡3 (mod 3)とできるだろうか。これについては次のような性質がある。

【4】 ka≡kb (mod m)のとき
 (T) kとmが互いに素ならば a≡b (mod m)
 (U) kとmの最大公約数をdとすると a≡b (mod m/d)

 証明は省くが、上の性質【4】は合同式と普通の等号とで著しく異なっている性質である。また、これを証明は省くが、次の【5】の性質も等号とは異なった性質といえる。

【5】 a>1でaとmが互いに素とする。
 ax≡b (mod m) は m=aq±a1 とおくと、a1x≡±bq (mod m) と変形できる。

 さて、いよいよ最初の問題を合同式を使って解くことを考えよう。

 午前9時から午後5時までの間は8時間(480分)である。15分間隔で発車するとは15の倍数を考えていくとよい。また@のバスだけ到着するのが予定発車時刻のいつも1分前である。従って@のバスの到着時刻については8で割って7余る数の集合を考えていくとよい。@の到着時刻とBの発車時刻が同時である、或いは@の到着時刻とAの到着時刻が同時であるとは次のような問題として考えていくとよい。

(1) 1から480までの自然数において8で割ると7余る数が15の倍数と一致するのはどんな場合か。
(2) 1から480までの自然数において8で割ると7余る数が12の倍数と一致するのはどんな場合か。
(3) 上の(1),(2)は同時に起こり得るか。

(解) (1) 1≦n≦480として n≡7 (mod 8)、n≡0 (mod 15) である。
 よって、n=15k (kは整数)。従って 15k≡7 (mod 8)、16k−k≡7 (mod 8)
    ∴ k≡−7≡1 (mod 8)
    ∴ k≡1+8m (mは整数)
    ∴ n=15(1+8m)=15+120m, n=15+120m≦480
    ∴ m≦3
   m=0,1,2,3 に対してn=15,135,255,375
 よって、9時15分、11時15分、13時15分、15時15分に@の到着時刻とBの発車時刻は一致する。

(2) n≡7 (mod 8)、n≡0 (mod 12)  ゆえに n=12k  ∴ 12k≡7 (mod 8)
   8K+4k≡4k≡7 (mod 8)  ∴ 4k≡7 (mod 8)
 これは【4】や【5】のどの性質にも当てはまらない。このとき、k≡a (mod 8) となるaは存在しないことは次の表ですぐわかる。

7 (mod 8)
4k

12

16

20

24

28 (mod 8)

 よって4k≡7となるkは存在しない。従って、8で割ると7余る数が12の倍数と一致することはない。つまり、@の到着時刻とAの発車時刻が一致することはない。以上より@の到着時刻と同時に発車するのはB系統で4回だけ起こる。

 証明は省くが、次の合同式の性質も重要である。

【6】 ax≡b (mod m) のとき
 (T) aとmが互いに素のときは、一つの解を持つ。
 (U) aとmの最大公約数dが1より大のとき、bがdで割り切れるときに限って解を持つ。

 この【6】の性質を用いて上記問題の(U)を次のように解くことができる。

 途中過程は省略して、4k≡7 (mod 8)。これは【6】【5】のどの性質にも当てはまらないことは、すでに述べた。【6】の(U)の性質によると4と8の最大公約数は4である。このとき、7が4で割り切れるときのみ解を持つが、7は4で割り切れない。
 よって、4k≡7 (mod 8)は解を持たない。

 以上のように整数を他の整数で割って割り切れるとか、どのような余りがでるとか、それらに関する複雑な問題を合同式を用いて、しかも方程式を計算するごとくに式を操作して考えていくことができ、思考を楽に、しかも深く追求してゆくことができる。