それはゲーム感覚から始まった

〜パソコン研究同好会、日本MESE参加記録〜

北海道苫小牧東高等学校  矢 嶋  裕 之

概略

 昔、私が在校生の時代、本校の科学研究部で活動していた頃は、各自の研究テーマは自分で見つけてくる個人研究が中心であった。顧問をされていた先生方も自分の研究テーマをかかえており、生徒であった私が顧問の先生から学んだことは研究発表する際のレポートのまとめ方と制限時間内にどうやって要領よく発表するかということだけであった。その当時は、部活動は生徒の自主的な活動なのだから、先生方の研究と生徒の研究は別次元のものとして(少なくとも私は)とらえていた。しかし、自分が教師になって文化系の部活動をもってみると、部活動のあり方も、もう1つ、生徒とほぼ対等に顧問も部活動に参加し、共同で創造していくあり方もあると強く思い始めている。

 本校パソコン研究同好会の活動も今年度は私が兼務していたもう1つの演劇部の部活動があったため、前期はそれほど活発なものとはいえなかった。しかし、後期はインターネット元年にふさわしい(とはいっても本校ではまだインターネットは使えないが)活動を中心に強力に進めてきた。本稿はその後期のパソコン研究同好会の活動報告レポートの1つである。生徒と一緒に(生徒・教師という枠を超えて)論じあったりすると、生徒の考え方の中で不十分と思われる社会概念(或いは、社会通念)が存在することに気がつく。そうした点を補完する訓練として、日本で初めて実施されたMESEコンテスト(日本版)に参加したのである。MESE(ミース、Management & Economic Simulation Exercise)は、1つの答えに固執せず、多くの仮説を立てて現状をどう乗り切るかを、ディスカッションしながら考えさせる意志決定のシミュレーションである。このコンテストの体験を通し、彼らは英語の重要性や自分で考えることの大切さを痛感することとなった。教科書の英文しか知らなかった彼らにとって、FAX(本来はインターネットで送られてくるが本校はFAXで参加していたため)で送られてくる英語で書かれた文書を辞書なしで読むのは最初はかなり大変だったようだ。こうした体験を経て、英文の読み方、そして、英文の作り方を学ぶことになったのである。インターネットが使えれば、これをさらに一歩進めて英文でメールを書かせて発信する体験もできたが、今回はできなかった。英文の読み間違いが意志決定に影響したこともあったし、情報に対する重要性の認識にミスがあったりと多くの失敗という『良い体験』をし、そしてディスカッションという日本人が最も苦手とする経験を経て、生徒としてそして人間として大きくなってきたように思われる。多くの異なる個の理解というのはこうした経験から訓練ができるのではなかろうか、そんなことも考えさせられた経験でした。

第1章 非営利団体とは何か

 日本ではまだなじみがないため、実のところ私もうまく説明はできない。日本では教育は学校がおこなうというのが通例だが、アメリカでは事情がちょっと異なる。学校・ボランティア団体・非営利団体・企業等、多くの所が関与している。すなわち、アメリカの学校の授業では日本の座学中心に対して、実学中心であるためによるものと考えればわかりやすい。私が本校で数学 で教えている『三角関数の和の公式』も日本では公式の証明とか例題が中心であるが、アメリカではそれがどのように生活の場で使われているか、そして、それを利用してどんなことができるかといった風に展開される。このように(国民性というとそれまでだが…)教育のしかたが違うため、アメリカでは、生徒は学校ばかりではなく、放課後に非営利団体などが主催するコンテストに参加し、見知らぬ人々とのディスカッションを通し、未知な知識の吸収を図っている。こういう訓練をしているアメリカ人と訓練をしていない日本人であるためか、どうも日本人はディスカッションが下手である。日本でもこういう非営利団体が生まれてきた背景にはそのような土壌がある(まあ、それだけではなく、協賛企業にはそれなりの目的もあろうが)。東京の赤坂にあるジュニア・アチーブメント本部からきた資料から、その設立の趣旨に関してキーになる部分を抜き出してみると次のようになる。

 このような設立趣意を受けて、日本でも設立されたジュニア・アチーブメントによるプログラムには次のような特徴があり、我々の学校教育を補完してくれる働きを持っている。

  1. 指示待ち人間ではなく、広い視野に基づく明確な目的意識を持ち、自立的な判断力と意志決定力を伴った社会人の輩出に貢献するため、生きている社会のシステムやそれを支えている経済のダイナミズムについて正しい理解ができるよう、小中高の生徒達に対して提供される学校内プログラムである。
  2. 企業の財政的や人的支援で各種プログラムは学校に対して無償で提供される。
  3. 物事の決めつけをしたり、あらかじめ決められた特定の方向に引っ張って行くプログラムではなく、自由な意見や発想を交わしながら行うインターアクション・プログラムである。
  4. ジュニア・アチーブメント・プログラムは、現在の教育制度を否定したり、既存の教育プログラムとの置き換えを意図したりするものではなく、あくまでも補完的な立場にある。このジュニア・アチーブメント・プログラムを採用するかどうかは各学校の自主的な判断に委ねられる。
  5. ジュニア・アチーブメント・プログラムは、1919年にアメリカ国内で始められたものであるが、だからと言って、アメリカのシステムをそのまま導入するのではなく、日本の状況に合うよう加筆・訂正して使用する。
  6. 青少年にとっては、教育は実社会を前にした準備の場であり、実社会は彼らの将来設計を具体的に実現させる場であるとすると、彼らが歩んでいく道は連続している。連続している『場』同士は、青少年の受渡しに協力しあっていくべきだと考えられ、ここに民間参加の形で教育側と企業側が協力し合えるジュニア・アチーブメント・プログラムの存在意義がある。

 私は苫小牧で育ち、中2の頃から高3までアメリカ人に師事し、米語圏文化(英語)を学んでいたため、比較的アメリカ人的発想には理解がある方だと思っている。そのためか、今回の日本のジュニア・アチーブメントの趣旨を見ると、逆に日本人らしい発想だなあと思ってしまう。ただ、『活動はグローバルに、しかし、アイデンティティは日本人』という考え方は私も同感に思っているため、以下のようなコンテストにも抵抗なく生徒と参加することができた。

第2章 日本MESEコンテストとは

 アメリカと日本では教育のシステムが基本的に異なるため、比較が大変難しい。アメリカでジュニア・アチーブメントなど各種非営利団体が中心にいろいろな活動(コンテスト)をしていることは具体的な名称は知らなかったが、その存在だけは以前から知っていた。しかし、それは当時大学2年だった私の短期的な経験(自分の専攻をデータ解析というアメリカで提唱されたばかりの学問にするかの視察調査)から得たものにすぎなく、専攻が決まって以降は主任教授の下で日夜を問わず研究に没頭していたからアメリカのそのようなコンテストのこともすっかり忘れていた。しかし、昨年秋、札幌にある立命館大学慶祥高校からの案内文書を見て、日本でも非営利団体によるコンテストが始まると聞いて大変興味をもった。アメリカで1919年から実施され、今回、本校のパソコン研究同好会の生徒も参加したMESEコンテストは経済シュミレーションによるコンテストである。ただ、今回日本で初めて実施された同コンテストの特徴的なことは、インターネットを本格的に利用したグローバルなものであることである。下記のような同コンテストに本校も参加しようと思い、生徒たちに相談したところゲーム好きな彼らは一も二もなく賛成してくれた。

日本MESE実施要綱

1.名  称:1996年度日本MESEコンテスト
MESE(ミース)=Management & Economic Simulation Exercise
2.主  催:ジュニア・アチーブメント本部
3.後  援:日本経済新聞社
4.内  容:他チームとの競争環境の中で、ある商品の価格・生産量・販売費・設備投資額・研究開発費のそれぞれをどの程度に設定するかについての意志決定を行い、その内容をインターネット・メールを通してMESE本部に送信すると、各チームに期毎の経営状態を示すレポートが送られてくる。そのレポートを分析して新たな意志決定を繰り返し、7期終了時点での最も優れた経営成果を目指して競い合う。
業績評価は、シミュレーションに組み込まれているMPI(Mabagement Performance Index)に基づいて行われる。
参加64チーム(日本チーム48前後、環太平洋諸国チーム16前後)が、8グループに分かれて予選を行い、上位8チーム(日本チーム7、外国チーム1)が東京に集結して決勝戦を行う。
実際に動いている社会や経済の仕組みが正しく理解でき、同時にチームメンバーとのディスカッションを通して、広い視野、自律的にものを考えられる力、意志決定力、他人と違う意見を持つ勇気、異質の意見を受け入れる寛容性など社会生活上で必要となる基本知識が育めることを目的にしている。
5.参加資格:ジュニア・アチーブメントの教材を現在使用中、もしくは使用を予定している学校の中学3年生から高校、大学、短大に属する20歳までの学生。応募多数の場合はジュニア・アチーブメント本部の基準に基づき選抜することとする。
インターネット・メールアドレス(学校又は個人)を持っていること。又は、コンテスト期間中に継続して使用できる先が近隣に確保できること。
6.その他:コンテスト参加決定校には、事前にジュニア・アチーブメント本部から出向いてMESEの演習が行われる。コンテストの使用言語は英語。

 この最後の部分に書かれてあるように、コンテスト中に送られてくる物は次のように全て英語で書かれてあり、最初はさながら英文読解の場となってしまった。

第3章 本校チームの参加の結果等について

@北海道からの参加

A全参加チームの概要

B本校参加チーム

C最終結果

D生徒感想(代表的感想)

E指導者の感想

おわりに

 私も顧問をしている演劇部では来年以降の活動の柱の1つとして『生徒の手による台本の創造』というのを掲げている。全道大会以降の私の部活動指導はパソコン研究同好会に主軸を移しているため、演劇部の活動の様子があまりわからないが、『なかなか書けない』と、生徒はいつも言いに来る。先日も『そうなんだよ、こういうものって『よし書くぞ〜』という気持ちが大切だが、そればかりでは逆にプレッシャーになってしまうものなんだ。先生もレポート書きをしているが、いくら書こうとしても1行も思い浮かばない日もあるが、一方では一晩寝ないで書いているとレポート1〜2本ができてしまうこともある。文章を書く難しさってそういうところにあるんだよ。』と話したことを覚えている。本稿は第17回数学実践研究会以降、(忙しかったこともあるが)いったん止まってしまったレポート書きを再開させるところから始めたため、『あ〜また数学が登場してこない』と頭を悩ませながらの筆稿となってしまった。書いても書いても今教えている数学の内容が出て来ないので前回(18回)の数学実践研究会の頃にはレポート持参せぬことが大変後ろめたくて『もう、参加をやめようか』とも思った程である。しかし、自らの仕事だけで忙しい早苗先生からHTML化した過去の私のレポートを送られてきたのを契機に『他の先生方もオーバーワークの覚悟をしながらでも数学実践研究会の活動の前進のために頑張っている』ことに励まされて(?)再度頑張ってみようと思い、数学の出て来ない拙いレポートを持って、今回参加した次第である。こういうパソコン利用の分野で数学が出てくるレポートはいつになったら書けるのであろうか、それとも本校のような学校では無理なのか。少し時間をかけて検討してみたい。
 本稿はタイトルから明かなように本校のパソコン研究同好会の活動をまとめたものである。なかなか思うような活動をすることができなく(施設・設備の点で)、生徒も私も意気消沈しそうであるが、あせらず生徒と一緒に活動していこうと思っている。

1997.1.15
パソコン教室にて