最速降下問題について

北海道小樽桜陽高等学校 佐藤公威

 下記は昨年行われたMathematical Art展の作品の一つです。この中のサイクロイドという結論を計算でどのように導き出すのか調べてみました。(*)1
 また,(*)2についても計算してみました。

 いろいろな形をした同じ高さの滑り台があります。各滑り台の最高地点からボールを転がすと,どのボールがより速く地面に到達するでしょうか。斜面の長さは,直線状の滑り台が一番短いのですが,結果はどうなるでしょうか?
 この作品は,以下の"最速降下問題"と呼ばれる問題を題材に製作されました。

最速降下問題:
鉛直面に与えられた2点間を曲線で結び,その曲線に沿って質点を滑り落とす。最も短い時間で滑り落ちる曲線を求めよ。


 この問題は,ヨハン・ベルヌーイやライプニッツなどによって解かれ,その答えは直線でも円弧でもなく,サイクロイド曲線と呼ばれる曲線です。(*)1 サイクロイド曲線とは,直線上を円が滑ることなく転がるとき,円周上の1点が描く曲線です(図)。
 実際にボールを転がして,昔の数学者たちの努力の結果を確かめて下さい。
 このサイクロイドの滑り台には,斜面のどの位置からボールを転がしても最下点に到達するまでの時間が同じである,という性質もあります。(*)2

○ 問題1

 斜面上の2点A,Bを結ぶ曲線に沿って質点が初速0で降下するとき,どんな曲線(測地線のみ考えるからこれは平面曲線)のとき,降下時間が最短となるか。
(最速降下問題と呼ばれている)

(解)求める曲線をとおく。Fig1において2点 に対し
   点A… , 点P…  (gは重力加速度)
ここで m=1 としエネルギー保存則を使って
   
   ∴   ・・・@
また,A,Bを結ぶ曲線についてより,速度vは
   
ゆえに降下時間Tは
   
従って
     ・・・(1.1)
を最小にするを求めるのが今の問題である。

○ 変分法からの準備

 内のc1-class曲線に対し,曲線γの関数
    ・・・A
の極値問題を考える(一般にAのようにxの関数を汎関数という)。以下とかく。
 さて,ある関数を使って新たな関数を作る。εを動かすと,これは端点A,Bを固定する曲線族をあらわす。(変分曲線という)
    ・・・B
が存在するとき,これをFのにおけるh方向の微分という。Aに形で与えられる汎関数の臨界値を与える関数がある微分方程式(これをEuler-Lagrange方程式という)を満たすことを次に見ていきたい。
   
   
   (後半の符号はによる)
はεに関して微分し,で評価すれば
   
を得る。
(Bはをεの関数と考えると
 は臨界値だから端点条件を満たす任意のhに対して
   
  ∴  ・・・C
が成り立つ。ここで
   
従ってCは
   
   
これがh(a)=h(b)=0をみたす任意関数h(x)について成り立つから
    ・・・(注2)
従って
      (3・1)
をみたす。これをEuler-Lagrange方程式という。 (注1)端点を固定する変分曲線に対し,上記から
   
であるからが臨界値(極値曲線)であることと,Euler-Lagrange方程式が成り立つことは同値である。
(注2)一般に連続関数である任意の連続関数h(t)に対して常に
であればである(証明略)。
 さてに対し
   
を最小にするを求めよう。
   
   
従ってEuler-Lagrange方程式
   
   
∴ 
両辺にをかけて
   
これより
     ∴ 
をかけて積分
     ∴ 
     ∴ 
これより
   
    ・・・(5・1)
この微分方程式を解いて(*)
   
となり,これはサイクロイドである。 ( 注(*) 微分方程式の解法
(解) ・・・@とおくと
  ・・・A
@より  ・・・B
また
    ・・・C
従ってBより
   
  ∴ 
  ∴ 
  ∴ 
これより
   

○ 問題2

 斜面のどの位置からボールを転がしても最下点に到達するまでの時間が同じであることを示せ。

(証明)点Aからボールを転がしてBに到達するまでの時間をTA,A〜B間の任意の点PからBに到達するまでの時間をTPとすればTA=TPであることを示す。


(1.1) においては本質的ではないので,改めて
    ・・・(6.1)
とおく。 ・・・(6.2)より
   
   
。点Aではa1=0,a2=2だから
    ・・・(6.3)
次に点Pを与えるuの値をu0とし
   
とおく。このとき
   
  ∴  ・・・(7.1)
これを実際に計算をする。
    ・・・(7.2)
とおくと
   
   ∴ 
   ∴ 
ところが(7.2)より
   
これと
   
とから
    ・・・(7.3)
従って(7.2)から
   
   ∴  ・・・(7.4)
また
   
これと(7.2)(7.4)とから(7.1)は
    ・・・(7.5)
ここで一般に
    ・・・(8.1)
であることを示そう。実際
   
すなわちとおくと
    ・・・(8.2)
   
従って
   
ところが(8.2)より
     ∴ 
であるから,上式は
   
ここでからを使った。
   とおくと   ∴ 
      ∴ 
さて(8.1)を使うと一般に
   
すなわち
    ・・・(8.2)
(8.2)を使うと(7.5)から
    ・・・(9.1)
を得る。(6.3)(9.1)から
   
であることがわかった。(証明終わり)

<参考図書>