Prop2−1.(Caylay-Hamiltonの定理)
Aに対して,A2−(a+d)A+(ad−bc)E=O が成立する。
以後,
fA(A)≡A2−(a+d)A+(ad−bc)E=O (2.1)
fA(x)≡x2−(a+d)x+(ad−bc)
と表す。fA(x)=x2−(a+d)x+(ad−bc)=0 の2つの解を α,βとすると
fA(x)=(x−α)(x−β),fA(A)=(A−αE)(A−βE) (2.2)
ここで,解と係数の関係より,α+β=a+d,αβ=ad−bc
fA(A)=A2−(a+d)A+(ad−bc)E=(A−αE)(A−βE)=O (2.3)
をCaylay-Hamiltonの方程式(以下,CHEと略称)という。まとめると,
Prop2−2.Aの固有値が,α,β⇒CHE fA(A)=(A−αE)(A−βE)=Oが成立
しかし,この逆は成立しない。(反例:A=αEのとき)
また,g(A)=Oとなる任意のAの多項式g(A)について,g(x)はfA(x)で割り切れるとは限らない。
(反例:A=Eのとき,fA(x)=(x−1)2,g(A)≡A−Eとおくと,g(x)=x−1)
そこで,g(A)=Oとなる任意のAの多項式g(A)について,g(x)を割り切れる多項式を定義する。
Def2−3. (最小多項式)Aに対して,次のようなAの多項式φA(A)を定義する。
A=mEのとき,φA(A)≡A−mE,A≠mEのとき,φA(A)≡fA(A)
このφA(A)は一意的に存在し,degφA≦2である。このφA(A)をAの最小多項式という。 (2次の正方行列については,この定義で最小多項式の存在と一意性が明らかである)
Prop2−4.g(A)=O⇒g(x)はφA(x)で割り切れる。
pr)
CASE1:A=mEのとき,φA”(x)=x−m,
g(A)=Oよりg(mE)=O,g(m)E=O,g(m)=0
よって,因数定理によりg(x)はφA(x)で割り切れる。
CASE2:A≠mEのとき,φA(A)≡fA(A)より,degφA=2
よって,g(x)=φA(x)h(x)+px+qとおくと,
g(A)=φA(A)h(A)+pA+qE
このとき,g(A)=O,φA(A)=Oより,pA+qE=O
ここでp≠0とすると,A=mEとなるので,p=0,さらにq=0
よって,g(x)はφA(x)で割り切れる。 □
Cor1. Aの固有多項式fA(x)は,φA(x)で割り切れる。
Cor2. fA(λ)=0⇔φA(λ)=0
pr)
は,Cor1より成立
⇒について示す。A=mEのとき,φA(x)=x−m,fA(x)=(x−m)2より成立
A≠mEのとき,φA(x)=fA(x) より成立する。 □
Remark2−5. この結果,fA(x)=0とφA(x)=0の解は,重複度を除いて等しい。
Prop2−6.φA(A)=(A−αE)(A−βE)=O ⇒ Aの固有値は,α,βつまり,Aは,α,βを固有値とする行列である。
pr) Aの固有値は,Prop2−4.のCor2.より,α,βであるが,degφA=2よりAは,α,βを固有値とする行列である。 □
以上で準備が終了したので,本論に入る。
2次の正方行列Aに対して,∃1φA(A) かつ degφA≦2 ☆
(1) 行列方程式 A2+kA+lE=O の解について
特性方程式 x2+kx+l=0 の2つの解をα,βとするときα=β(重解)も含めて行列方程式
(A−αE)(A−βE)=O (2.4)
を解けばよい。☆より
CASE1:degφA=1,つまり,φA(A)=A−λE=Oのとき,A=λEを(2.4)に代入して,
(λーα)(λーβ)E=O λ=α,β
∴ A=αE,βE
CASE2:degφA=2のとき,φA(A)の一意性より
φA(A)=(A−αE)(A−βE)=O (2.5)
ここで,A−αE≠O かつ A−βE≠OであるからA−αE,A−βEは可換零因子である。
よって,Prop2−6.より,Aはα,βを固有値とする行列である。
このAを,以下,A≡A(α,β)と表す。A(α,β)の具体的な構成方法については,6.で後述する。
以上を言い換えると,
(@) A=αE,βE
(A) trA=−k,detA=lをみたす任意のA
となるので,冒頭の結果と一致する。
(2) 3次以上の高次方程式 g(A)=O の解について
特性方程式 g(x)=0 の解をx=α1,α2,…,αmとおくと,重解も含めて
g(A)=(A−α1E)(A−α2E)…(A−αmE)=O ☆より
CASE1:degφA=1のとき,A=α1E,α2E,…,αmE
CASE2:degφA=2のとき,
φA(A)=(A−αiE)(A−αjE)=O,1≦i≠j≦m (2.6)
ここで,A−αiE,A−αjEは,いずれも≠Oより可換零因子である。
A=A(αi,αj)
e.g.2−7 A3=Eを解くと,(A−E)(A−ωE)(A−ω2E)=O より
A=E,ωE,ω2E,A(1,ω),A(1,ω2),A(ω,ω2)
この中で,実行列は,A=E,A(ω,ω2) の2つである。
以上のAをn次正方行列に拡張するために,次の3.4.の準備をする。
Prop2−1.Aの固有値が,α1,α2,…,αn⇒CHE(3.3)が成立する。つまり,
fA(A)=(A−α1E)(A−α2E)…(A−αnE)=O
が成立する
しかし,この逆は成立しない。例えば,A=α1Eについて,(3.3)が成立しているが,このAの固有値はα1(n重解)である。
そこで,Aの固有値が,α1,α2,…,αnとなるための十分条件を考察するために,次の最小多項式を導入する。
以下,n次正方行列Aについて,この最小多項式φA(A)の存在とその一意性を示す。
Prop4−2.(最小多項式の存在)
任意のAについて,最小多項式φA(A)が存在する
pr) CHEより fA(A)=O が成立しているが,これはn次式である。1次式 g1(A)=A+k1E=Oから調べれば,高々n回でgk(A)=O 1≦k≦nとなるgk(A)を得る。
このようなgk(A)の中で次数が最小のものが,φA(A)である。 □
Prop4−3.(最小多項式の一意性)
g(A)=Oとなる任意の多項式g(A)に対して,g(x)はφA(x)で割り切れる。
pr) g(x)=φA(x)h(x)+r(x),0≦degr(x)<degφA(x)とおくと,
g(A)=φA(A)h(A)+r(A)
ここで,g(A)=O,φA(A)=Oより,r(A)=O これは,φA(A)の最小性に矛盾
∴ r(x)=0
よって,g(x)はφA(x)で割り切れる。 □
Cor1. Aの固有多項式fA(x)は,φA(x)で割り切れる。
Cor2. fA(λ)=0⇔φA(λ)=0
pr)は,Cor1より成立
⇒について示す。Aの任意の固有値をλとおくと,∃x≠0 s.t.Ax=λx
よって,Anx=λnxの成立とφAの線形性より φA(A)x=φA(λ)x が成立。
ここで,φA(A)=Oより φA(λ)x=0 ∴ φA(λ)=0 □
Remark. このCor2.の結果,fA(x)=0とφA(x)=0の解は,重複度を除いて等しい。
e.g.4−4.次の3次の各正方行列について,いずれもCHEは,f(x)=(x−1)3=0であるが,最小多項式は,全て異なる。具体的には,
A=E:φA(x)=x−1
:φB(x)=(x−1)2,
:φC(x)=(x−1)3
以上の最小多項式を準備すると,
Main Theorem4−5.φA(A)=(A−α1E)(A−α2E)…(A−αsE)=O (4.1)
⇒ Aは,α1,α2,…,αsから重複してn個適当に選んだ組α1,α2,…,αnを固有値とする行列である。
つまり,A=A(α1,α2,…αn)である。
但し,α1,α2,…,αsから重複してn個を選ぶとき,煩わしいので必要に応じて固有値の番号は自由に付け替えて,α1,α2,…,αnとする。以後同様とする。
pr) Aの任意の固有値をλとすると,Prop4−3.のCor2.より,1≦∃i≦s s.t. λ=αiであるが,φAの最小性よりα1,α2,…αsのすべてがAの固有値となる。
よって,Aの固有値は,重複度を除いてα1,α2,…,αsである。次に,n次正方行列Aは重複度を含めn個の固有値をもつので,s≦nよりAは,α1,α2,…,αsから重複してn個適当に選んだ組α1,α2,…,αnを固有値とする行列である。 □
この結果を,次の(5.1)(5.2)(5.3)で用いることになる。
(1) 行列方程式 A2+kA+lE=O の解について
特性方程式 x2+kx+l=0 の2つの解をα1,α2とするときα1=α2(重解)も含めて行列方程式
(A−α1E)(A−α2E)=O
を解けばよい。ここで,degφA≦2より,
CASE1:degφA=1のとき,∴A=α1E,α2E
CASE2:degφA=2のとき,φA(A)の一意性より
φA(A)=(A−α1E)(A−α2E)=O (5.1)
α1,α2から重複してn個選んで,A=A(α1,α2,…,αn)
(2) 3次以上かつ(nー1)次以下の高次方程式 g(A)=O の解について
特性方程式 g(x)=0 の解をx=α1,α2,…,αm (1≦m≦n)とおくと,重解も含めて
g(A)=(A−α1E)(A−α2E)…(A−αmE)=O
ここで,degφA≦mより,
CASE1.degφA=1のとき,A=α1E,α2E,…,αmE
CASE2.degφA=rのとき,α1,α2,…,αmから,r個選んで
φA(A)=(A−αi1E)(A−αi2E)…(A−αirE)=O 1≦i1<i2<…<ir≦m (5.2)
αi1,αi2,…,αir から重複してn個選んで,A=A(α1,α2,…αn)
(3) n次以上の高次方程式 g(A)=O の解について
特性方程式 g(x)=0 の解を,重解も含めてx=α1,α2,…,αmとおくと,degφA≦nより,
CASE1.degφA=1のとき,A=α1E,α2E,…,αmE
CASE2.degφA=rのとき,α1,α2,…,αmからr個を選んで
φA(A)=(A−αi1E)(A−αi2E)…(A−αirE)=O 1≦i1<i2<…<ir≦n (5.3)
αi1,αi2,…,αirから重複してn個選んで,A=A(α1,α2,…,αn)
e.g.5−1. A2−2A+E=Oをみたす3次の正方行列Aを求めると,
A=E,A(1,1,1)
e.g.5−2.A4=Eをみたす3次の正方行列Aを求めると,
A=E,−E,iE,−iE,A(α.α.β),A(α.β.β),A(α.β.γ)
ここで,α.β.γの組は,±1,±iから選んで,16通り
Prop6−1.任意の正則行列Pに対して,AとP-1APとはその固有値が一致する。
つまり,A〜B(相似)⇒fA(x)=fB(x),φA(x)=φB(x) が成立する。
この結果,x=α1,α2,…,αn を固有値とするある行列Aは,任意の正則行列Pを使って
として構成すればよいが,この構成によって,x=α1,α2,…,αn を固有値とする行列がすべて求まるわけではない。反例として,,について,fA(x)=fB(x)=(x−1)2であるが,A〜Bでない。
つまり,P-1APによって,Bを構成することはできない。
そこで,次のように対角化(標準化)を用いる。
(1) 2次の正方行列のとき
Prop6−2.α,βを固有値とする任意行列A(≠mE)に対して,
T.α≠βのとき,∃P:正則行列 s.t.
U.α=βのとき,∃P:正則行列 s.t.
pr) (この証明はいろいろなところで言い尽くされているが,特にU.について,x1とx2の連立方程式(6.1)の解き方を工夫したので,他と比べて頂きたい)
T.について Ax1=αx1,Ax2=βx2 とおくと,
ここで,P≡(x1,x2)とおくとx1,x2 は一次独立
[∵if そうでないとするとx2=kx1 よりA(kx1)=β(kx1) αkx1=βkx1
よって,α=βとなり矛盾!
よって,Pは正則で,よりが成立する。
U.について まず,重解条件よりfA(A)=φA(A)=(A−αE)2=O
P≡(x1,x2)とおくと,
⇔⇔⇔ (6,1)
この(6.1)をみたす一次独立なx1,x2を求めればよい。A−αE≠O より ∃x2 s.t.(A−αE)x2≠0
このx2に対して第2式よりx1=(A−αE)x2 とすると,このx1について(A−αE)2=Oより第1式が成立し,かつこのとき,x1とx2一次独立
[∵k1x1+k2x2=0とおくと,
k1(A−αE)x2+k2x2=0,k1(A−αE)2x2+k2(A−αE)x2=0
ここで,(A−αE)2=O かつ (A−αE)x2≠0 よりk2=0 さらにk1(A−αE)x2=0よりk1=0]
よって,P=(x1,x2)は正則で,
Cor1.α,βを固有値とする任意行列Aは,適当な正則行列Pを使って,
α≠βのとき,,α=βのとき,
とかける。
e.g.6−3.A2−2A+E=Oの解A(1,1)は,適当な正則行列Pを使って,と構成できる。
A(1.1)なる一つとして例えば,の構成は,まずその対角化を求める。
x=1が重解,fA(A)=φA(A)=(A−E)2=O,(A−E)x2≠0なるx2としてととると,
このとき,とおくと
よって,このPを用いて,
(2) n次の正方行列のとき
Prop6−4.α1,α2,…,αnを固有値とする任意の行列Aに対して
T.φA(x)が重解をもたない⇔Aは,対角化される
U.φA(x)が重解をもつとき,その重解の1つをαiとすると,Aはなる細胞(Jordan細胞)行列をいくつか並べてできる行列に相似(Jordanの標準形)
(証明略,例えば佐武一郎著『線型代数学』を参照されたい)
e.g.6−5. A2=Eをみたす3次の正方行列Aで,A=E,A=−E以外を求めると,
φA(A)=(A−E)(A+E)=O
は重解をもたないので,例えば,A(1.1.−1)なる任意のAは,適当な正則行列Pを使って
として構成できる。
e.g.6−6.(A−E)2(A−2E)=O をみたす3次の正方行列Aは,x=1が重解に注意して,
degφA=2のとき,φA(A)=(A−E)2,(A−E)(A−2E) より例えば,
A(1.1.1),A(1.2.2)
なる任意のAは,それぞれ適当な正則行列Pを使って,
,
Pとして構成できる。
degφA=3のとき,φA(A)=(A−E)2(A−2E) よりA(1.1.2)なる任意のAは,適当な正則行列Pを使って,
として構成できる。
A(1.1.2)なる一つとして例えば,の構成は,Prop.6−3より,ととればよい。
e.g.6−7.(A−E)4=O をみたす4次の正方行列Aは,x=1が重解に注意して,
degφA=2のとき,φA(A)=(A−E)2 より,A(1.1.1.1)なる任意のAは,適当な正則行列Pを使って,
,
として構成できる。
Remark6−8(冪零行列の標準形) このe.g.6−7.は,A−E≡N とおくと,N4=O, degφN=2 より,冪零行列の標準形から求める方法もある。
Def7−1.(可換零因子の定義)
Aが可換零因子とは,OでないAに対して ∃B≠O s.t.AB=BA=O
このように定義すると
Prop.7−2 Aが可換零因子 ⇔ detA=0
pr)⇒は,背理法から明らかだが,この逆 を最小多項式を使って証明するとともに,可換零因子Aに対するBの構造を明らかにする。
(1) Aが2次の正方行列のとき
detA=0 より,Aの固有値を,0,α とおくと,φA(A)=A(A−αE)=O
ここで,B≡A−αE とおくと,φAの最小性より B≠O s.t.AB=BA=O
(2) Aがn次正方行列のとき
detA=0 より,Aの固有値を,0,α1,α2,…,αn-1 とおくと,
fA(A)=A(A−α1E) …(A−αn-1E)
ここで,Aの相異なる固有値を,改めて,0,α1,α2,…,αs とおくと,degφA=r(2≦r≦s)のとき,α1,α2,…,αsからr−1個を選んで,改めてα1,α2,…,αr-1とおくと,
φA(A)=A(A−α1E) …(A−αr-1E)=O
B≡(A−α1E) …(A−αr-1E) とおくと,φAの最小性よりB≠O s.t.AB=BA=O
以上より,Aは可換零因子である。 □
e.g.7−3.のとき,φA(A)=A2(A−E)=O
よって,B≡A(A−E) とおけば,AB=BA=O が成立する。
最後に,いつもレポート発表の機会を快く提供してくれた数学教育実践研究会,特に役員の方々,また,お忙しい中丁寧な指導して頂いた吉田知行教授に,感謝申し上げ,結びとしたい。