正弦定理の証明

長沼高校 佐藤 清


外接円の半径Rを積極的に用いる証明
 1 普通の証明(1)
 2 垂線CHの長さに着目した証明
 3 中心原点、半径Rの円を用いる方法
 4 図形と式を用いる方法

「〜 〜」は私の感想です
 〜無理やり円を作るところが不満〜
 〜見事!と一瞬自慢。しかし面倒〜
 〜倍角公式を先に教える訳がない〜
 〜図形と式は数U正弦定理は数T〜
Rを考慮しない証明
 5 普通の証明(2)
 6 面積の公式からの証明
 7 第2余弦定理からの証明
 8 第1余弦定理からの証明
 9 幾何学的証明

 
 〜この図は後々まで使える所に魅力〜
 〜鮮やかだが図形的に扱いたかった〜
 〜授業では扱えないが興味深い〜
 〜これは無理矢理に近い〜
 〜数学史の文献にのっていました〜
正弦定理の周辺話題
 ラミーの定理
 数学史と正弦定理
 ふりだしに戻る
 
 〜初めて知りました〜
 〜調べると難しい〜

1 普通の証明(1)


(Aが鋭角の場合)

(直角の場合)

(鈍角の場合T)

(鈍角の場合U)

2 垂線CHの長さに着目した証明 (5 普通の証明(2)の変形)

角Aが鋭角,角Bも鋭角の場合

△ABCの外接円の中心は、各辺の垂直二等分線の交線であることを用いて
  CD=a/2  OD⊥CD
円周角と中心角の関係から
  ∠A=∠COD
以上より △CAHと△CODは相似だから
  b:CH=R:a/2
CH=bsinAとして変形して
  a=2RsinA

 注@CH=asinB としてもよい
 注AsinA=sin∠COD=CD/CO としてもよい。
 注BCOを延長して円周との交点をEとする
  するとおなじみの図。この時も△CAHと△CEBとが相似で同様にできる。

角Aが鋭角,角Bが鈍角の場合

Bが鈍角でも左のように考えるとCH=bsinA となり上の場合と同じことになる。

 注CCH=asin(180°−B)でもよい。
 注DsinA=sin∠COD=CD/CO としてもよい


3 中心原点、半径Rの円を用いる方法

BC間の距離に注目し最後に半角公式を用いる。
  a2=R2(1-cos2A)2+R2sin22A
   =R2(1-2cos2A+cos22A+sin22A)
   =2R2(1-cos2A)
  

4 図形と式を用いる方法

直線ACは 
直線DOは 
Oの座標はx=c/2として 
三平方の定理を用いて 
余弦定理より 

5 普通の証明(2)

△ACHで  CH=bsinA
△CHBで  CH=asinB
これより  bsinA=asinB  よって  

6 面積の公式からの証明

△ABCの面積をSとすると
   2S=bcsinA=casinB=absinC
全てをabcで割ると
      ∴ 

7 第2余弦定理からの証明1)

 

 角B、Cについても同様の結果になることによって証明できる。またこの式の最右辺に注目すると、外接円の半径Rをabcで表していたり、ヘロンの公式が見えて興味深い。
 ※ある参考資料2)によるとラグランジュが1799年に余弦定理から正弦定理を導いたとある。

8 第1余弦定理からの証明3)

a=bcosC+ccosB に C=180°−(A+B) と c=acosB+bcosA を代入して
   a=−bcos(A+B)+(acosB+bcosA)cosB
    =−b(cosAcosB−sinAsinB)+acos2B+bcosAcosB より
a(1−cos2B)=bsinAsinB
asin2B=bsinAsinB  よって   ∴ 

9 幾何学的証明 ヨッローパにおける三角法の基礎をつくったレギオモンタヌス(1436-1376)の証明4)

 右図のようなAC=1なる△ABCにおいて、∠B>∠Cのとき、BAの延長上にBD=1となる点Dをとり、AおよびDよりBCへ垂線AK、DHをひく。このとき、
   DH=sinB,  AK=sinC
よって
   AB:AC=AB:BD=AK:DH
        =sinC:sinB

ラミーの定理5)

 3つの力 F1,F2,F3が1点Oに働いてつり合っているとき、右図のように力の三角形は閉じるので、正弦定理より
   
よって,
     (ラミーの定理)
 力の合成に正弦定理を活用するという発想が興味深い。逆に力の合成をヒントに正弦 定理を証明できないか考えてみたがうまくいかなかった。(余弦定理は証明できる)

数学史と正弦定理

 ある参考資料2)によると正弦定理は11世紀にアラビアのアル・ビールニー(973〜1048)が導いたとされている。一方余弦定理は、ユークリッド原論にその原形があるが、16世紀にフランスのヴィエト(1540〜1603)が余弦定理をはっきり定式化したとなっている。
 もともと三角比は古代ギリシャのプトレマイオスの角に対する弦の長さの研究を起源とするようだが、それは現在のような三角比の概念ではなく、天文学の研究のために必要な数表としての扱いであったようだ。次に5世紀頃インドで半弦(弦の半分)の表がつくられ、それが現在のsinやcosの原形と考えられている。その後10〜12世紀にアラビアにおいてさらに三角法が進展し、この時代に正弦定理が誕生した。しかしこの頃はまだ円との密接な関係からは抜け出してはいなかったようだ。

 つまり正弦定理の”R”には、古代ギリシャから継承されていた”天文学の道具としての円と角との研究という歴史的な意味合い”が内包されていいるのではないか。また現代のように三角形の解法のために正弦定理を活用したのは、余弦定理の誕生とともに15〜16世紀のヨーロッパからといわれている。
 (数学史は奥が深くて、調べるには相当な労力が必要だとわかしました。誤りがあれば教えて下さい。)

 私はこれまで、正弦定理が三角形の解法のための公式と考えていたので、突然の外接円の半径Rによる証明には常々違和感を感じていた。できれば省略してしまいたいとも思っていた。正弦定理を教える時になって突如出現しあっという間に消えていく外接円の半径Rは、三角法の歴史とその成立過程とを現代に伝える大変興味深いキーワードと読みとることもできる。

ふりだしに戻る

 こう考えると、教科書に載っている普通の証明(本稿の1)は、指導の系統性や三角形の解法の側面からは若干違和感があるが、歴史的に重要な意味合いを含んだ興味深い証明であった。私はこの証明が大嫌いで様々な証明を探し求めたはずなのに、結局ふりだしに戻ることとなってしまった。

 勝手な自己満足だが、何も知らないで漠然と教えることと、いろいろなことを知った上で教えるのでは多少なりとも違うはずである。
 今度正弦定理を教える時は、Rを使わないで証明した後さりげなくRに触れるか、それとも歴史を語りながら普通に証明するか、迷うと同時に楽しみである。



それで実際はこうしました。
1時間目正弦定理の証明歴史を語りながら「普通の証明1」で証明
2時間目正弦定理の確認三角比の表をつかって正しいことを確認
3時間目正弦定理の利用辺の長さを求める
4時間目正弦定理の利用角の大きさを求める(内角の和が180°)
5時間目まとめと演習外接円の半径、および演習



参考文献

1)植野義明著わくわく学ぶ数学Aの考え方増進会出版社1997
2)保坂秀正他訳グレイゼルの数学史U、V大竹出版1997
3)数学解法事典 旺文社 
4)武隅良一著数学史培風館1959
5)金田数正著ひとりで解ける三角関数内田老鶴圃1996