有理数の稠密性と有理数と自然数の一対一対応について

追分高等学校 教諭  長谷川 貢

 P1,P2,P3,・・・,Pnが全て有理数のとき,これらの数を四則演算によって作り出した新しい数も含めて全て有理数である。また有理数は十分に大きな自然数を掛けると全て整数になる。また自然数はいくらでも大きい数が存在する。この当たり前の考え方を用いて作られた問題を具体的に解いてみようと思う。

 座標平面上の原点をO(0,0)とする。またx座標およびy座標がともに整数であるような点を格子点という。

(1)tを正の実数とする。点P(−1,0)を通り,傾きがtの直線と単位円x2+y2=1とのP以外の交点をQ(t)とする。Q(t)の座標を求めよ。次に,0<s<tをみたす2つの実数s,tに対し,線分Q(s)Q(t)の長さを求めよ。
(2)∠Q(s)PO=α,∠Q(t)PO=βとし, とおく。もしu,vがともに有理数ならば,線分Q(s)Q(t)の長さもまた有理数になることを示せ。
(3)任意に与えられた3以上の整数nに対し,次の条件(C1)(C2)(C3)をすべて満たすn個の異なる点A1,A2,A3,・・・,Anが,座標平面上に存在することを証明せよ。
  (C1) A1,A2,A3,・・・,Anはすべて格子点である。
  (C2) A1,A2,A3,・・・,Anのどの異なる3点も一直線上にない。
  (C3) A1,A2,A3,・・・,Anのどの異なる2点Ai,Ajに対しても,線分Ai,Ajの長さは整数である。

1999年 東京大学 理T(後期)


考え方について

 三角関数をパラメータを用いて表わしてみる。 とおくと
   
また
   , 
これらをまとめて
   
また,tanα=m より と置くと2α=θより
   
となる。同様に
   
となる。


有理数と自然数の濃度の関係について

 自然数全体をN,正の有理数の全体をQ+で表わす。このNとQ+の関係を考える。

 包含関係から,N⊂Q+は明らかである。
逆を示す。
 正の分数の分母をm,分子をlとする。分数は既約であるとは仮定しない。そしてm+l=kとして,kの小さい順に正の有理数を並べていくことにする。そのとき,分母は小さい順に並べることとする。
   k=2のときは,分数は1/1である。
   k=3のときは,2/1,1/2の2個である。
   k=4のときは,3/1,2/2,1/3の3個である。
よって,
   k=nのときの分数は,(n−1)/1,(n−2)/2,・・・,2/(n−2),1/(n−1)
となる。またk=iのときの個数が(i−1)個より,k=2かたk=nまでの分数の個数は
   1+2+3+・・・+(n−1)=n(n−1)/2
となる。これより任意の自然数Mに対してm+l=Mとなる分数は,
   最初の分数が (M−1)(M−2)/2+1 番目
であり,
   最後が M(M−1)/2 番目
である。よって任意の正の分数 M1/M2 もすべて番号が付けられたことになる。よってNとQ+は1対1対応であるから,NとQ+は同じ個数である。それでは有理数の場合はどうかというと,次のようにして番号を付けていけばすべての有理数に番号を付けることができる。
 具体的に並べてみる。

0,1/1,−1/1,1/2,2/1,−2/1,−1/2,3/1,2/2,1/3,−3/1,−2/2,−1/3,・・・,(n−1)/1,(n−2)/2,・・・,1/(n−1),−(n−1)/1,−(n−2)/2,・・・,−1/(n−1),n/1,・・・となる。


問題の解答

(1) y=t(x+1) ・・・@ 傾きt,点(−1,0)を通る直線
  x2+y2=1 ・・・A 原点を中心とする半径1の円
@とAの交点を求めよう。
@をAへ代入して
   x2+t2(x+1)2=1
   (x+1){(1+t2)x−(1−t2)}=0
よって x=−1,
またx≠−1, ,y=t(x+1)より
   
   
   
これより
   

(2) ∠Q(s)OP=β,∠Q(t)OP=β とする。  とおく。@より
   
   
また,
   
同様に tanα=s となる。また,
   
同様に
   
また,u,vは共に有理数であるからsもtも共に有理数である。(1)より
   
同様に
   
よって
   
よって,t,s,u,vがすべて有理数より,|Q(s)Q(t)|も有理数である。

(3)∠Q(t)OP=α とし, (有理数)とおく。直線PQの傾きをtと置くと
   
であるから,tも有理数である。また,
   
の各座標もともに有理数である。よって,n個の有理数を
   0<u1<u2<……<un<1
として
   
と置く。tkは全て有理数より
   
の各座標もともに有理数である。また,2点Q(tk),Q(tj)の距離はtk>tjとすると
   
また
   
であるから,2点間の距離は全て有理数である。次にQ(tk)をukを用いて表すことにする。

x座標は
   
y座標は
   
よって,x座標,y座標ともに有理数である。
また,ukは正の有理数であるから,uk=lk/mk (mk,lkは自然数)と置くことができる。
Q(tk)のx座標は
   
y座標は
   
と置く。同様にQ(tj)は
   x座標は  
   y座標は  
と置く。よってベクトル をそれぞれ
   (mk2+lk2)2 (mj2+lj2)2
すると,両ベクトルとも分母が約分できてx座標もy座標もともに整数になる。その点をB(tk),B(tj)とおく。
   
同様に
   
とおく。Bより上のベクトルを成分で表す。
のx座標,y座標を求める。
x座標は
   
同様にy座標は
   
これよりx座標,y座標ともに整数である。
同様に もx座標,y座標ともに整数である。

次に,2点OB(tk)OB(tj)の距離を求める。
   △OQ(tk)Q(tj)∽△OB(tk)B(tj)
であり,相似比は
   (mk2+lk2)2 (mj2+lj2)2
より
   
よって
   
これを用いて
   
よって,B(tk),B(tj)の両方ともにx座標,y座標が整数となる。また2点間の距離 B(tk)B(tj)も整数となる。
これよりA1,A2,A3,A4,A5,・・・An を作る。
(mk2+lk2)=Mkとおき,M=M1・M2・M3・・・・Mnとおく。
とおくと,
   
となり整数で表すと
   
  (上の式ではk番目のMkがなくて式がその代わりに入っている。)
このようにして作ったn個の点A1,A2,A3,・・・・Anは全て半径M上の第一象限にあるから問題の求めるものになっている。


この問題の発想について

 原点を中心とする半径1の円周上の第一象限の部分に,どの2点のx座標,y座標及び距離がすべて有理数となるような点をn個とる。そして,この円を大きくすれば,いつかはすべてのx座標とy座標はすべて自然数になるというわけである。つまり,高々n個の有理数の分母すべての積を作っても,できる数字はやはり自然数であるわけである。つまり加算無限個の持つ意味に感心する次第である。この後に続く「Sardの定理」などを思い浮かべながら・・・

「Sardの定理」
fをRnの開集合WからRmへのC写像としCをfの臨界点全体からなる集合とするとき,f(C)はRmの測度0の集合である。

「臨界点の定義」
fをRnの開集合WからRmへのC写像とする。Wの点xにおけるfの微分係数df(x)がrank(df(x))<mを満たすとき,xをfの臨界点と呼ぶ。