北海道追分高等学校  長谷川 貢


 今回のレポートのねらい

 惰性に流されがちな目常生活にあって,ふと自分の行っている授業について考えてみることがあります。「こんなことで本当に良いのだろうか。」とか「何をこの私は言おうとしているのだろうか。」等です。ある人は,「教科書までは何とかしよう。」とかまたある人は「OO大学に何人合格させよう。」というようにです。
  1. 私は数学の教員として生徒に数学の楽しさや面白さを与えることが,本来の数学の教員の仕事であると考えています。生徒に訳の分からない間題を解かせたり,訳の分からない味気のない公式を暗記させるのが,本来の仕事ではないと考えています。といいましても,なかなかそのような授業はできません。
  2. 今回は,1回だけの授業です。つまり後で付け加えることが出来ません。そのつもりで行った公開授業とその感想です。

 先生方の少しでもお役にたてば幸いです。


 北海道根室高等学校における体験入学の時の数学の授業について

 平成10年度の普通科の体験入学で,新しい試みとして中学生に30分間だけ授業を行うことになりました.そこで,高等学校でしか授業をしたことがない高等学校の教員として,一体どのような内容の授業を行うことがよいかということをいろいろ考えてみました。

 前提となる条件として,次のように考えてみました。

  1. 中学で行われているような授業内容と同じような講義は行いません。
  2. 高等学校で行っている授業の内容では,彼らに前提となる基礎知識が全くありまぜんから,その講義の内容に入る前に30分の時間が過ぎてしまいます。(授業時間は30分しかありません)
  3. 彼らの現在一番の関心事である高校入試の勉強では,体験入学がまるで進学塾と勘違いされてしまう恐れがあります。

 以上の考え方から,今回,取り上げてみようと思いついたものとして,「秋山仁教授」が盛んに推進している「実験数学」らしきものを行づてみようと考えた訳であります。

 この事の利点として,次の点があげられます。

  1. 問題にとうつき易いです9
  2. 前提となる基礎知識がなくても,ある程度は先の見通しがつきます。
  3. なんとなく分かったような気になります。

 その様な事から,今回は,赤と青の画用紙を直径6cmに切り抜いて磁石に張り付け,オセロもどきの教材を作って,次のような内容で授業をおこなってみました。


 オセロみたいな数学の問題

 今回はオセロのような数学の問題を考えてみましよう。
 自と黒のオセロが図のように並んでいます。
 白のオヤロを一つつけたとき,つけられたオセロは裏返すことにします。

    

1 2 3 4 5 の所に○が入ると次のようになります。

1のとき
2のとき
3のとき
4のとき
1のとき

 このとき次の問いに答えてくだい。

 始めに白丸が一つあります,これに白丸を一つづつつけていくとします。
 そのとき,次の図形で作ることが出来るものはどれでしようか。実際に確かめてみたいと思います。

 
 
 
 
 
 

 次に○を一つづつ,つけて行くとき○だけからまたOだけになったときに最低でもいくつ○が増えているか確かめて見ましょう。

 
 
 

 これから○の増え方の規則が少し分かってきましたね。

問.始めに白丸が一つあります。これに白丸を一つづつつけていくとします。そのとき全てが○となっているときその○の個数にはどのような法則があるでしようか。また,どうしてそのことが正しいことを証明してください。
 この証明をするには時問と道具が必要ですから,それは高等学校に入ってから行ってください。(関心のある人は最奇りの先生にお聞きください)

 これらのことで分かったことは,次のようになりました。

  1. ○の増え方は(  )ずつのようです。それ以外にはないと思われます。
  2. ○の個数を少ない順に書いていくと(     )となります。
  3. (i),(ii)より○の個数には次のような規則があるような気がします。

    また,これ以外にはたぷんないでしよう。

 以上です。
 本日の数学のお話はどうでしたか。


 実際に授業を行ったときの内容

 ホワィトポードを用いたために,実際のオセロの色は白と黒でありますが,少しでも見やすいようにと考えました結果,赤と青の二色で表と裏を作りました。
 説明は,問題の概念が分かるようにと,その導入の部分については,時間を多く使い,出来るだけ丁寧に且つ具体的に行いました。
 さらに,結論の部分に論理の欠落があるため,その部分については手作りのオセロを用いて補っておきました。
 まずは,授業で行った内容を次にまとめる。

オセロの操作の手順について

  1個
 2個
3個

   1個
  2個
 3個
4個

 この手順から1,3,4の個数が出来ることが分かります。

 次に,○の増え方について

   5個
  6個
 7個
8個

   5個
  6個
 7個
8個

 これより全部が白丸で始まり,次にまた全部が白丸になるとき少なくとも○は3個増えることが分かりました。
 このことを考えますと,○の個数は次のものは作ることが出来るということが分かります。

   1,4,7.10,13,16,19,・・・,3n−2  @
   3,6,9,12,15.18,21,・・・,3n    A

 数学屋という人種は変なところに神経質でありまして,今までに分かった事は○の個数は3nと3n一2という形をした自然数であることと,2,5はできなくて,○の増えかたは少なくても3個である事が分かったのであります。だからといって30002個は出来ませんでしたが,30005個は出来るかもしれないのです。数が多くなれぱどこかごまかしてしまう事が出来るかもしれないのです。だからこそ,@とA以外ぽ本当にない事を確かめる必要があります。
 そこで,再度実際にオセロを用いて同じような実験を行う事にしました。

 ○ ○ ○ ○ と○が4個並んているとき,左端から○を1個つけていきます。そして,裏になって●となった○を順番に右の方にずらしていきます。そのことを続けていく事にします。すると,最後に右端が●となったとします。そうなった後に右端の右に○をつけれぱ,全部が○になる訳であります。

 手順を図示します。

     4個
    5個
   6個
  7個
 8個
9個

       6個
      7個
     8個
    9個
   10個
  11個
 12個
13個

 上の図から次のような事が分かってきます。

 ○がn個あったとき,左の端に○を1個つけます。そのとき,左端から2番目が●に変わります。それ以後は,●の右に○をつけていく事を繰り返します。ある回数だけその操作を繰り返しますと,一番右の端に●がやってきます。
 それを図示しましよう。

          10 ・・・n
           ・・・○

 左の端に○を1個つけたときの図であります。

          10  ・・・n 
            ・・・● 
          ・・・○

 ●がn番自にやってきたときの図であります。1からnまでの○(ただしn番目だけは●であります)にたいしてすぐ下には○が1個ずつ対応している事がよく分かると思います。つまり,○がn個増えた択であります。
 そして最後にとどめの1個を右端につけます。

          10  ・・・n 
            ・・・○ 
          ・・・○

 これで○が(n+1)個増えた事がお分かりいただけたと思います。
 ○の個数が3nのとき増える○の個数が(3n+1)個より
   3n+(3n+1)=6n+1=3m−2
となり,これは,
   1,4,7,10,13
の数列に含まれてしまいます。
 ○の個数が(3n+1)のとき増える○の個数が(3n+2)個より
   (3n+1)+(3n+2)=6n+3=3m
となりこれは,
   3,6,9,12,15
の数列に含まれてしまいます。
 これによって,やはり○の個数は@とAとなってしまったのであります。

 次に1からnまでの○の隙間から勝手にm個の隙問を選んでそこに○をつけたのちに再度○をつけて全てが○になるときのことも気になりますが,この事の証明は直感で行うことにはかなりの論理の飛躍を伴いますし,中学生を対象とした話題ではありませんので,そのことを取り上げる事はしないことにしました。


 実際に授業を行ったときの感想

 最後に,この体験学習に参加していた2人の中学生に感想を聞いたところ,「楽しかった,」「分かった。」と答えていました。
 私としては,中学生が分かった気になった事や楽しかった事で満足しています。また,この授業を適して,「数学」とはただ「公式」を暗記するだけのものてはないことと,本来はもっと楽しいものであるという事を強調しておきました。
 また,この講義を聞いていた中学生が,高校での数学に夢を持ってくれる事を願っております。
 「未知なるものに対しての飽くなき好奇心を持つ若者に対して,数学に対する我が夢を語り続けたいものです。」

qed.1998.11.8