第41回数学教育実践研究会
2002/6/15

〜 提示方法のちょっとした工夫 〜

札幌藻岩高等学校
菅原 満

■■■ はじめに〜5単位では苦しい! ■■■

 今年度より学校週5日制が始まり,本校は1学年で「数学T(4)+数学A(1)」と昨年に比べて1単位減での授業展開をすることとなった.新課程のカリキュラムが議論される中で現行カリキュラム最後の数学Tの授業となる.実際この1単位減の影響はかなり大きいものである.2次関数の分野においては"平方完成","グラフ描画","最大最小問題"など定着を図りたくとも時間がない.という状況が噴出している.当然の帰結として,毎日の宿題に始まり週末課題さらに,小テストの実施,朝追試の実施と授業以外でのサポートの増強を図ることになる. また,2学期制の実施に伴い定期考査が減ったがその分"統一テスト"を実施し,テスト時間は変わらず,1単位減はそのまま授業進度に影響を与えることになった.

〜閑話休題〜

 鉛筆の持ち方が気になる.いわゆる"親指オーバーハング現象"である.テスト監督をしているとき数えてみると16人が"ハーフオーバー"で3人が"完全オーバー"でありいわゆる"秘技ドラエモン"持ちであった.
 この件を小手技シリーズで有名なN先生と話していると「爪の伸ばしている女子」というN先生らしい分析であった.皆様の学校の生徒はいかがでしょう?この現象が学習定着などと相関があるかどうかはいまだ不明です...

 本レポートはパラメータを含む2次関数の最大・最小というオーソドックスな教材についてです.
 本校に赴任してから担任をもった生徒が教育実習(数学)に来ており,プレゼントの意味でパソコンによるシミュレーション授業を思い立ち実践したものです.4校時に行う授業を1校時に思い立ちやっつけで準備をしたため授業中の撮影もせずじまいだったので教室での画像は,後日撮影したものであることを付記しておきます.
 本授業のポイントは下記のとおりです.
  1. 黒板による説明とシミュレーション場面の融合を図る〜黒板への直接投影
  2. シミュレーションは"ドメインUFO"に基づき作成.使用ソフトは"Grapes",
  3. 解答は,まずMax,Minで場合分け
 シミュレーションはあくまでイメージを高めるものであり,それだけで問題を解けるようになるわけではありません.そのため,シミュレーション場面を想起できるようなシェーマの工夫が大切になります.それが,生徒自身による演習意欲を助けるものになると思います.しかし,先に述べた授業進度のこともあり比較的余裕のあるクラスにこの授業を実施し,時間のないもうひとつのクラスではこの授業は行っていません.結果がどう出るかは6/10からの試験の結果を見てみることにします.

■■■ 1.授業の概要 ■■■

○実施日時 平成14年5月24日(金) 4校時
○対象クラス 藻岩高校1年2組
○単元 パラメーターを含む2次関数の最大値・最小値
○教材 自主プリント
○使用ソフトウェア Grapes

時間 内    容 備  考
5分 ○前時の復習〜基本事項の整理
Level.1 定義域に制限なし
Level.2 定義域に制限あり
  ※最大・最小〜yの値に着目
※黒板左にまとめる
15分 Q3. の最小値をm
(1)最小値mをaで表せ
(2)m(a)の最大値を求めよ →シミュレーションによりイメージ化
問題文の読解
・定義域制限の有無を確認
・平方完成
20分 Q4.
 (1) 最大値Mの場合分け →シミュレーションによりイメージ化
 (2) 最小値mの場合分け  →シミュレーションによりイメージ化
問題文の読解
10分 板書でまとめる シェーマの提示

■■■ 2. の最小値の最大値を求める ■■■

 「最大・最小」問題では,「何の」最大最小を考えているのかを明確にしなければ判断に窮する.ここでは,関数の値域(yの変域)であることを強調したい.シミュレーションに際しては,画面の提示に工夫をして伝えたい事項をマークアップする.

(Fig.1) グラフの概形表示 (Fig.2)頂点を表示
(Fig.3)値域の最小値をマークアップ (Fig.4)パラメータを変化させてm(a)の変化を表示

(1)Grapesの設定

【関数定義】[f(x)=]2x^2-3ax+2a
【陽 関 数】[y1=]f(x)
【基本図形】

(図形P〜頂点) (図形S〜Min)
[座 標]
 [x=](3a)/4
 [y=]f((3a)/4)

[ラベル]<B>P</B>
[座 標]
 [x=](3a)/4
 [y=]Py 
※Py〜点Pのy座標
[ラベル]<RED><B>Min    </B></RED>

【線分】

左のアイコンをクリックし点Sから点Pへ線分を指定し→の向きはP→Sとなるように指定する.

※Sの表示とともに→を表示させるため必ずSからPへ引くこと.矢印の向きは後で指定する.

(2)シミュレーションにあたって

 より効果的に提示するには,工夫が必要である.
 以前,北数教の発表レポートの時は「Multi Frame」すなわち,提示情報の細分化に応じGrapesのファイルを分割してシミュレーションを行っていた.しかし現在のversionでは,関数・基本図形など表示・非表示の切り替えが可能なため1ファイルで同様の効果を得ることができる.
 実際の授業においてはこの機能を活用したほうが便利である.
 具体例を示す.右上図ではPは表示,QとSは非表示である.図形を示すシンボルをクリックすることでトグルで表示・非表示が入れ替わる.授業において生徒に強調したいことを分析して,この操作によって必要な図形だけを表示すればよい.
 この教材では,次の表示順にしてみた.Bにおいて頂点Pを表示したときy軸への射影も同時に表示するようにしてみた.これについては(1)を参照していただきたい.
  @陽関数
  A頂点(P)
  BPのy軸への射影(S)  ※このときPからSへの→も同時に表示

 また,残像の表示・非表示も可能である.
 右の例では残像は非表示の状態である.パラメータを変化させて確認した後で残像表示可能としてm(a)の変化の推移をマークアップする.

 Grapesのメモ,ラベルはテキストだけではなく式,式の値なども表示できHTML同様のタグで文字装飾も可能となっている.
 以下,ヘルプファイルより抜粋

【文字装飾】
  • <B>と</B>で挟まれた文字列は太字で表示される.ただし,式には適用されない.
    同様に,<I></I>は斜体,<U></U>は下線を表す.
  • <Red>と</Red>で挟まれた文字列は,赤字で表示される.
    同様に,Green,Blue,Blackの3色を使うことができる.
  • <L>と</L>で挟まれた文字列は,大きなフォントで表示される.
    同様に<S></S>は小さなフォントで表示される.
  • <Normal>から後の文字列は,それ以前に設定した文字飾りを取り消して,初期値で表示される.
    ※<>の中の文字は,大文字でも小文字でもどちらでも構いません.
【ベクトル記号】
  • <v>と</v>ではさまれた文字列の上には,矢印が表示される.
  • <v>と</v>の代わりに,v{ と } を用いてもよい.
    例: ベクトルAB ならば <v>AB</v> または v{AB}

■■■ 3. の最大値,最小値を求める ■■■

 いわゆる「制限された定義域でのパラメータつき2次関数のMax,Min」問題である.この授業では3パターンある中から関数にパラメーターaを含む場合を取り上げた.関数が固定で,区間の両端が a≦x≦a+2であるようなタイプのものは,後述するシェーマを使えばグラフの上下動(?)を無視すれば同一視できるものである.
 パソコンによるシミュレーションとシェーマを用いた説明を如何にリンクさせていくかが学習内容の定着化の鍵を握っている.

(1)Grapesの設定

【関数定義】[f(x)=] x^2-2ax+a
【陽 関 数】[y1=] f(x)(x<t or t+2<x) [色]青
      [y2=] f(x)(t<=x<=t+2)   [色]緑
      [y3=] f(x)        [色]青

  

【基本図形】

(@)定義域内の比較すべき点を設定する.なお,頂点は定義域内のときのみ表示する

(頂点P) [種類]点,[x=] 1,[y=] f(x)(t<=a<=t+2),[色]青,[ラベル]<B>P</B> 下に表示
(端点Q) [種類]点,[x=] t+2,[y=] f(t+2),[色]青,[ラベル]<B>Q</B> 右下に表示
(端点R) [種類]点,[x=] t,[y=] f(t),[色]青,[ラベル]<B>R</B> 左下に表示
( 軸 ) [種類]縦線,[x=] a,[色]赤

  

(A)定義域を帯状に表示する

@(直線x=t)[種類]縦線,[x=]t,[色]白
A(2,2)付近にマウスを持っていき右クリックから点Gを打つ※右図参照
B"2点を結ぶ"をクリックして点Gから直線x=tに線分を引き,線種を矩形,領域を黄色にする.
C点Gのx,y座標を変更しGをグラフ外へ移動する. [x]t+2,[y]30
※陰関数を利用して0≦x≦2などとしてもハッチングで表示でき固定領域の場合は有効である.本問題では領域を移動するためより高速な上記の方法が有効である.

  

(B)MaxUFO,MinUFOの表示

 Max,Minの表示は,シェーマによる説明とリンクさせる.藻岩高校 中村先生の「ドメインUFO」のアイデアに相乗りさせていただいた.

(MaxUFO) (Max左端点)[x] t,[y] max(Py,Qy,Ry) [色]赤,[太さ]○
(Max右端点)[x] t+2,[y] max(Py,Qy,Ry) [色]赤,[太さ]○
2点を作成後"2点を結ぶ"をクリックして2点を極太(赤)の線分として結ぶ.
[ラベル] <red><B>Max</B></red> [表示位置]上
※<red><B>Max= !{By}</B></red> とすれば点Bのy座標の値すなわち最小値を表示することもできる.今回は情報量が多くなり過ぎるため入れなかった.
(MinUFO)  (Max左端点)[x] t,[y] min(Py,Qy,Ry) [色]赤,[太さ]○
(Max右端点)[x] t+2,[y] min(Py,Qy,Ry) [色]赤,[太さ]○
2点を作成後"2点を結ぶ"をクリックして2点を極太(赤)の線分として結ぶ.
[ラベル] <red><B>Min</B></red> [表示位置]下

  

【ラベル・メモにおける式と式の値の表示〜ヘルプファイルより抜粋】
  • 式を表示するには,半角中括弧"{ }"で囲む.
  • 関数を多項式として表示するには,"?{ }"で囲む.
  • 式の書式は,Grapesでグラフを描くときに関数電卓で用いるものとまったく同じである.
  • 式の値を表示させるには,対象式を"!{ }"で囲む.
  • 表示桁数を指定するには,!{式|桁数} と書く.
  • 値の符号を非負の場合にも表示させるには,+!{式} と書く.

(3)授業展開について

(@)シミュレーションにより教材のイメージ化を図る

 この時の重点は"最大値(最小値)をどこでとるか"という点に着目させることである.
 この点を強調するために,定義域の幅をもつ線分(ドメインUFO)に登場してもらう.パラメーターを変化させこのUFOが放物線と接触する点(最大値)の位置に着目させる.
 (左端)→(両端)→(右端)と変化することが見てとれる.ここで強調すべきは,大きく2つに場合分けされるという点を強調してその分岐点となっているのがFig.6であることを確認する.
 次のシェーマによる説明のために,グラフを固定して定義域を動かしてUFOと放物線の接点の変化をシミュレーションしてみる.グラフの上下変動はあるがUFOが放物線と接触する点(最大値)の位置についてはグラフと定義域の左右の位置関係が重要であることを理解できればUFOには退散願うこととなる.

(Fig.5) (Fig.6) (Fig.7)

(A)シェーマによるまとめ

 ここで活躍するシェーマはFig.8である.シェーマには分岐点となるUFOを降下させて表示する.このときのパラメータaの値をUFOの右横に書く.
 ここでa=1 によって場合分けをすることになる.この際,このシェーマの右横に上向きの座標軸(a軸)を入れることも有用である.もちろんa軸が上向きか下向きかは問題によって変化する.
 最小値においても同様のシミュレーション,シェーマによるまとめを行う.
 提示したシェーマはFig.9である.
 解答としてまとめるときは,最大値・最小値で場合分けをして列記するよう指導している.

(Fig.8) (Fig.9)

《教具〜紙とハサミを使って》

 授業時間の関係もあり,この授業を実施したのは1クラスのみでした.右のシェーマを使う説明は同じだが,もう一つのクラスは黒板に放物線を描き10cmの幅に折った紙の上下端に赤線を書き,0と2を書いて,放物線に接する状態で移動して説明しました.もちろん赤線がUFOのつもりです.
 最大値の時は,上から降ろし,最小値のときは下から放物線にぶつかるように演じてみせるのです.
いつでも手軽に提示できるのが利点です.
かえってこのクラスの方がよく理解していたかも...

(4)解答のまとめ方についての一考察

 「 の最大値・最小値を求めよ」という問題の解答の書き方については,パラメータaにより場合分けをして,最大値・最小値を併記していく解答が多いように思う.
 これは"Max,Min"という2つの値の変化を同時に考える必要があり初期の段階では問題をより複雑化しているようである.私の場合は,まずMaxとMinに大きく分けて,それぞれパラメータaで場合分けして解答するように指導している.パラメーターaについて場合分けをして解答を書くのはこれらに習熟してからでも遅くはない.性急にまとめようとするとせっかくイメージ化されて定着した部分すら失われてしまう恐れすら感じている次第である.

『指導解答例』

 ∴軸x=a
1°最大値
(@) 1<aのとき
 x=0で最大値f(0)=a
(A) a=1のとき
 x=0,2で最大値0
(B) a<1のとき
 x=2で最大値f(2)=4-3a
2°最小値
(@)2≦aのとき
 x=2で最大値f(2)=4-3a
(A) 0≦a<2のとき
 x=aで最小値f(a)=-a2+a
(B) a<0のとき
 x=0で最小値f(0)=a

■■■ 終わりに ■■■

 本レポートは冒頭にも述べたように,教育実習生へのプレゼントとして急遽行った授業です.今年度より携帯型の液晶プロジェクターが使えるようになったこと,私学研究会のレポート作成時にGrapesの新バージョンを調べているうち多機能となったラベル機能を知ったこと,そして何と言っても愛知教育大 飯島先生の講演で黒板をスクリーンにする提示方法を知ったときの驚きなどが作成の起因となっています.
 ただ,注目すべきはこの程度の準備時間でも教室に視覚的要素を取り入れることができるという点でしょう.ただし,授業後の後片付けを考えるとこの授業の後に連続して授業がなかったことは幸いでした.やはり,後片付けの時間(特にプロジェクターのクーリング時間が数分必要)を考えると,次に授業がない方が無理がありません.それも,教室に固定されたプロジェクターがあれば解決するのですが・・・
 また,決してパソコンを使ったからといって授業効率が上がるとは限りません.実際,もう一つのクラスで行った紙とハサミと磁石を使った授業では同様の効果をより短時間にできたと思います.何年も教師をしていると「また数Tの授業か」と正直いって飽きてくる面もありますが,自分自身の授業方法のバリエーションを増やしていく積極的な姿勢がひいては教材開発に対する情熱を忘れない一方策であると感じた次第です.
 また,研究会に参加し多くの先生方の実践を拝見することが私にとっての教材開発へのエネルギーとなっていることは言うまでもありません.