第31回 数学教育実践研究会レポート
「偏差値」について考える
北海道士別商業高等学校
教諭 若林 理一郎
0 本校の状況
士別市は旭川から車で1時間ほど北にある人口2万4千人の都市である。本校は1学年4間口で生徒数373名(11月1日現在)の商業単置校である。生徒は素直な生徒が多く、与えられた課題などに黙々と取り組む。検定取得が盛んで、ほとんどの生徒が簿記・ワープロ・情報処理の級を持っている。部活動も盛んでワープロ・簿記・男子バレーなど全国・全道大会に出場しているところもある。
1 数学C「統計処理」の取り組み
現在の受け持ちクラスの1つに3年情報処理科(1学級)がある。このクラスは、他のクラス(商業科3学級)とは別の教育課程で進んでいる。必修単位「数学A(3単位)」も同様で、このクラスのみ数学C「統計処理」を「数列」の学習の後、行っている。
さて、私はこの「統計処理」の学習に際して、「偏差値」について理解することを大きな目標とした。以前から問題となっている「偏差値教育」。本校の生徒には、入学後はあまり縁のないところだが、それでも学力テストや模試などで「偏差値」を見ることができる。そこで、『「偏差値」とはどんな数値なのか、どうやって求め、その計算された数値が意味するものは何なのか』を学習することを目標の1つとした。
2 「統計処理」の学習の進め方
進度や残りの期間を考えると、「統計処理」すべてを学習するのは不可能なので、次のような構成とした。
- 度数分布
「階級」「度数」「度数分布表」など、データを整理する方法についての学習。
- 代表値
「モード」「メジアン」「平均値」など、データの数値から何かを読みとることの基本としての学習。
- 標準偏差
「偏差」「標準偏差」の意味について理解し、そこから「偏差値」を定義し、データから何かを読みとる力を深め
ていく学習。
- 相関関係
「共分散」「相関係数」の意味について理解し、2変量の関係をとらえられるようにする学習。
3 現在までの生徒の取り組み状況
3年情報処理科は、在籍が男子16名、女子18名の計34名である。全体に学習に対する取り組みは良好で、与えられた課題に対しては黙々と取り組む。進路についても進学者が多く、看護系や情報処理系など将来「数理統計」を学習することを推測される生徒もいる。
今までの教育課程では、1年次に「簿記(2級範囲+工業簿記の一部)」と「情報処理」、2年次には「プログラミング」、3年次には「情報管理(コンピュータ利用技術検定1級範囲)」を学習する。従って、ある意味でデータを処理することには慣れている生徒であるといえる。
さて、授業の様子であるが、第2節までは比較的、楽であったようであるが、第3節の「標準偏差」まで進んだところ、「分散」や「標準偏差」を求める作業、そこから「偏差値」を求める作業は非常に量が多く大変であったようである。それには、表を手書きし、それを見ながら電卓で計算するという作業があったからである。しかし、商業高校の生徒であるからか、電卓の計算は慣れていて、完成した後の充実感を味わえた生徒もいたようである。また、課題以外のこと(「偏差値」の平均を求める)に取り組む生徒もでてきて、学習意欲を喚起することもできたと考える。
4 パソコン利用の失敗
ある程度学習が進んだ段階で、Excelを使って、それまで電卓で計算してきた問題の確かめ(検算)や度数分布表・ヒストグラムの作成を行った。このクラスの生徒は、「情報管理」の授業でExcelを使いこなしている生徒であった。従って、基本的な操作についての指導は必要なく、関数の紹介やその使い方のみの指導でよいと考えていた。実際そうであったが、情意面での様子を考えたとき、今回の生徒に対しては、今まで1時間いっぱいかかってやっていた課題がせいぜい15分くらいでできるようになって早かったと思う生徒が数名いるくらいで、ほとんど面白みがなかったようである。かえって、電卓で計算していた頃の方が取り組む姿勢がよかったので、これ以降はパソコン中心の授業を考えていたが、(行事との絡みで使えない時期があったので)元の電卓中心の授業に戻した。
この失敗で反省したことは、パソコンの利用はその生徒の実態にあわせ、新鮮みがある課題でなければならないということである。今回の生徒は、Excelに慣れていたので、今までと違う関数で数値を求めたり、時間が短縮されたりしたことに幾分か驚きがあった以外、全体としては低調であった。パソコンの数学科における生徒の実際的利用には、基本的操作になれていることも必要だが、他の授業と重複しない内容・他の授業では味わえない感動が得られる内容となるような授業としなければならない。
また、後で考えると、公式や理論を定着させるにも、表計算処理ソフトで簡単に計算させるより、手計算で数値を求める方がよいのではないかと考える。実際にその計算方法をノートやプリントを使って調べたり、思い出したりして計算するので、定着させることを考えると、処理する量やパソコン利用という観点からはデメリットが多いが、それ以上に得るものは多いと考える。
5 「偏差値」について考える
相関係数の学習がある程度終わった段階で、「『偏差値』についてどう思うか」という代で作文を課題に出した。統計の課題に黙々と取り組んでいる様子から、教師側としては、どれほど反応があるか不安であったが、非常に多くの意見が返ってきて、テーマについて真剣に考えていることに驚いた。作文を載せるにはあまりにも大変なので、ここではその前に「偏差値のメリットデメリット」についてのデータの集計結果を、資料として挙げさせていただく。
6 終わりに
あくまで本校の或る1クラスの状況を元に勝手気ままに書いてきた。従って、あくまで本校のそのクラスにしか当てはまらないことも多いと思うが、(本校のような専門高校では特に必要と思われる)「『数学』を通して何かを考える」授業の研究という立場で、今までいろいろと試行錯誤した結果の1つを挙げさせていただいた。そのような視点から今回のレポートに対して、諸先生方からの御批評を頂きたい。
偏差値のメリット・デメリット
メリット | 主観が入らない | 3.0% |
自分や他人の学力がわかる | 54.5% |
進学の目安(目標)になる | 24.2% |
よくなれば(頑張った分だけ)自信がつく | 21.2% |
競争意識ができる | 9.1% |
成績がつけやすい・学力を合理的に判断できる | 6.1% |
暗記力のある(頭のいい人)に有利 | 9.1% |
デメリット | 偏差値だけですべて(進路や価値など)が決まる | 39.4% |
点数に現れる以外の力が評価されない | 9.1% |
頑張りや努力が評価されない | 27.3% |
個性、人間性が生かせない(評価されない) | 24.2% |
授業(成績や学歴)がすべてという考え方になる | 9.1% |
人と比べてしまい、上下の意識を持つようになる | 12.1% |
プレッシャーになる | 6.1% |
人間性に欠ける(人間関係がダメな)人が増える | 12.1% |
暗記型の人間が増える | 3.0% |
学力以外のことは何も評価できない | 6.1% |
成績の付け方が一律になる | 3.0% |
勉強が面白くなくなる | 3.0% |
点数だけが大事なら学校へ行く必要はない | 3.0% |
(自由記述で回答したものを拾い上げた)