ベクトルの内積の導入について
石狩南高校 清 水 貞 人
(数学教育協議会会員)
1.提案
ベクトルの内積は
(@)で定義されますが,戸惑う生徒が多く結果的に暗記を強いることになった経験はないでしょうか。さらに,そのあとで成分を用いた定義
(A)が出てきますが,両者のつながりが見えずらく生徒をますます混乱させているように感じます。ここでは,生徒に無理なく受け入れられ,両者のつながりがよくわかるようにするためにAから導入することを提案したいと思います。
2.授業例
ボーナスを貰ったS先生は,家族を連れて一皿120円と220円の2種類を扱っている回転寿司に行きました。おなかの膨れた子供たちが,高く積まれた皿の枚数を数えて見ると120円の皿が15枚,220円の皿が11枚ありました。合計金額はいくらになりますか。
120×15+220×11=4,220(円)
ですね。このことを数学では,
=(120,220) ……値段ベクトル
=(15,11) ……個数ベクトル
=120×15+220×11=4220
と書きます。一般に
=(
a
1
,
a
2
),
=(
b
1
,
b
2
) のとき
=
a
1
×
b
1
+
a
2
×
b
2
とします。これをベクトルの内積といいます。
このあと,Aから@を導きます。
=
とするとAは
となりますね。これは等しいベクトルの性質です。また,
ですから,同様に
よって,
となります。(
a
+
b
)
2
=
a
2
+2
ab
+
b
2
とよく似ていますね。同様にして,
……(*)
もわかります。ところで右の図において余弦定理より,
……(**)
ですから,(*)(**)より
となります。これもベクトルの内積といいます。
3.終わりに
以上のようにAから導入することで,生徒は無理なく受け入れてくれるのではないかと思います。行列の積への拡張という点でも,成分型(数ベクトル型)のAを中心に扱うほうがよいのではないでしょうか。