数学的活動中心の数学教材

小笠原 節
北海道富川高等学校

平成13年9月

概要

 数学の学習においては,説明をきくだけでは不十分であって,自ら積極的に作業や演習するという能動的態度が大切である.
 今回,最近の授業で使用した作業内容の多い教材をまとめてみた.
 とくに,数学Aの幾何とコンピュータの章を昨年の授業で実施したのでそれも取り上げた.
 本レポートは,解説の前半部分と,実際に使用した教材の資料の後半部分からなっている.

  1. 作図問題(数学A幾何)
  2.  現行の教育課程では,数学Aに「幾何」がある.
     数学Aの幾何では,三角形の五心,チェバの定理やメネラウスの定理など,初等平面幾何の”高度”な内容まで扱っている.この幾何の章は,あまり履修されていないらしく,新教育課程では削除されてしまっているのは,まことに残念なことである.
     この章を実施するとき,内容を考えた結果,定規とコンパスによる「作図問題」だけをとりあげることにした.
     定規とコンパスだけを使って,かんたんな図形から始め,正確な図をかく作業をすればよいと考えた.それだけでも,この「幾何」の相当部分を 含むことになるだろう.
     じっさいには垂直2等分線,線分の3等分,正五角形の作図,四角形と同じ面積をもつ三角形の作図などを実施した.
     定期試験も「作図」で実施したが,作図方法をきちんとわかるよう事前指導を徹底した.

    (参照資料[1][2][3])

  3. コンピュータ(数学A)
  4. 2.1 はじめに

     平成12年度3学期の授業で,数学A(2年普通科選択23名3単位)の授業でコンピュータの章をとりあげた.
     授業実施時間=20時間 (うち実習時間6時間,試験1時間).数学でこれほどの時間をコンピュータにあてたのは,平成15年度からの新教科「情報」の実施を意識してのことでもある.
     数学Aが選択履修で,担当教員が私ひとりであったので,12年度は数学Aの4つの分野の基本的な部分をすべてやってしまおうという欲張りな(?)学習指導計画を立てた.

    2.2 実施内容

    (1)2進法と10進法(3時間実施)
     基数変換(数学Aの範囲から外れているが,概念さえつかめれば,計算は単なる四則計算なので取り上げた)
    (2)流れ図(5時間実施)
     流れ図の記号,数列問題が中心.
    (3)BASIC へのコーディング(4時間実施)
     10行程度の長さのプログラムを流れ図からコーディングする(数列問題中心).
    (4)コンピュータ使用時の注意(1時間実施)
     著作権について,学校の共通利用PCの使い方について.
     (ここまでの内容で期末試験となった.実習は試験後の時間で行った.)
    (5)実習(計6時間実施,白石和夫氏作の十進,BASIC(フリーウエア)を使用)
     windowsの基本操作(1時間).
     コーディングしたもの(数列中心)を入力して画面に出力(1時間).
     線引き,円,円板,色命令,座標を線で結び描画(2時間).
     自分で図画をデザインする実習(2時間).

    -------------------------------------------------
      授業で提示したサンプルプログラム,作成=小笠原
    -------------------------------------------------
    10 set window -15,15,-15,15
    20 draw grid
    30 set color 1
    40 plot lines:-3,8;-3,11;-5,8;-3,8
    50 plot lines:-12,8;-8,5;-7,6;-6,6;-8,5;
      -6,4;3,7;6,5;5,8;6,10;3,8;-5,8;-12,8
    60 plot lines:8,-4;9,-4;9,-2;10,-1;9,1;11,4;
      9,7;11,9;9,12;7,8;8,6;7,3;8,0;7,-1;8,-2;8,-4
    70 paint -3,7
    80 set color 4
    90 flood -3.5,8.5
    100 set color 0 
    110 draw disk with scale(0.3)*shift(-8.5,7)
    120 set color 12
    130 flood 9.5,4.5
    140 flood 8.5,-1.5
    150 set color 5
    160 flood 1,1
    170 flood -1.5,1
    180 flood -1.5,-1
    190 flood 1,-1
    200 end


    上記プログラムを十進BASICで実行したところ

    (参照資料[4],[5])

  5. 暗算,消費税プリント
  6.  1桁2桁の足し算でもすぐ電卓を使う生徒たちをみて,始めたプリントが,「暗算プリント」.
     ストップウオッチを使って,集中的に実施する.取り組み状況はよい.
     授業で「消費税」の計算は,
       下一桁をカットし,それを半分にすればよい
    と説明したところ,
     「さすが,数学の先生だ!」
    と生徒は(妙に)感心していた.

    参照資料[6],[7])

  7. 座標(数学I,カニ,ウマの絵)
  8.  内容からみれば座標の学習だが,活動的要素を取りいれた教材.
     資料は生徒作品だが,「自分で何かデザインしてみよう」というと,立ち往生する生徒も多い.
     これからは,創造性やオリジナリティがますます要求される時代となるだろうが,小さくても自分でオリジナルをつくるという体験を増やしていかねばならないと痛感している.

    (参照資料[8],[9])

  9. 放物線のグラフ(数学I)
  10.  グラフの作成も,なるべく正確なグラフをかきたい.正確なグラフをかいた瞬間,問題が解けてしまうという入試問題も多い.
     グラフ用紙をプリントにのせたりするこのあたりの作業はコンピュータにはかなわない(と思う).
     私は,数学者のクヌース教授作成のpLaTeX2e を使用して作成している.
     入手は例えば,CD付書籍
      pLaTeX2e for WINDOWS Another Manual vol 1 Basic Kit 1999
      乙部厳己+江口庄英著,ソフトバンク,3,900円+税 .

    (参照資料[10],[11],[12])

  11. おしまいに
  12.  近年,「分数ができない」,「小数ができない」大学生が話題になっている.
     最初の本は「分数ができない大学生」,岡部他編,東洋経済新聞社(1999年6月刊)だったと認識している.
     実は数学に限らず,学力の低下は広範囲に起きているらしく,資源のない日本の将来の技術水準を心配する識者は多い.
     この学力低下問題は,途方もなく困難な問題に見えるが,(小中高大の)数学担当教員はいったい何を始めていけばいいのだろうか.