〜柔軟な思考と隠された意欲に感動!〜

札幌稲雲高等学校    大河内佳 浩

はじめに

 ここ数年,校内の業務等の関係上,3年生の授業ばかりを担当している.そのような状況下,受験指導を中心とした授業展開に追われる日常の中で,生徒の数学的な能力・興味・関心・思考力・創造力といったものに多少なりとも疑問を感じていた.

 数学の面白さを伝えたいと思うと同時に,希望する大学にも行けない力しかつけられないのであれば,自分の授業はいったい何であるのか?と自己矛盾する命題の前で,現実に押し流されがちに授業をしているといった方が正しい毎日である.

 立て板に水のHou To形式に授業を行うと生徒は感心したように聞いているが,その姿が果たして本当に数学を理解しているのだろうか?数学を面白いと感じているのだろうか?授業者として生徒の正直な気持ちを知りたくなるときでもある.

 しかし,ある時,そんな不安や疑問が,実は生徒の側にあるのではなく自分自身の問題であるということを生徒達は気づかせてくれた.

コミュニケーションとしての教科通信(MATInformation

 教科通信を発行し始めたのはもう8年前になる.ことのきっかけは稲雲高校に着任した年にHR担任を持っていなかったこと,たまたま1年生の教科担任だったことで書き始めたのが最初である.

 主たる目的が生徒との雑談の材料になればいいという程度のものであったので,余り堅苦しく考えずに,できる限り数学にこだわりながらも,自分自身の正直な気持ちを文章にするというスタイルをとった.

 それがいいか悪いかということは別にして,割と生徒の評判はよく,興味のある分野,関心のある話の時には,授業終了後,あるいは放課後や次の時間に,生徒の方から質問や意見が返ってくる.中には,対抗して自分の意見を載せてほしいという生徒も現れたほどである.

Four-four

 3年生も2学期を迎えると必然的に受験というものを自分の物と捉えるようになる.受験に関係のない教科の授業で内職をしたり,理系の生徒の中には数学に行き詰まり文型に進路を変更する者もいる.

 そんな生徒の状況の中,去年今年と,9月〜10月頃に決まって息抜きと称して教科通信でクイズを出している.クイズといっても数学的思考力や直観力を使える物がいいし,根気よく取り組める物がよいと考えFour-fourと呼ばれているクイズを出している.

 Four-fourとは4という数字を4回だけ使って任意の数を作るというクイズで,この2年間は0〜100までの数を作りなさいというクイズにして出題した.(資料参照)

 「どうせ誰もできないのではないか?」「どうせ誰も解かないのではないか?」そんな思いもあったが,受験だけに目を奪われ大切なことを見失っているように思える生徒の姿に何とか活を入れたいという思いで挑戦してみた.エサで釣るのは邪道ではあるが,賞品があれば生徒の取り組みが変わるかも知れないと思い,全問正解でラーメンという賞品を用意した.

 毎年のことであるが,いつも驚かされるのは,教科通信を配ったその瞬間に,生徒達の目付きが変わることである.輝いているという表現がぴったりする瞬間である.次々に生徒から質問があがる.「本当におごってくれるの?」「どんな記号でも使っていいの?」「簡単でしょう!」等々と.

 不思議なことに,この時ばかりは成績とは関係なしに一生懸命に取り組み始める.どちらかというと普段成績が良くない生徒の方が真剣だったり,発想が豊かだったりする.

 早い生徒は1時間後に提出してくる.(いつやっているかを詮索すると他教科の先生にずいぶん迷惑をかけていることになるので詮索はしない.)提出期限までに毎年10人以上提出してくる.この2年,2クラス70名ぐらいにしか配布していないので,当初の予想を大幅に越える回収率となった.

 問題は正当率であるが,全問正解者は昨年は6人いた.全問正解でない者も内容的には全問正解に等しく,つまらないミス(4を5つ使っていたり,3つしか使っていなかったりといった不注意)がほとんどで,生徒のオリジナルの解答を見ていると正直感心させられる.

生徒の解答の具体例

生徒たちの解答例をいくつか紹介しておく.

       
    

       

       

       
       

教師としての反省

 「どうせ誰も解かないのではないか?」

 この発想がそもそもの間違いであったということを教えてくれたのが生徒達である.

 何年か受験指導を中心とした授業を進めていくうちに,また,教師としての経験を重ねそこそこの自信を身につけていくうちに,大切な物を見失っていたのは生徒ではなく自分自身の方であった.

 無意識の中に生徒達に対して冷めている気持ちがあったのかも知れない.今の生徒は数学をテクニックで解く.考えるよりも正解を求めてくる.数学の本質を見つめようとしない.数学の面白さを知ろうとしない.受験に必要な物だからその程度にしか捉えていないとか思っていた部分がある.そもそもそれが間違いである.

 生徒は豊かな発想力と,また意欲を,その内面に持ち合わせていたのである.知りたいという知的好奇心,そして面白い物に敏感に反応するアンテナも持っていたのである.一つ一つ確認しながら生徒の解答を見ていくと,ずいぶん感心させられるし,自分が考えもしなかった計算式が出てくると,その発想に驚き,またそれを作った生徒を見る目が変わる.テストでは冴えない生徒が面白い解答を作っていたりすると,その生徒の隠された一面を見たようで,自分の観察眼のなさを嘆くと同時に新しい一面を発見できた喜びで一杯になる.

 自分が全問解けたかというと,正直時間がない.生徒より知識がある分有利であるが,果たして生徒と同レベルの知識で勝負をしたとしたら,おそらく途中で投げ出していたかも知れない.

 生徒の興味・関心を引き出すためには,どのような工夫が必要であるのか?

 生徒の意欲を引き出すための授業展開の工夫は?

 生徒に数学の面白さを伝えるための方策は?

 偶然28日の木曜日に寺田文行先生の講演を聴く機会があったが,新学習指導要領の目指しているものを,実は生徒から教えられていたことに驚き,そしてそれに気がつかなかった自分に情け無さをも感じている.

 ほんの息抜きのつもりであった教科通信が契機となり,生徒の本当の姿を見つめ直すことができ,また,自分が目指すべき指針を見つけることができ,教師としてはいい反省の材料であると思う.

 これを機に,数学の楽しさ・面白さを提示しながら数学的思考力などの力を伸ばす授業展開が出来ないものかと,教材研究をやり直したいと反省しているところである.