1.はじめに
数実研に参加するようになって,たくさんのレポートを聞き,そして手にする度に「なるほど!」と感心することが多い.そして,自分も参考にできるところは参考にしたい,と思うものの,実際にその単元に来たときには,すでに忘れていたりすることが多々あり,どうも自分自身が数実研で得たことをうまく消化・活用できていないのではないかと,反省することしきりである.
また,いつもレポートを受け取るばかりで,これといって返せることもなく,申し訳ないなという思いの中で,今回大したことをしているわけではないが,数実研で得たことを実践してみた報告を感想を交えてしたいと思う.
今回の実践のきっかけは,1年以上前の数実研の発表の中にあるものであった.新川高校の中村先生が,授業中に紙とハサミを使って二次関数のグラフを生徒の目の前で作るという報告があった.
「なるほど!そういう方法があるんだな!」と感心したが,当時は3年生を受け持っていて,すぐに実践に応用するというわけにはいかなかった.
が,今年1年生を担当し,数学Tを教えることになったとき,頭の中に中村先生の発表が浮かんだ. ところが,実際に授業を進めていくと,進度やプリントに追われて,なかなかタイミング良く実践を再現できなかったり,うっかり忘れて授業を始めてしまったりして,結局授業中に中村先生の発表を実践できないままに1学期を終わってしまった.
2.授業での実践
授業では,次の問題を説明した.
区間 0≦x≦2 における関数 y=-x2+2ax の最大値と最小値,及びそのときの x の値を求めなさい. |
二次関数 y=-x2+2x+3 の区間 a≦x≦a+1 における最大値をM(a),最小値をm(a)とするとき,M(a)とm(a)をaの式で表せ. |
黒板に座標軸を4つ書き,グラフが移動していくように板書し,チョークの色も変えて最大・最小の場所の提示をした.
3.生徒の反応
黒板にグラフを4つ書き,丁寧に教えたつもりであるが,生徒の反応はいまいちで,生徒は頭の中にグラフや定義域が移動するというイメージがなかなか持てない.
「先生よくわからない!」という声が多くの生徒から出てきて,同様の問題をもう一度説明した.
生徒も,こちらが何度も教えるのを気の毒がって,最後はよく解らないままにしてしまうこともある.こちらも,「大丈夫かな?」「ちゃんと解ったかな?」と疑問に思いながらも,授業の進度を気にしたりして,そのままで先へ進んだりしてしまう.よくないこととは思っていても,「仕方がないか?!」で済ましているところがないわけではない.
本当は,コンピュータを用いて実際にグラフが動くところを見せるのが一番効率的ではあると思うが,現実問題として,それができないのが現状である.そのため,どうしても旧態依然とした方法で授業をしてしまうし,また,それが授業をする方としても楽なため,授業改善が進まない状態になる.
自分の中の甘さや弱さを見過ごしてしまうことがある.
4.夏季講習にて
夏季講習の中で,1学期の復習ということで,次の問題の解説をする機会があった.
例題13 区間の変わる最大・最小 区間 0≦x≦a における,y=x2-4x+5の最大値・最小値とそのときのxの値を求めなさい. |
例題14 文字係数の関数の最大・最小 区間 0≦x≦2 における関数 y=3x2-6ax+2 の最大値と最小値,及びそのときのの値を求めなさい. |
例題15 区間が変わる最大・最小 二次関数 y=2x2-8x+7 の区間 a≦x≦a+2 における最大値をM(a),最小値m(a)をとするとき,M(a)とma(a)をaの式で表せ. |
ここを逃したら二度と中村先生の実践の再現をすることができないかもしれない.そう思ったので,講習に向けての準備に取りかかった.紙の大きさ,説明の仕方,等々を事前に確認,練習し,講習に臨んだ.
<事前準備> 模造紙1枚,はさみ,セロテープ
<手 順>
例題13
- 生徒に説明をすると言って,例題を書き,生徒が板書している間に模造紙を丸める.
- 丸めた模造紙の片方をセロテープで黒板にとめ,丸めた模造紙を広げることで定義域が広がる様子を示す.
- 広がっていく模造紙に,色チョークで黒板のグラフをなぞる.
- 模造紙を広げたり,丸めたりして,最大・最小の移動を理解させる.
例題14
- 模造紙を半分に切り,片方を更に半分に折,はさみで放物線を切り抜く.
- 切り抜いた放物線を黒板につけて,実際に移動してみせる.
- 頂点の場所と,定義域の両端の場所で,最大・最小の場所を確認させる.
例題15
- 半分にした残りの模造紙を更に半分にし,定義域の帯の代わりにする.
- 黒板に定義域をつけて,実際に移動させてみる.
- 頂点の場所と,定義域の両端の場所で,最大・最小の場所を確認させる.
5.生徒の反応
2度目ということもあったが,生徒の理解もよく,生徒の評判も上々であった.
実際に模造紙を丸めたり,切ったりしている最中は,「何が始まるのだろうか?」と興味津々の様子でこちらの出方をうかがっていた.
また,実際に模造紙を使って説明を始めると歓声が上がり,「こんな事でこんなにうけるんならもっと早くやれば良かった.」とこちらが逆に驚かされるような反応が返ってきた.
生徒からは,「どうして授業の時にやってくれなかったんですか!」とか,「授業でわからなかったことが,今回はよくわかりました.」という声を聞かせてもらい,まずまずの手応えを得た.
6.まとめ
最新の機器を使ってビジュアルな授業を展開するのも一つの方法であるし,これからの目指す授業スタイルの一つであるが,手近なものを使って,アナログ的な作業を通して,大道芸人のような授業を行うのもまた,授業のスタイルとしてはあってもいいかな,と感じた.
更に今回感じたのは,たいそうなことをやろうと思う必要はなく,ちょっとしたことで生徒にはかなり印象深い授業になるということである.ちょっとした工夫次第で,授業をリフレッシュすることもできるし,生徒に印象づけることもできるということである.
数実研に出てくるレポートをじっくりと紐解くと,いろいろな場面で授業を活性化させれる手段が載せられている.それらを一つ一つ自分なりにアレンジしながら,授業に生かしていくと,やがて充実した授業が完成するのではないかと感じた.
今回のことで,日々の忙しさにかまけて,レポートを見直さない自分の姿勢も反省し,今後の数実研及び日常の授業に更に前向きに臨みたいと思い直したところである.
あまり内容が充実しないまま感想文のような報告になってしまったことをお許し下さい.