〜自己学習力を高めるための取り組み〜
この1年の実践を振り返って
1.はじめに
5年ぶりの1年生の担任として,また,私自身が新課程の生徒を1年生から指導する最初の年として,『いったいどれぐらいのことが出来るだろうか?』と考えたとき,当然,以前の学年以上のことをやりたいと思うのは人情である.しかし,生徒の質も変わっているし,無目的に生徒へのアプローチを増やしても手が回らなくなるのが落ちである.
そこで,この1年の授業では2点の目標を下記のように明確にして,生徒へのアプローチを考えてみた.
- 数学が「役に立つ」「必要である」という意識を持たせたい.
- 自己学習力を高めるためにデータを生徒に返却する取り組みを行う.
2.1年間の生徒へのアプローチ計画
- 入学後すぐにアンケート調査(資料1)
- 生徒の意欲と数学に対する考え方を調査する.
- 実力テスト等の定期考査のSP表作成,正答率の算出.
- Mat Informationを週1回のペースで発行.(資料2)
- 日常の授業で,「達成目標」(資料3),「Home Study」(資料4),「確認小テスト」(資料5)の実施.
- 「Home Study」と「確認小テスト」の正答率(資料6、資料7、資料8),および,個人成績グラフ(資料9)を定期考査直前に生徒にフィードバック.
- 1学期最後の授業の中でもう一度アンケート調査および1学期の授業の感想. (資料10)
- 生徒の意識の変化(お互いに慣れてきて本音が見えるかと考えた.)
- 夏休みの特別課題として,身の回りで数学が役に立っていると思われるものを探し,その理由を書かせる,という課題を生徒に与える.(資料11)
- 冬休みの特別課題として,10年後の自分像とくじけそうな10年後の自分への応援メーッセージ,を書かせる. (資料12)
- 3学期最後に三度アンケート調査,および,1年間の感想.(未実施)
実際に授業で使用した「小テスト」,「達成目標」,「ホームスタディ」をダウンロードできます。各プリントは“一太郎 Ver.5”で作成してあります。また,それぞれのファイルは自己解凍の圧縮ファイルになっています。 「達成目標」・・・file2.EXE(243KB) 「ホームスタディ」・・・file3.EXE(417KB) |
3.データ返却の具体的方策
以前から取り組んでいた,目標提示・演習・確認,という流れを具体化した「達成目標」・「Home Study」・「確認小テスト」を全面的に見直し,新課程用に作成し直しながら,生徒の正答率データを生徒に返却するための取り組みに着手した.(1) 授業での流れ
- 授業開始時に本時の目標である「達成目標」(B6:資料3)を配布し,生徒自身にこの1時間の授業の内容の概略を提示する.
- 目標に従い内容説明・問題演習を行う.
- 授業の最後に「Home Study」(資料4)を配布し,家庭で取り組むよう指示する.
- 次の授業の最初に「Home Study」を回収する.
- 次の時間までに採点し,生徒に返却する.
- 対応する「Home Study」が回収・採点され,生徒に返却されてから,「確認小テスト」を行うことを連絡し,次の時間の最初に「確認小テスト」(資料5)を実施,回収する.
- 「確認小テスト」は次の時間までに採点し,生徒に返却する.
(2) 改善点(概要)
以前までは,「Home Study」も「確認小テスト」も採点して,得点を控えるだけに終わっていた.
しかし,これでは生徒は「Home Study」も「確認小テスト」もやりっぱなしで,それらを利用してもう一度復習しようとする姿勢を持たないままテストを迎えることになる.
そこで,生徒に自分が提出した「Home Study」や「確認小テスト」のデータ,正答率や平均点等を返却することで,テスト前の復習や自分の弱点の克服に利用できることを,具体的に指示し,自分で数学の力を向上させようという意欲を持つようにさせたいと考えた.
更には,生徒の個別データをグラフにすることで,自分の学習成果を視覚化することが出来,自分の不得意分野や取り組みの様子も手に取るように分かるのではないかと考え,定期的に(定期テスト前)「Home Study」と「確認小テスト」の得点集計グラフ(個人別:資料9)を手渡すようにした.
(3) 改善点(具体的取り組み)
「Home Study」と「確認小テスト」については毎回採点した後,名箋を利用して用意した集計用紙に,『正解しなかった問題』をチェックし,SP表の元(資料6)と,得点を記入し,控えとして利用することにした.
その後,その控えを元に,コンピュータに得点とSP表(資料7,資料8)を入力していく.
これが,個人グラフの基礎データとなる.
現在は,ハード面でかなり高度な処理も出来るようになっており,Excel等の表計算ソフトで,3クラス,120名のデータ処理であれば,ほとんど必要なものを作成することができる.
(4) データの返却方法
『正答率』
「Home Study」や「確認小テスト」の正答率は,定期考査1週間前あたりに発行される『MAT Information』(資料2)に掲載し,生徒に配布する.
そのときに,『正答率』の活用の仕方,復習の仕方の説明を行う.
『個人成績グラフ』
定期考査1週間前あたりの授業中に生徒に配布.自分の得点推移と平均点の得点推移を把握させ,特に重点を入れる箇所を理解させるための説明やグラフの見方を話す.
また,「Home Study」のグラフは,空欄の箇所(グラフが途切れている箇所)は未提出を意味するので,該当する「Home Study」を提出するように督促する.
4.生徒の反応
生徒の反応としては,ここまでのデータがフィードバックされた経験がないらしく,当初は驚きと感嘆で資料を眺めていたが,きちんとデータの見方を説明してからは,自分なりにデータを活用できる生徒が現れてきた.もちろん,全員がデータを活用できるわけではないが,以前受け持っていた1年生と比較すると,テスト直前に「Home Study」や「確認小テスト」を活用する生徒が多いように感じる.(感覚的にではあるが)
更には,テストが近くなると『正答率』のデータや『個人成績グラフ』を要求する生徒もおり,感触としてはデータが活用されていると感じられる.
5.今年の反省点と今後の課題
この1年の取り組みを振り返ってみるといくつかの反省点が残った.まず1つは,今年は「達成目標」「Home Study」「確認小テスト」を作成しながら授業を行うという自転車操業だったため,生徒に得点記録用紙(資料13)や「Home Study」と「確認小テスト」の関係表(資料14)を配布することが出来なかった.
そのため,自分の得点を自分で記録するという作業を行わすことが出来ず,教師が渡すデータに頼りすぎる部分が多かったのではないかと思われる.自己集計する事で自分自身の力を分析するきっかけを与えたいと考えてもいるので,次回は是非この点も整備したいと考えている.
次に「Home Study」の回収率が回を追う毎に低下していくので,きちんと回収するための具体的な方策を考え,実行しなければいけないということである.現時点の案としては,忘れてきた者は当日放課後残して「Home Study」を提出してから帰らせるようにしたら,というものを考えている.
ただ,以前の生徒と比べて今年の生徒は,「成績に影響するから出しなさい.」というとほとんどの生徒が期日を遅れてでも提出するし,期日に間に合わないときは,もうしばらく待って下さいとお願いに来る.そのため,No 1〜No50については,全員分を回収することが出来ている.ただ,かなり長期間に渡るため,データ等の処理が煩雑になるという難点が残る.
どうも,今年の生徒は「成績」という言葉に敏感に反応する傾向が強く,「Home Study」や「確認小テスト」の点数についても,成績に関係するのかと尋ねる者が多い.この点については,他校の様子も伺いたいと考えている.
6.最後に
本校に入学する生徒の最大の弱点は,「自分で勉強できない.」という1点に尽きると思われる.(この点については,本校だけに限ったことではないのかもしれないが.)いかに自らの意志を持って学習に取り組むように仕向けるか?これが大きな課題として目の前に立ちはだかっている.更には,数学が好きになってほしいと願いながらも,現実には有効な手段を講じることが出来ないままに終わっているのが現状である.数学が好きになるためには,数学が楽しいと思わなければいけないし,数学が必要であると感じなければならない.
しかし,いきなり生徒に数学教師と同じレベルで,数学が必要だという意識や,数学が楽しいという気持ちを持てと要求しても,それは無理である.まずは問題が解ける喜びや,おもしろさを伝えなければいけないし,そのためにも,わかる授業を実践し続ける必要がある.そして,日常生活において,数学が役に立っていることを少しでも理解するような指導を通して,数学の有用性を理解させなければいけない.しかし,授業中には,なかなか脇道に逸れた話を行う余裕がないのが実態でもあるので,Mat Information等の数学通信を利用して,折に触れて,数学の有用性を話したり,考えさせたりする必要があるのではないだろうか.