十進BASIC for Windows95による教材開発

 インターネットやファミコンの普及は、コンピュータにおけるメディアの付加価値を確実に進化させた。ただそれは、環境整備の追いつけないファッション的な向上といった印象が強く、制御のない画像の氾濫は、利用者の意識面においては、精神的退化傾向を増長させたともいえる。だが、いずれにしろ、幼児期のピコから始まり、プレイステーション、コンピュータといったものを媒介として、グラフィックに接する機会は増え、情操的な面での創造性が養われているのは事実であり(固定化された映像という没個性の点は否めないが)、コンピュータフォビアといった言葉は、完全に死語となってしまった。

 では、教育現場におけるコンピュータについてもさぞかし積極的に導入されているかと思えば、あにはからんや、少なくとも数学の授業においては大半の学校は旧態依然のチョークと黒板の格闘である。教師のいろいろな面での研究制約が、その利用を阻んでおり、インターネットを先陣とする家庭へのコンピュータ普及との格差は広がるばかりである。その結果、昔(今は三年ひと昔というんだそうな)、MS-DOSで苦労して作ったような稚拙なグラフィックアニメなど生徒は受け付けなくなってしまった。

 さて、ところで、現場での研究制約であるが、具体的には、教師の大半は、

金がない、暇がない、時間がない
といった「3ない貧乏」の縛りを受ける。授業教材をコンピュータを使って作ろうと思っても、コンピュータ本体は学校で揃えられても個人的にソフトを買う金がない、実際に作ろうと思っても、部活や生徒指導に追われて暇がない、じゃあ、家庭に戻ってからといってもソフト開発のためにかかる膨大な時間の確保ができない。そして、結局は、それなら従来通りの方法で授業を乗り越えようということになってしまうのである。教育が授業プラス生活指導であるのは当然としても、ごく普通の忙しすぎる教師は、ソフト開発にまで到底手を延ばすことはできないのが現状である。

 だが、どこにも救いの手は意外とあるもんでもある。

 それが、今回紹介するプログラミング言語、「(仮称)十進BASIC for Windows95」である。これは、フリーソフトとして無償で公開されているこのソフトのReadme Text の内容を抜粋して紹介すると、

 1993年に改訂されたJIS Full BASIC規格に準拠したBASICです。数値計算とグラフィックスを探究のための道具として利用しやすくすることを目的としています。

 グラフィックスは,利用者が定義する問題座標系で動作します。関数のグラフを描いたり,曲線を描いたりするのに面倒な座標の換算は不要です。さらに,Full BASIC特有の機能である絵定義と図形の変換の機能を用意しているので,変換幾何,自己相似図形などを簡単に試してみることができます。

 読んでお分かりの通り、このBASICは数学の教材開発を目的として作られてといってもよい機能を備えている。基本的にはBASIC言語であるから、古きBASICプログラム手作り世代にも容易に馴染める。富士通のF-BASICと似た操作性ではあるが、コンパクトにグラフィック機能を中心にまとめられており、VISUAL-BASIC 的要素も含んでいる。特徴を述べると、

  ○ Windows95上で動く
  ○ フリーソフトである
  ○ グラフィック処理に優れている
  ○ プログラムが簡単である

 前述の「3ない貧乏」を補うに余りあるソフトであることが分かる。具体的な教材プログラムを通してその内容について触れていこう。