確率の順列・組合せの中でも「重複組合せ」は教える側にも教わる側にもやっかいな問題ではある。公式としては、
異なるn個から同じものを選ぶことを許して、r個選ぶ場合の数は、 |
で済んで(済ませて)しまうが、具体例での説明からこの公式への結びつきがしにくく、演習問題になると使い方さえ分からなくなってしまう。
教科書の扱いもしたがってずいぶん苦労しているようで今回の指導要領では(研究問題として載せてあり)扱われなくなってしまった。しかし、傍用問題集などをみると触れているものも多く、場合の数の求め方の基本が「要領いい数えあげ」という結論になるなら組合せの応用として重複組合せはもちろん出題されるわけである。ではその実際の指導法はというとやはり難しい。そこで、教科書で扱われていたものも含めてすこし考察してみよう。
まず、昭和50年台に教科書で扱われていた解法を示そう。
順序組分配法
ex)1から9までの整数から同じ数字をとることを許して3つの整数を選ぶ方法は何通りか。 |
たとえば1,1,3を選んだ場合を(1,1,3)と組で表す。このとき、(a,b,c)をa≦b≦cを満たすように選ぶと、その組の総数が求めるものである。この3つのa,b,cが異なる数であれば単純な組合せとなるが、同じ数になる場合もあることが問題を複雑にしている。それを次のように考える。
選んだ組の3つの要素にそれぞれ(0,1,2)を加える。
(1,1,3) →(1,2,5), (2,2,2)→(2,3,4), (3,8,9)→(3,9,11)
と対応させると求める組の総数は対応させた組の総数に等しくなる。加えてできた組の要素は、1から11までの異なる3つの整数となるからその組の総数は、
11
で与えられる。これを一般化して、重複組合せの公式を作ればよい。
ただこの方法は、同じものを含む3つの数を異なる3つの数に変換する過程で,(0,1,2)という順序組を作って説明しているが、その順序組の考えだされた背景が分かりにくく、なぜ加える数が(0,1,2)でなければならないのか(実際には連続する整数ならなんであってもいいのだが)が疑問を生む要因となり、理解への障害となるのである。
(a,b,c) + (0,1,2) ⇒ (a,b+1,c+2)
1≦a≦b≦c≦9 + 0<1<2 ⇒ 1≦a<b+1<c+2≦11
ということになろうが、確かにこれは分かりにくい。
次に、この順序組による方法が昭和60年台に入ると次のような視覚的な方法に変わっていった。
丸棒分配法
ex)3つの文字a,b,cから同じ文字を選ぶことを許して5個選ぶ方法は何通りか。 |
教科書では、これを棒|と丸○を使い、取り出した文字を次のように対応させる。
abbcc ⇒ ○|○○|○○ aaaaa ⇒ ○○○○○|| bbbbc ⇒ |○○○○|○ |
棒|を「しきり」と考えて、その左右で
(aの個数)|(bの個数)|(cの個数)
を対応させるわけである。これから逆に
○○○|○○| ⇒ aaabb
と読み取れることになる。そこでこの並べ方の総数が求めるものとなる。
5つの○と2つの|の並べ方は(同じものを含む順列より)
である。もう少し具体例で考えると、
ex)6個の林檎を3人に分配する方法は何通りか。ただし1個も貰わない人がいてもよいとする。 |
解) 3人をA,B,Cとし、この3人が貰うべき林檎にA,B,Cとマジックで書き込んでいくことを考えれば、上述と同じ問題になる。6個の林檎○と(3−1)個の棒|の並べ方を考えればよいから、
8C2=28(通り)
Note)
なお、前述の順序組方式でこの問題を考えれば、
A ⇒ 1,B ⇒ 2,C ⇒ 3
と3人を数字に対応させ、要素6個の組に1,2,3の数字を小さい順に入れていけばよい。
(1,1,1,2,2,3) ⇒ Aが3個,Bが2個,Cが1個
(1,1,1,1,3,3) ⇒ Aが4個,Bが0個,Cが2個
となる。さらに、(0,1,2,3,4,5)を加えて、要素を異なる数に変えて、
(1,2,4,5,6,8) ⇒ (1,1,2,2,2,3)
と逆に読み取ればよい。よってその総数は、1から8までの整数から6個選べばよいから、
8C6=28(通り)
となる。
この方法は、あまりに計算技術に走りすぎていた前者の順序組法にたいして、より視覚に訴えるように図式化したことに解法としてのうまさがあろう。ただ、無理がある視覚化であることはいなめなく、ごっちゃにした並べ方には感覚的な抵抗感も覚えるのである。もう少し、具体的にいうと、
@「林檎○」と「仕切り|」のように本来異質であるものを混ぜて並べることの感覚的な違和感。
合理的な発想だと思う。全部いっしょくたにして考えてしまうわけだから思い切った発想からずいぶん計算を単純化できることになる。しかし、林檎と仕切りが順列上に同居する様は発想としては飛躍のしすぎだと思うし馴染めない。
A各々に分配する個数を考えるのに1つも貰わなくてよい場合を考えること。
分配する以上は、最低は1個と考えるのが自然であろうが、「求めやすく」するために0個以上で設定することの無理を解説の背景に感じ取ってしまい、貰わない人間がでてくることの不公平感がでてくる。
以上のことを踏まえて次の方法について述べていこう。
仕切り分配法
ex)6個の林檎を3人に分配する方法は何通りか。 |
もちろんこの場合は、どの人も最低1個は貰えるとする。まず、林檎を6個をテーブルにでも並べて置く。次に林檎をA,B,C3人が左から適当な個数を取っていく。その取っていく林檎と林檎の境目を「仕切り」で区切ると、5つの仕切りができる。この仕切りから、2つを選ぶとその前後で3つの組に分割されるからそれを左から、A,B,Cが貰う個数とすればよい。
∨ ▼ ∨ ∨ ▼
○ ○ ○ ○ ○ ○ ⇒ AABBBC
∴ 5つの仕切りから2つの仕切りを選ぶ方法は、
5C2=10(通り)
この仕切りによる数え方は、1個以上について成立するものである。では1個も貰わない人がいてもいいという場合の処理はどうすればいいだろう。仕切り法では次のように考える。
要は「1個も貰わない人がいる」場合を、「1個以上は貰う」条件に作り変えてやればよい。そのために別に林檎を3個用意し、もともとの6個と合わせておき、計9個の中から前述の仕切り法を使えば各人1個以上は貰えることになる。そうして分配した後で、加えた1個を返して貰うと0個以上という条件に戻る。
∨ ∨ ∨ ∨ ▼ ∨ ∨ ▼
○○○○○○+○○○ ⇒ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
3個戻して ↓
▼ ▼
○ ○ ○ ○ ○ ○
A(4) B(2) C(0)
∴ 8個の仕切りから2つの仕切りを選べばよいから、
8C2=28(通り)
この考え方を応用すれば、2個以上を基準にするなら、最初に1個ずつ3人に与えておき残った3個について仕切り法を使えばよいことになる。林檎を「加えたり、取ったり」しながら、1個以上の条件整備をすればどんな場合でも仕切り法で処理は可能となる。
なお、この方法を授業で説明するときは、その前段として、次の例を挙げることにしている。
テキサスの牧場主の遺産相続の話 3人の息子が死んだ父親から11頭の馬を遺産として譲り受けた。 |
11頭は、2,4,6では割り切れないから生徒は困惑する。ある程度考えさせて(悩ませて)から次のような解答を示す。
馬に跨がって砂塵の中から1人の流れ者が町にやってくる。困っている息子達に流れ者は、颯爽と馬から降り、自分の馬を11頭の中にいれる。合わせて12頭の馬を流れ者は、6頭,3頭,2頭に分け、それぞれ長男、次男、3男に与え、そうして残った1頭に跨がり、再び砂塵の中に消えていく(BGM:愛しのクレメンタイン)。
この問題のトリック自体も数学として面白いものがあるが、大事なことは、1頭加えたことで割り切れなかった問題がすんなり解決してしまったということである。この「流れ者」は、問題条件の環境を最適化するためのものであり、流れ者そのものが問題の分配に関与するわけではないのである。いわば化学でいう触媒の働きを流れ者はしているわけで触媒自体は変化しないが、加えることにより反応速度は高まる。そして最後に触媒を取りのぞけばよいということである。こういった考え方は数学では式変形などで使われる場面がよくある(たとえば、x4+4の因数分解)。この加える数を仮に「触媒数」と呼ぶことにしよう。
さてこの触媒数の考え方からもう少し問題を分析してみよう。
この問題の場合は加えた3個が触媒数の働きをしていることになる。この方法は、林檎を並べるというより、置かれてある林檎を左から順に3人が取っていく場合に、どこで取るかを仕切りで判断しているわけで、ずっと現実的な分け方であろう。ただ、触媒数を加えることで、棒と丸の方法と違ってストレイトな解答にはなってはいない。しかし、一般にこの種の問題は、最低個数はいろいろと変えられて出題されるわけであるから、要は最低数の基準をどこにするかの問題に過ぎないのである。たとえば棒と丸方法では、1個以上貰う場合は、最初に各人に1個ずつ与えておき、残った個数に対して考えることになるわけである。
もう少し具体的にいうと、3人が貰う林檎の個数をそれぞれx,y,z個とすると、丸棒方式は、
x+y+z=6 (x≧0,y≧0,z≧0)
を基準とし、仕切り方式は、
x+y+z=6 (x≧1,y≧1,z≧1)
となる。そしてこれらは、
(x+1)+(y+1)+(z+1)=9 (x+1≧1,y+1≧1,z+1≧1)
(x−1)+(y−1)+(z−1)=3 (x−1≧0,y−1≧0,z−1≧0)
と変形すれば、他の方式に変わるだけのことなのである。
こうしてみると、環境最適化の基準をどこに置くかだけの違いで、丸棒分配、仕切り分配ともに触媒数を考えざるを得ないのである。ただ、仕切り法は、その解法の流れをみる限りは現実的な分配により近いわけで道理に合っている訳である。
Note)
異なるn個から同じものを取ることを許してr個選ぶ場合の数の求め方を上述の3つの分配法を使って一般化してみよう。
順序組分配法
異なるn個をAk⇒k(k=1,2,3,……,n)と対応させる。
要素数r個の組を考え、適当なkを小さい順に左から入れていく場合の数を求める。要素の値が等しくならないように、(0,1,2,……,r−1)を各要素に加えていくと、1≦≦n+(r−1)であるから求める場合の数は、
丸棒分配法
選ぶr個 ○○○○○………○○ に対し、n個に対応させるための棒(n−1)個 |||………|| を考えると、
○○○○………○○ ⇒ ○○○|○||○○○○|………|○
A1 A2 A3 A4 ……
よって、r個の○、(n−1)個の・を一列に並べる順列は、
仕切り分配法
選ぶr個に1個以上の条件に環境を整えるためn個を加え、 仕切り数 (r+n-1)
(○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ……… ○) (○ ○ ○ ……… ○ ○)
r個 n個
対応するn個を作るには、仕切り数(r+n−1)から(n−1)個の仕切りを選べばよい。
これらの一般化された公式からCの左側の数字の括弧のつき方をみると、それぞれの解法の違いがはっきりする。また、Cの右側の数字をみると、仕切り法だけが(n−1)である。すなわちこれは、r個選ぶのではなく、n個選んで(仕切り数としてはn−1)0個 という不平等を触媒数によって解消していることがわかる。
重複組合せの問題では「場合の数」が数Tで学ぶこともあって、生徒には教え難い内容となるが、H(同次積)とは考えずに、C(組合せ)とみれば、題材としては面白いと思うのだが。