「オイラーの公式」を教える!

札幌厚別高等学校  片岸 洋

  1. はじめに
  2.  このレポートは2003年10月17日(金)北数教の全道大会の公開授業で行なった「オイラーの公式」の授業についての報告である。もともとは当番校の真栄高校で,公開授業を引き受けてくれる学校がなくて困っているときに,北数教の高校部会長である本校の校長が来年度の当番校でもあるので,厚別高校で引き受けることになったらしい。
     あとは“来年は他の先生がする”とか,“生徒は9人しかいない”とか“たまには数Vの授業も公開してほしい”などの理由で,私がすることになった次第である。実際,札幌厚別高等学校は普通科9間口,全校生徒1067名,3学年は351名の学校であるが,数Vまで選択する生徒は9名しかいない。(2年次に理系1クラスを決め,その中での数V選択者が9名ということである)。300点満点の入試で,合格者は190点ぐらいの平均であるのに,数Vを選択するのがこの人数というのは淋しい。

  3. なぜオイラーの公式を指導することにしたのか
  4.  吉田武著「オイラーの贈物−人類の至宝eix=-1を学ぶ」(海鳴社)で,「オイラーの公式において,それぞれまったく独立に定義されたふたつの関数−単純関数である“指数関数”と周期関数である“三角関数”−が“虚数”を取り込むことにより結びついている。これは誠に驚嘆すべき結果である。この式の構成要素の全てが数学的に重要なものであり,しかも,その関わりあいの精妙さ,大胆さにおいて他に比べるものが無い。暗記が苦手ならば,迷うことなくオイラーの公式ひとつに集中し,これを活用する方法を知ることが効果的である。」という記述があった。私が初めてこの公式に接したのは大学のときであるが,その時の衝撃はいまでも忘れられない。せっかく数Vまで勉強するのであれば,なんとかこの公式を指導してみたいという想いがあった。また,失明し,完全に目が見えなくなっても研究を続けたオイラーという人物についても,生徒の心に迫るものがあると考えたのもこの授業を実施することにした理由である。

    オイラーの公式を学ぶ主な利点

    1. 「三角関数と指数関数が兄弟だ」という関数の結びつきを知ることができる
    2. sinθ,cosθの微分公式,積分公式が簡単に求めることができる
    3. 三角関数の加法定理,二倍角の公式などを導ける
    4. ド・モアブルの定理(cosθ+i sinθ)n=cos nθ+i sin nθは一目瞭然である
    5. e=-1というeとπとi,三つの数の不思議な関係が出てくる
    6. 複素数関数やテイラー展開などの大学で学ぶ解析学へと続く内容である

  5. f'(x)=kf(x),f(0)=1の解がf(x)=ekxである(微分公式を使わない)証明

  6. よって, f(0)=1より,C=1

  7. 授業後の感想について
  8. 「オイラーの公式」を導くときに,k を虚数 i とするとことが生徒には分かりづらいと考えていたが(実際には複素数関数を学ばないと使えない),思ったより理解してくれたようである。(下に生徒の感想を載せる)。この授業自体は投げ込み教材であるが,「オイラーの公式」が三角関数と指数関数の関係を表した公式であることやそれを使って三角関数の公式が導けることは何とか伝えられたような気がする。特に,今まで何気なく使っていた今までの授業の経験から一度では人物の名前も業績もすぐ忘れてしまうので,この授業のあとに数学通信コンパスを配布し,もう一度オイラーについての説明の補足をした。オイラーについては,この公式を指導するしないにかかわらず,数Vを学習しない生徒にも,一筆書きや2次方程式,三角比・三角関数などの分野で,是非一度は取り上げたい人物である。


学 習 指 導 案

1.日時 平成15年10月17日(金)  第2校時
2.対称クラス 3年3組 (男9名,女9名)
3.担当教諭 片岸 洋 4.教科・科目 数学V
5.使用教科書 数学V(東京書籍) 6.単位数 4単位
7.単元 微分の単元が終了しているので,この時間は数学的に有効なオイラーの公式を導き指数関数と三角関数との関係を学習する。
8.本時の目標 オイラーの公式と,それを利用して微分や三角関数の公式を導く。オイラーの人物についても学習する。
9.本時の展開
授業の流れ 指導内容・方法 指導上の留意点
教師の活動 生徒の活動
導入
5分
y=sin kx
y=cos kx
y=ekx
の第2次導関数を求め,y'とy"の関係を考える。
y"=-k2 sin kx
y"=-k2 cos kx
y"=k2 ekx
この三角関数では
 y"=-k2 y
指数関数では
 y"=k2 y
という関係がある。
展開
35分
f'(θ)=k f(θ)となる関数を求めよ。 f(θ)=e 実際の答えは
f(θ)=A eだが,f(0)=1という条件では,A=1となりf(θ)=eになる。
このような方程式を微分方程式という。
g(θ)=cosθ+i sinθを微分し,g(θ)とg'(θ)との関係を求めよ。ただし,i2=-1 g'(θ)
=-sinθ+i cosθ
=i2sinθ+i cosθ
=i (cosθ+i sinθ)
g'(θ)=i g(θ)
k=i でも成り立つとすると
g(θ)=cosθ+i sinθはどんな式になるか。
e=cosθ+i sinθ g(0)=1を確かめる。
これをオイラーの公式という。
e-iθ=cosθ-i sinθを使ってsinθとcosθを指数関数で表す。
指数関数は三角関数で表される。逆に三角関数も指数関数で表されることがわかる。
(e)'=i eからsinθとcosθの微分公式を導く。 (cosθ+i sinθ)'
=i (cosθ+i sinθ)
=-sinθ+i cosθ
《複素数の相当》
a,b,a',b'が実数でa+b i=a'+b' iのときa=a',b=b'
(sinθ)'=cosθ
(cosθ)'=-sinθ
sinθとcosθの第2次導関数も求めることができる。
ei2θ=(e)2を計算して,両辺を比べる。 ei2θ=(e)2
左辺=cos 2θ+i sin 2θ
右辺=(cosθ+i sinθ)2
  =cos2θ-sin2θ+2i sinθcosθ
 
  sin2θ=2sinθcosθ
cos2θ=cos2θ-sin2θ
《2倍角の公式》
問.e(α+β)i=eeより加法定理を導け。 sin(α+β)
=sinαcosβ+cosαsinβ
cos(α+β)
=cosαcosβ-sinαsinβ
時間があれば,ド・モアブルの定理にもふれる。
(cosθ+i sinθ)n
=cos nθ+i sin nθ
まとめ
10分
オイラーの公式にθ=0,π/2,πを代入する。 θ=0  1=1
θ=0  eπi/2=1
θ=π  eπi=-1
πとiとeが一本の簡単な関係式で表される。
オイラーの人生やその実績について簡単に触れる。


生徒の感想 (全員)