第54回北数教全道大会
1999.9.17

2次関数を楽しく

龍谷学園双葉高等学校  大 山  斉

【1】はじめに
【2】関数は“函数”から
【3】2次関数(何を目指すか)
【4】難問を易しく解く(教具の工夫)
【5】グラフの応用(2次不等式への工夫)
【6】おわりに

  O資料 ブラックボックスの作り方

【1】はじめに

 今回の教育裸程においては、関数に関連する教材のつながりが分断されているという印象が強くそのため、個々の教材を通してその教材の個別分野としての理解だけでなく、次第に関数の概念の深化発展を目指すということが困難な状況が生れている。

 ところで自然現象や社会現象を深く把握しようとするとき関数の概念は不可欠なものであり、そのような重要概念を、高校数学の中で効果のある形で教育訓練することに支障があってはならないので教育現場での取り扱いには常に工夫が必要であると思われる。

 現代の高校生が高校で初めて本格的に関数を学ぶことになるのが2次関数であるから、この教材の重要さが益々大きく浮かぴ上ってきた。また教育現場での授業展開は、できるだけ楽しく、わかり易いものでなけれぱならない。いやむしろ本当によくわかる授業こそ自然に楽しくもなってゆくものなのであろう。そのような工夫の一端について述べてみよう。


【2】関数は“函数”から

 関数とは何かということがごく自然にイメージできるようにしてゆきたいものである。現在関数教材は各学年に分断された形で展開されており、関数一般という概念をまとめきれない事情に置かれている。微積分の概念を深めてゆこうとするとき関数の概念がきちんと把握されていなければならないし、また図形の対応や、領域の対応を考えたりする場合も根底には関数としての対応の概念がよく理解されていることが必要である。もともと関数とはきわめて広い内容をもった概念であり、それは対応、写像、変換、操作という名でもおきかえることが可能な豊宮な内容を持ったものなのである。関数の本質は集合から集合への対応、変数から変数への対応であり、従って対応の規則に着目してゆくことになる。

 y=f(x)という場合に以前はyをxの関数であるというような言い方をしたこともあったが、yはxに依存して決まる或はyはxに従って決定される変数という意味で、xを自変数、yを従変数として関数とは独自な概念として区別して理解されることが望ましい。関数とはy=f(x)においてのfなのであり、これはxとyの対応を規定するものと考えられる。またxやyにあてはまるものは数でなくとも、数の組、ベクトル、点の座標、その他何らかの集合の元であればよい。そこで最初に“関数とは何か”を述ベるときに関数のさまざまな意味の拡張に適応できるような形でまとめておくことが望ましい。関数fのもつ働きや、対応のさせ方が容易に思い浮かべられるようなシェーマを工夫することが必要である。このようなシェーマとして適当と考えられるのがブラック・ボックス(暗箱)である。ブラック・ボックスとは内部のからくりがどうなっているかは別問題として、とにかく何らかの仕掛けによって一定の操作を行う装置である。入ってくるもの(入カ)にある加工を施して、それを外部に送り出す(出カ)働きを持っている。次の図は入カxがfの操作を受けて加工されてyになり、それが出カとして出てきたことを意味している。これを式ではf(x)=yと表わす。f(x)の(  )は入力の入口と考えることができて、この入口から入カxが入ってゆき、fの操作を受けてf(x)となりそれが出力のyなのであると考えるとよい。入カxに対して或る作用を加えて出カyとして対応させる対応のさせ方がブラック・ボックスの働きfとして表わされているのである。

 かつて“関数”は“函数”と表記されてきた。functionが漢訳される際に発音が似ている函の字をあて、数学用落として“函数”としたのだといわれている。現在では函数という字は数学用語からは消えてしまったが、ブラック・ボックスはこの“函数”そのものではないのかという気がするのである。関数の授業には、まずブラック,ボックスを使用してみようという取り組みが定着してゆくとき“函数”は現代において再生したということになるのではなかろうか。


【3】2次関数(何を目指すか)

 2次関数は変化率が−定でない関数の中でごく身近なものとして代表的な例といえる。この関数の変化の様子を調べる為にグラフを書くと放物線と呼ぱれる曲線となり、最大や最小を調べたり、頂点を求めたり、更に方程式,不等式を解いてゆく際の補助手段として利用されたりする。

 2次関数のグラフの概形は一般形としてのy=ax+bx+cを標準形y=α(x−p)+qへと変形してイメージされる。この為従来は平方完成の計算に全カをあげることになるが、このことにエネルギーを費すあまり変化の解析という視点がぼけてしまうことがしばしぱである。

 放物線の頂点を求めるには平方完成の方法を利用せずに、簡単な計算から(やや時間はかかるかもしれないが)確実に求めることができる。この方法は3点法といわれ札幌星園高校の澤尻先生が紹介している。これらの方法を参考にしながら最大・最小間題を理解させることに目標を設定した。それは2次関数が1次関数と一番はっきりした違いを見せるのは最大・最小の問題であり、これが2次関数の要ともいえる部分であると考えたからであった。定義域が実数全体の場合の最大・最小を考えることから始めて、定義域が開区間の場合の問題を考えるように発展させてゆく。


【4】難問を易しく解く(教具の工夫)

 2次関数の最大値、最小値の問題で入試等でよく出題され、昔から難問といわれ、教師も説明するのに苦慮するという問題がある。その代表的なのは次の[1]、[2]、[3]のような問題であろう。

[1]2次関数y=x−4x+5の区問α≦x≦α+2における最大値をM(α)、最小値をm(α)とするき、M(α)、m(α)をαの式で表わせ。

[2]区間0≦x≦2における関数y=2x−4αx+1の最大値と最小値、及ぴそのときのxの値を求めよ。

[3]区間の0≦x≦αにおけるy=x−4x+3の最大値・最小値とそのときのxの値を求めよ。

 これらの問題に共通していることは文字αに関して場合分けが必要であり、説明する際には多くのグラフを書いたりすることになるが、場合分けが動きとして把え難くなかなか理解しづらいということである。この難点を少しでも軽減させたいと、いくつかの教具を製作してみたが、私はこれを“紙芝居方式M、m説明器”と呼んでいる。今回はこれらの教具の実演も試みてみたいと思う。


【5】グラフの応用(2次不等式への工夫)

 2次不等式を解くのに計算のみに頼るのではなく、グラフを利用してそのイメージをもとにして解くことが可能である。これに関しては、札幌新川高校の中村先生の発表された面自いレボートがある。私もこのレポートを参考にして、2次不等式を説明したが面自くできたように思うので、この事についても報告をしておきたい。


【6】おわりに

 今回の私の2次関数の授業はいろいろな工夫を試みたものであったが、その基になったのは既に発表された多くの先生方のレボートである。特に数実研で発表された先生方のレボートから多くのものを参考にさせて頂いた。これらの貴重なレボートは数実研のホーム・ページとしての“数学のいずみ”の中に収録されているので多くの人々に見て頂きたいものである。

 また札幌稲北高校の早苗先生のホーム・ページである“数学玉手箱”には私共の教材研究の参考となる話題が豊富に収められている。以上のホーム・ページより多くの事を学ぶことが出来、この場をかりて感謝申し上げたいと思う。