教材余話(3)

円周率πをめぐって

北海道苫小牧東高等学校 矢嶋 裕之

はじめに

私とπの計算とはかなり因縁が強い。最も古くは小学生の頃、円の面積計算で初めて円周率が3.14ぐらいという話を聞き、何で3.14ぐらいなのかと割り切れない思いをいだいたのが事始めであった。当時からすでに大学では理系(理科か数学系)と考えていたので、この『〜ぐらい』という表現が気になったのだ。『円周率って正確にはどんな値なのだろうか』、この幼い頃の思いは大学に入り、一応の収束をみる。高校卒業までに専攻分野は統計学と決めていたから大学入学後、電子計算機概論から統計学(数理統計に限らず、幅広い意味での統計学)を学ぶ一連の流れの中で、中型や大型の電子計算機をリモートバッチで使わせていただいてπの高速計算をやったこともあったし、後には小型なパソコンで値を求めたりしてπの世界の奥深さを感じたりしていた。その後、教員になってからもπのことは時々自分の研究材料として、時には、この数実研のレポートとしても書いたことがあった。そして、今回、このシリーズの1つ目のレポート(『教材余話(1) 数学基礎『数の表記法』をめぐって』)を書くために、様々なサイトに入って内容をみているうちにπの計算に関するサイトが多いことを知った。本稿はこれまでの私のレポートのまとめ方と異なり、自分で調べた内容をまとめるという形態ではなく、πの計算に関連するサイトを紹介し、生徒や諸先生方がπの計算について調べる際のお手伝いをするためにまとめてみたものである。


第1章 本当に多い『πの計算』に関するサイト(一般教養として)

 以前書いた『教材余話(1) 数学基礎『数の表記法』をめぐって』のレポートを作る際に、情報検索を使っていろいろなサイトをみていたのだが、『πの計算』だけをキーワードにしてみたらなんと3880件(12月22日現在、半月前の12月8日には3860件であった)のサイトが検索され、この関連のサイトの多さがすぐわかった。そして、後述するようにπの値を利用して音楽(メロディ)を作ってしまうような方もいて、πの計算一つとっても公開されているサイトは、実にマルチなジャンルにわたっていることがよくわかる。本章では、私たちの一般教養として参考になりそうなサイトのいくつかを紹介しながら寸評を加えていくこととする。

(1)リンク集的なサイト
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI)
 私が一番最初に入ったのは、1つ目にあった『πの部屋!』というサイトで、タイトルが示すようにπに関連した内容ばかり(多くはそのリンクによって)をまとめたサイトであった。こうしたサイトがあると大変便利なものである。

(2)π計算の歴史
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/HISTORY/index.html)
 昔、大学時代に何かの科目(多分、計算機に関する科目)のレポートで、π計算の歴史について課された記憶がある。当時はもちろんインターネットがなかったから、図書館へ通って百科事典とか数学の書籍から調べた。今ならこのように一瞬に参考になるサイトが見つかる。

(3)円周率についての歴史年表
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/docs/pi-history.html)
 π計算は計算機のない古代から始まっている。先のレポートでもそのことは少しふれたが、紀元前2000年頃のバビロニアでだいたいの値は求められていた。このサイトの内容も一般知識として役に立つと思われる。

(4)東京大学の金田研究室
 (http://pi2.cc.u-tokyo.ac.jp/index-j.html)
 言わずと知れたπ計算、とりわけπの高速計算の第一人者である金田教授のサイトである。後でふれるπ計算プログラム『スーパーπVer1.1』を初めとするπの高速計算について、フリーソフトとして現在提供している。以前、金田教授にπの高速計算について問い合わせをしたことがあった。見ず知らずの私の質問に対してもていねいに答えていただいて感激した記憶がある。

(5)円周率計算プログラム『スーパーπVer1.1』
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/super_pi.html)
 前述の金田教授の研究室で開発された円周率計算プログラム『スーパーπVer1.1』に関してkusuto氏がインストーラー付きに再圧縮して作ったものなど、『スーパーπVer1.1』に関するダウンロードが受けられる。πの計算プログラムとしては使いやすいのでダウンロードをお勧めしたい。

(6)円周率1.6万桁の計算結果
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/pi-data.html)
 前述の『スーパーπVer1.1』を用いて計算した結果を実行せずに結果だけを見せてくれるサイトである。しかし、『スーパーπVer1.1』は大変手軽なファイルになっており、実際に計算してもこのくらいの桁数まではそんなに時間がかからない。事情が許せば、是非とも計算を体験してみてπ計算の醍醐味を味わってほしいと思う。

(7)πの世界記録? 2061億5843万桁計算の概要
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/20615843.html)
 これもkusuto氏によるサイトで1999年10月に公開された資料をもとにkusuto氏がHTML化したものである。πの計算に興味のない方には無意味なサイトのように思われるかもしれないが、0〜9までの数字が並んだ部分があることや、πの値を表す0〜9の数字の分布を見てもどの数字もほぼ同程度の頻度で使われていることなど、結構おもしろい内容を含んでいる。

(8)πの1000万桁の表示
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/PI-data/index.html)
 LHA圧縮した10個のファイルに分割されており、私は1つ目のみをダウンロードし、解凍し、印刷してみた。何とA4版46枚にもなる量であり、印刷を終えて、紙の無駄使いになったのではないかとやや後悔した。このサイトを訪れた人の数も結構多く、こういった内容も多方面で利用されていることを実感できた。

(9)πに関するリンク集
 (http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/LINK/index.html)
 他のサイトにも似たようなものはたくさんあるが、『πの部屋』からと相互リンクされているものを紹介してあるサイトである。実は、この後、『数学教師のこだわり』というサイトへ入ったところ、πの値を使って音楽(メロディ)を作ったというサイトを見つけることとなる。世の中、大変広いものである、予想もしなかったサイトの出現である。

(10)個人的なサイトですが
 (http://web.tokyo-inet.or.jp/people/haselic/)
 中学校教師で数学を担当しているハセガワツヨシ氏(多分、この名前は本名だと思われる、銀行口座の名義にも使われているため)が作ったサイトである。中でも『円周率は音楽であった』などという項目を見つけ、すぐさま迷わずクリックした私である。その他のサイトも教師らしい内容が多かったです。

(11)πは音楽
 (http://web.tokyo-inet.or.jp/people/haselic/pi/pai.htm)
 サイトの中の記述にもあるが、πの値を示す0〜9の数字を小学校におけるハーモニカの音符に番号をつけるのと同じ法則で5線譜に書いていったら、耳に心地よいメロディになったというものである。私もファイルをダウンロードして聴いてみました。オルゴール調の音色のおもしろい音楽でした。パソコン教室にはmidiに関する機材が全くないので、そのときはそれで終わってしまいましたが、何かいろいろやれそうな気もしてきました。例えば、小数に直すとやはり無限小数になる無理数を使って同様なことをするとどんな風になるか……など。

(12)別のルートからの『スーパーπ』の入手法
 (http://isweb21.infoseek.co.jp/computer/benchch/superpi.html)
 前述の(11)までは『πの部屋』というサイトから入っていったものを順に紹介したのであるが、別のところから入ったのがこのサイトである。π計算で有名なこのプログラムはいろいろなところからダウンロードできます。

(13)スーパーπ
 (http://www.vector.co.jp/soft/win95/edu/se022882.html) 
 フリーウェアのダウンロードをした人ならよく耳にするURLの一つが、『www.vector.co.jp』。ここにも『スーパーπ』のダウンロードを無料でするコーナーがありました。私も何かとお世話になっているサイトの一つです。


第2章 教材としてのサイト利用

 πの計算などについて調べ学習をさせる場合、生徒にある程度参考になるサイトを紹介しておかないと『πの計算』だけで数千サイトもあるので、情報検索に長い時間を要する結果となってしまう。そこで、この章では生徒がπの計算についてどのような計算式があるか等、πに関する内容をインターネットで調べようとした場合、参考になりそうなサイトをいくつかあげておくことにした。

(1)πの話
 (http://village.infoweb.ne.jp/~fujii3/pai.htm)
 ライプニッツの公式、マーチンの公式など有名な計算式がまず目に入るこのサイト。私も初期のPC98のパソコンを購入した当時は、これらいろいろな公式を使ってプログラム(ROM版のbasicやDOS版のbasic、その他のいろいろな言語で)を組んでπの値を求めてみたことがある。その後、大学時代に大型計算機(OKITACやHITACといったコンピュータ)をリモートバッチで使っていた頃のプログラムをパソコン用に移植しようとした時期もあったが、大型計算機と違ってパソコンの場合はなかなかうまくいかなかったような記憶がある。昔だと書籍にあたって調べるしかなかったこれらの公式を一瞬に引用できるのは、生徒にとっても便利だと思う。

(2)円周率(数の世界)
 (http://www1.fctv.ne.jp/~ken-yao/Paipai.htm)
 アルキメデスの円周率の求め方は名の知れた方法であり、それがわかりやすく説明されているこのサイトもπの計算についてまとめるのに役に立つと思う。ライプニッツやニュートンなど無限級数を用いて求める手法が主流かと思われたπの計算も、その昔は図形によって求められており、加えてドイツではπのことを『ルドルフ数』と呼んでいるなど、興味のある内容も載っている。

(3)πの求め方
 (http://hp.vector.co.jp/authors/VA014765/pi/howto.html)
 πの計算は級数展開による求め方ばかりではないことを端的に示すサイトがこれである。このページにπの求め方の様々なジャンルが記されており、単にパソコンで計算するだけではなく、紙と鉛筆を使った実験の例も出ており、広く使えそうなサイトである。原始的に円周率を求める方法などは大変便利だと思った。

(4)πのページ
 (http://hp.vector.co.jp/authors/VA014765/pi/index.html)
 前述のサイトの関連のサイトでこちらが入り口のように思われる。このサイトで便利だと思われたのは、参考文献を記述したコーナーがあることである。生徒に対してπの計算に関する書籍の中で読ませたいものも多数含まれており、生徒への提示にも役立つと思う。また、πの値の様々な暗記法を記述しているところもあり、コラム的に利用するのに便利です。

(5)円周率の公式集 暫定版 Ver.3.141
 (http://www.pluto.ai.kyutech.ac.jp/plt/matumoto/pi_small/_pi_small.html)
 編集した松元隆二氏は後述の(7)のサイトを見ると、大学勤務の方らしい。ただ、大学教授など教官なのかは不明である。トップページを見ただけで、まとめられている内容が本格的であり、πの研究を続けている方であることはすぐわかる。第1章や第2章で前述した内容はほぼすべて含まれており、内容としても大変立派である。ただ、高校生が読んだ場合にはやや難しいと思われる内容もある。私たちのような立場にある人でも、よほどπの計算に詳しい者でもないと、『こんな計算方法もあるのか』『あんな求め方もあるのか』と感じられる内容がたくさん含まれている学術的にも高いサイトである。私のπの計算に関する研究でも大変役に立っているサイトの一つです(とは言え、まだ全部の事項をあけて読んだというわけではありませんが)。高校生でもこのようなサイトが理解できればいいなあとは思うが、現実的にはそれはかなり難しいと思う。

(6)江戸時代の日本人による公式
 (http://www.pluto.ai.kyutech.ac.jp/plt/matumoto/pi_small/node7.html)
 前述のサイトから私が真っ先に入ったサイトで和算家についてのサイトである。これは以前(前任校時代)数実研のレポートとして、π計算に関して建部賢弘のテーラー級数を用いたりしてまとめたことがあったので、どんな記述がされているか興味があった。江戸時代の日本人によるこれらの公式は一見あっさりとしているが、プログラムを組むときには結構大変であることが多い。生徒がこうした公式(計算式)をプログラム化できるかは不明であるが、日本人のπの研究者の先人について知ることは有益である。

(7)サイトhttp://www.pluto.ai.kyutech.ac.jp/plt/matumoto/pi_small/node49.html
 松元隆二氏自身についての記述があったのがこのサイトである。更新覆歴の書き方を見て、自分が作っているサイトでもこのような書き方をした方がよいのかと考えさせられた。その他、文中の各所から他の原稿のサイトへリンクできるようになっており、生徒も利用(ただ、内容的には高校生では少し難しいが)できるであろうし、松元氏へ直接質問や感想を送ることも可能である。生徒がこうしたサイトの内容を見てレポートなどを作った場合は、サイト作成者へ感想などを送るのが好ましいと思う。見知らぬ高校生からの質問や感想などをきっかけとして、サイト作成者に新たな展開が起こることがよくあるからである。

(8)Java教材集
 (http://web2.incl.ne.jp/yaoki/java.htm)
 Javaを使って何かを作るというのは高校生では難しいことだと思う。しかし、作られたものを利用して何かを体験するというのは可能であると思う。中でもこのサイトは中高生に使ってもらうことを前提として作られた部分も多く、こうしたサイトの利用は大変有効だと思う。

(9)πの計算
 (http://web2.incl.ne.jp/yaoki/k14.htm)
 今回のレポートの最後のコーナーはπの計算で最も有名(?)なモンテカルロ法に関するサイトである。こうしたサイトも実に多いが、その一例として前述のサイトから枝分かれで入ったこのサイトをあげた。このサイトは単に読むだけではなく、実際にダウンロードしてプログラムを使ってπの値を求めていくところに特徴がある。前述したようにJavaは便利なものではあるが、それを使ってプログラムを組むのは容易とは言い難い。ただ、このサイトのようにダウンロードして使うだけならば、少し練習すれば誰でもできるので、こうしたものを意欲的に利用して学び、πの奥深さを堪能してほしいと思う。


おわりに(そして、年の瀬に)

 21世紀の初めの年がもうじき終わる。実にいろいろなことが起きた1年であった。多忙のあまり、今年はレポート作成が思うようにできず、前回(12月)の数実研の帰りの列車の中で構想をメモした数本のものを、立て続けにレポートとしてまとめている間に、12月が終わってしまった。日々の授業や12月22日から始まった課外講習のテキスト作成等諸準備、そして、急に話題が出てきた光ファイバー網に関する情報収集が加わったため、目の回るような忙しさであった。ただ、レポート作成というものは、忙しくても『やれそうな』時に作ってしまわないとできなくなってしまうことが多い、特に私の場合は。ただ、私の場合は従来から書き出すと割と短時間で完成することも多く、本稿と前レポートはほぼ同時に作っていた。そして、このシリーズの3本のレポートを完成させて気がつくと、もう年の瀬である。まだ家庭人としての仕事は何も果たしていない(私はこれから自宅の大掃除をしなくては……)。
 さて、本稿は『はじめに』でもふれたように、私が調べたことをまとめたというより、数学実践に利用できそうないろいろなサイトを紹介しただけのものである。πの計算を含め『数学基礎』の教材に関するレポートは、今ももう数本書きかけているので、正月が明けたらまた作業を継続させる予定である。本校でもインターネットがやっと使えるようになり、生徒も教師も頻繁に利用している。インターネットの利用について問題点が何もないというわけではないが、来年度には光ファイバー網構想が本格的に始まり、少しずつではあるが、良い方向に進むものと思われる。私の書くレポートも今回の3本を含め、インターネットを利用して数学教育としてどんな実践ができるのかという方向になっており、ここしばらくはそういった活動を主体としていくつもりである。ただ、本稿も含め、今だに『内容のない長文ばかり』のレポートしか持参できないが、今後とも諸先生方からのご教示もいただきながら、細々と活動を進めようと思う。

12月27日(木)
パソコン教室のワックスがけをしながら脱稿する