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8.これからの課題

 高校でのベクトルに関して感じていることを思いつくままに述べてきた.筆者の感覚としては,ベクトルは関教や微積分にくらべてはるかに簡単で面白いのである.それが高校生たちに十分伝わらないのは,いま教えられているベクトルの内容が旧態依然とした(ベクトルに眼らないが)単なる幾何学上の応用11)に限られていることが最大の原因だと思う.

 以前,水産高校でおこなった数ベクトルの授業は,範囲を整数に限定した結果,ほとんどの生徒がラクラクと数ベクトルの計算を楽しんでやっていた(厳密に言うと成分やスカラーを整数に限定した場合,ベクトルとは呼ばず加群と呼ぶらしいが),数ベクトルを教材とするなら,高校よりもむしろ中学校の方がふさわしいだろう.1次元としてやれは負の数の導入としてできるし,2次元や3次元など「次元」についても考えることができる(座標とベクトル成分の区別をどう教えるかという問題はあるが).

 最後に高校数学でベクトルをどう扱うかについての課題をあげておく.いずれにしても、いくつかの具休的授業プランに基づいて議論していくべきだろう.

(1)ベクトルの導入をどうするか
a.幾何学的ベクトルとして導入する場合
 ・有向線分と幾何学的ベクトルとの区別と関連(同値類の概念).
 ・数学的ベクトルと物理的ベクトル場との区別と関連.
 ・ベクトルとベクトル場との区別と関連.
b.数ベクトルとして導入する場合
 ・記法の問題,たてベクトルかよこベクトルか.
 ・幾何学的ベクトルとの関係をどうするか.

(2)ベクトル理論の題材,内容,応用をどうするか
a.幾何学的ベクトルとして導入する場合
 ・基本ベクトル(基底),ベクトル空間の次元などの扱い.
 ・内積(スカラー積)は当然として,外積(ベクトル積)は必要か.
 ・幾何学的応用は当然として,力学への応用をどうするか.
 ・微積分との関連をどうするか(ベクトル解析,微分幾何への発展).
b.数ベクトルとして導入する場合
 ・代数的構造としてのベクトルの公理的な定義との関連.
 ・位置ベクトル,2次元実平面R2,複素平面Cとの関連(ベクトルを点とみなす)
 ・1次変換,行列との関連(線形代教への発展をどうするか).


[参考文献]

  1. 文部省,「高等学校学習指導要領解説,数学編・理数編」,ぎょうせい(1989).
  2. 竹林滋,吉川道夫,小川繁司編,「新英和中辞典・第6版」,研究社(1994).
  3. 日本数学会編,「岩波数学辞典・第3版」,岩波書店(1985).
  4. 数学セミナー編集部編,「教えてほしい数学の疑問1」,日本評論社(1996).
  5. 氏家英夫,「線型代数入門の授業」,道教教研究大会レポート(1998).
  6. 野崎昭弘他,「数学B」,三省堂(1997).
  7. 井川満他,「高等学校新編数学B」,数研出版(1998).
  8. 遠山啓,「量とは何かT」,遠山啓著作集,太郎次郎社(1978).
  9. 「理化学辞典(第3板増補板)」,岩波書店(1981).
  10. 森毅,「数の現象学」,朝日新聞社(1980).
  11. 岩手県杜陵サークル,「ベクトルの導入」,数学教室,国土社(1997年月号).
  12. 井口道生,「続英語で科学を書こう」,パリティ・ブックス,丸善(1995).
  13. スメール,ハーシュ,「力学系入門」,岩波書店(1976).
  14. 真鍋和弘,「内包量と外延量」,高校サークルレポート(1997).
  15. 小林昭七,「曲線・曲面の微分幾何」,裳華房(1977).
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