以前,水産高校でおこなった数ベクトルの授業は,範囲を整数に限定した結果,ほとんどの生徒がラクラクと数ベクトルの計算を楽しんでやっていた(厳密に言うと成分やスカラーを整数に限定した場合,ベクトルとは呼ばず加群と呼ぶらしいが),数ベクトルを教材とするなら,高校よりもむしろ中学校の方がふさわしいだろう.1次元としてやれは負の数の導入としてできるし,2次元や3次元など「次元」についても考えることができる(座標とベクトル成分の区別をどう教えるかという問題はあるが).
最後に高校数学でベクトルをどう扱うかについての課題をあげておく.いずれにしても、いくつかの具休的授業プランに基づいて議論していくべきだろう.
(1)ベクトルの導入をどうするか
a.幾何学的ベクトルとして導入する場合
・有向線分と幾何学的ベクトルとの区別と関連(同値類の概念).
・数学的ベクトルと物理的ベクトル場との区別と関連.
・ベクトルとベクトル場との区別と関連.
b.数ベクトルとして導入する場合
・記法の問題,たてベクトルかよこベクトルか.
・幾何学的ベクトルとの関係をどうするか.
(2)ベクトル理論の題材,内容,応用をどうするか
a.幾何学的ベクトルとして導入する場合
・基本ベクトル(基底),ベクトル空間の次元などの扱い.
・内積(スカラー積)は当然として,外積(ベクトル積)は必要か.
・幾何学的応用は当然として,力学への応用をどうするか.
・微積分との関連をどうするか(ベクトル解析,微分幾何への発展).
b.数ベクトルとして導入する場合
・代数的構造としてのベクトルの公理的な定義との関連.
・位置ベクトル,2次元実平面R2,複素平面Cとの関連(ベクトルを点とみなす)
・1次変換,行列との関連(線形代教への発展をどうするか).
[参考文献]