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 同様にして、今度は定数 a を含む次のような非線形な漸化式を考えてみましょう。
   Xn+1 = a Xn(1 - Xn) (a は定数、n = 0, 1, 2, ・・・)
少し難しい式ですが、グラフ化、リターンマップを用いれば同様なことが理解できるはずです。
 また、何といっても線形の漸化式からは想像もつかないような、興味深い内容が数多く含まれているのです。

 非線形な漸化式とリターンマップ

 今度用いるパラメータは 漸化式の係数 a、初期値 X0、計算項数 n の3つです。
 先ほどの漸化式では、初期値 X0 の値は全体のグラフの様子には影響を与えませんでしたが、今度はどうでしょう。まず、それを確認してみましょう。X0 = 0.1, 0.5, 0.8 の各場合についてシミュレートしてみて下さい。(a = 2, n = 20)やはり、初期値を変えても同じ値に安定して収束していくのがわかります。
 次にパラメータ n の値を変えてみましょう。n = 20, 50, 100 。(a = 2, X0 = 0.2)グラフが細かくなるだけです。今度もまた、係数 a の値がグラフの全体の様子を決定していきそうです。では、自分で係数 a の値をいろいろ変えてみて、何か規則性があるかどうかを探してみて下さい。

 安定不動点と不安定不動点

 どうですか。何か気づくことがありましたか。
 それでは、a の値に次の値を代入してしてみて、全体の様子がどうなるか観察してみて下さい。
   a = 0.6, 1.8, 2.8, 3.2, 3.5, 3.9 (X0 = 0.2, n = 100)

    @ a = 0.6   ・・・ 0に収束
    A a = 1.8   ・・・ 一定値に収束
    B a = 2.8   ・・・ 振動しながら一定値に収束
    C a = 3.2   ・・・ 振動しながらある2つの値に次第に近づき、
              2つの値を交互に繰り返す
    D a = 3.5   ・・・ 振動しながらある4つの値に次第に近づき、
              4つの値を交互に繰り返す
    E a = 3.9   ・・・ すぐにははっきりとした規則性は見いだせない

 @〜Bのように軌道が最終的に1つの点に落ち着くとき、その点を安定不動点といいます。C、Dのように振動しながらある2つ(または4つ)の点に近づきその点を繰り返すとき、その点を安定2(または4)周期点といいます。このシミュレートのよりわかったことをまとめると、つぎのようになります。

   0 < a < 1 のとき   一定値 X = 0 に収束
   1 < a < 3 のとき   一定値 1 - 1 / a に収束
   3 < a < 4 のとき   最初は2つの値で振動
              その後4つの値で振動、その後は・・・

 コンピュータが生み出すグラフより、0 < a < 3 については簡単な性質をすぐに見いだすことができます。しかし、a の値が値 3 を過ぎるとき非常に複雑な様相を示すことがわかります。つまり、a > 3 のときの様子を探っていけば、更に新たな発見が出てきそうです。a > 3 のとき、最初は2つの点で周期性を示し、次に4つの点で周期性を示します。そのまま、どんどんその周期性は倍々ゲームのようになっていくのでしょうか。

 漸化式のグラフと分岐

 これまでのことから、a > 3 のときの様子を調べていけば新たな発見が生まれそうだということがわかりました。今度はこの様子を更に細かくして、別の角度から眺めてみましょう。
 次のシミュレーションは、係数 a の変化に伴う Xn の値を連続的に見たものです。横軸に係数 a、縦軸に Xn の値をとっています。数列 {Xn} の値を初項から第800項までを計算し、その最後の第600項から第800項までの点を単純にプロットして見ました。第800まで計算すれば十分に {Xn} の安定した状態はわかるはずです。パラメータは 係数 a の範囲左 a1、範囲右 a2、初期値 X0 の3つです。
 まずは、a1 = 0, a2 = 4、 X0 = 0.4 で描画してみて下さい。見慣れないグラフが姿を現したのではないでしょうか。このグラフを「分岐ダイアグラム」といいます。

 カオス的領域

 この分岐ダイアグラムをみると、先ほど考察したとおり、次のことがすぐにわかります。

  0 < a < 1 のとき  一定値 X = 0 に収束
  1 < a < 3 のとき   0でない一定値に収束

 問題は 3 < a < 4 の部分です。それでは、範囲を拡大して考察してみましょう。
 a1 = 3, a2 = 4, X0 = 0.2 で描画してみましょう。a = 3 をすぎてから2つに分岐し、その後4つに分岐しているのは既に観察したとおりです。その後はやはり8つに分岐しているようです。そのあとは少しわかりづらいようなので、更に拡大して考察してみましょう。
 a1 = 3.5, a2 = 3.9, X0 = 0.2 で描画してみます。どうですか。途中で筋のようなものが見え始めましたね。更に範囲を 3.7 < a < 4, 3.8 < a < 3.9 (X0 = 0.2)などのように覗いてみたいところをシミュレートしてみて下さい。
 よくみると驚くことに、白く筋のようになっている部分(これを「窓」といいます)に、自己相似な図形がみえてきました。つまり、分岐が発展する様子はフラクタル構造をなしているわけです。
 実は、3 < a < 4 の間における様子を厳密に調べると、

  3 < a < = 1 + sqr(6)    においては 2つの値の間を振動
  1 + sqr(6) < a < 3.570・・・  においては いろいろな値を振動
  a > = 3.570・・・       においては 非常に複雑な動きを示す

ということがわかっています。この最後の部分の領域は「カオス的領域」と呼ばれています。現代の「カオス」理論とよばれるホットな話題をコンピュータを用いることによって、簡単に触れることができるのです。

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