気軽にもっとGRAPES

札幌新川高校 早苗雅史

1 はじめに

 今年も3年生の演習を教えていますが,演習は問題をこなすのに精一杯で,なかなか自分の思うような授業ができないのが残念です。そんな限られた時間の中で効率よく演習問題を解いていくためには,プレゼンは大いに役立ちます。本当に必要なところで,手軽にプレゼン。そうした授業スタイルはこれからどんどん増えていくものと思われます。
 今年は選択授業の関係から,数学教室での授業も多くプロジェクタとスクリーンは最初からセッティングされた状態で,必要なときに使用できるのが強みです。そんな実践の中から関数グラフ表示ソフト「GRAPES」を用いたものを紹介したいと思います。関数グラフ表示ソフト「GRAPES」は,大阪教育大学附属高等学校池田校舎の友田勝久先生が作られたフリーのソフトです。高校で履修するほとんどの関数に対応し,アニメーション,スクリプトなど様々な機能を備えています。何より洗練されたユーザーインターフェイスを持ち,操作性が簡単なところが最大の魅力だといえます。これだけのソフトがフリーで出ていること自体が不思議です。
 今年の夏には北海道でGRAPES講習会が開催されます。是非,多くの方がこのソフトの魅力を知って,授業に使ってもらいたいと思います。

2 プレゼン型の授業で考えなくてはならないこと

 プレゼン型のソフトを用いる場合に,考えなくてはならないことがいくつかあると思います。そんな点をいくつか述べてみたいと思います。小・中学校における研究授業では,かなり細かな点まで指導計画が練られているようですが,残念ながらそうした手法は私にはあわないようです。自分が必要だと思うときに,手軽に道具として使用するそんな感覚が私にはあっているようです。

@必要性と手軽さ

 まず何が何でもプレゼンなどという考えは,全く必要ないことは明らかです。ここでプレゼンがあったら効果的だ,という場合に使うことが大事です。教える自分自身にとって,必要性を感じることが第一の条件だと思います。 また提示用の教材が手軽にできることも大事です。極端にいえば,次の時間の授業に余裕で間に合うぐらいの手軽さがなければ,長続きはしないと思います。 A環境の問題  この問題がかなりの障害となる場合が多いといえます。まずプロジェクタやパソコンを手軽に用意できる環境が必要です。授業の中のたった数分から数十分のために,わざわざ機器を運ぶ手間をかけなくてはならないのは面倒です。かといって生徒を教室移動させるのもどうでしょうか。最初から選択授業で教室移動がある場合には,こういった点は問題がなくなりますが,そうでない場合には,まだいい方法がないのが実情ではないでしょうか。 Bプロジェクタの問題  プロジェクタを用いる場合の問題点もあります。プロジェクタの明るさの問題や設置スペースの問題などがあります。最近はかなり明るいものもでてきましたが,メディアサイトの様な明るさは到底ありません。また,プロジェクタとスクリーンの間にはある程度のスペースが必要となります。この点もメディアサイトとは大きな差があります。
 またスクリーン備え付けの教室であれば良いのですが,そうでない場合は,また面倒な状況になります。
C提示するタイミングの問題  正確にコンピュータが描画することにより,逆に生徒の想像力を奪ってしまう危険性があります。すぐに提示するのではなく,ある程度考えさせてから提示するというタイミングの問題と考えさせるきっかけを与えるような提示の方法の問題をしっかり考える必要がありでしょう。

3 提示教材の具体例

 それでは最近の実践の中から,提示用教材の具体例を考えてみましょう。これまでにも,こうしたレポートが「数学のいずみ」に納められているので,そちらも参考にしてください。

@パラメータを変化させる

連立方程式 (x−y−4)(x+2y+1)≧0,x2+y2≦16 の表す領域を考える。点 (x,y) がこの領域を動くとき,3x+2y の最大値と最小値を求めよ。

 かなりCLASSICALな使い方ですが,直線を動かすというイメージは板書では限界があるかもしれません。さらりと提示したくなるような場面の定番といえます。

A軌跡を用いる

円 x2+y2−2ax−4ay+10a−10=0が,定数aの値に関わらず通る2定点を求めよ。またこれらの円のうち,半径が最小となる時のaの値を求めよ。

 直線の方程式の中に定数aの値が入ることにより、問題の意味を理解しにくくさせています。まず題意を理解させるために、aに簡単な値(例えばa=−1,−2あたりから)を代入してみて問題の意味を理解させる必要があるといえます。パラメータを変化させながら,軌跡を取ることでグラフの変化する様子がわかります。またこの2点がわかれば,最小となる円がその2点を直径とする円であることから簡単に求めることができます。

点 (1,1) を通る直線hと直線 g:y=ax+1 とが交点Aで垂直に交わるとする。aが実数全体を動くとき,交点Aの座標および軌跡を求めよ。

 先ほどの問題と同様に直線gは定数aの値に関わらず点 (0,1) を通りますが,垂直に交わることにより2定点を直径とする円を描くことは明らかです。ここで実際に軌跡を見せるとパラメータaをいくら大きく(小さく)しても,点 (0,1) を通らないことを理解させることが容易になります。

B細かな部分を解析

曲線y=x3−6x2+5x と直線 y=mx とが相異なる3点で交わるためのmの条件を求めよ。

 この問題の答えは −4<m<5,5<m と2つに分かれます。一見するとどうして2つに分かれるのかイメージしづらいところがあります。原点からの接線1本と原点における接線の2本を補助線としてパラメータを変化させ,m=5 近辺の様子をZOOMさせてみましょう。確かに交点が3つあるのが見て取れます。

直線 y=3x+1/2 上の点 (p,q) から放物線 y=x2 の法線は何本引けるか調べよ。

 この問題は板書でイメージさせるのはかなり困難な問題です。まず法線が3本引ける点と2本引ける点,更には1本しか引けない点のイメージがかなり難解です。パラメータpを変化させ,直線上の点を変化させると3本の法線のうち2本が次第に重なり合い1本に,そして消えていく様子がよくわかります。
 この問題は3次方程式 2x3−6ax−a=0 の解の個数を求める問題と同じになります。この方程式の描く3次関数のグラフを同時に示したのが,下の2つの図です。法線は接線と違ってイメージしづらい点を,このプレゼンで鮮やかに補ってくれます。

Cイメージしづらい部分を解析

xy平面上の点 P(x,y) の座標が,x=u+v,y=uv の形で与えられているとする。u,v が 0≦u≦1,0≦v≦1 の範囲を動くとき,点Pの通過する範囲を図示せよ。

 この問題は平面上の点の変換の問題ですが,生徒にとっては題意をつかみづらい上にイメージすることも困難な問題です。1辺が1の正方形の内部を変換させるのですが,実際に内部の点をいくつかとり"変換"させる感覚を持たせます。その後正方形の内部の点を全て変換させ,出てくる図形が求める解であることを示します。

 正方形ではなく中心が原点,半径1の円ではどうでしょう。先ほどの正方形の場合と同じ曲線が1つ現れます。 点 (x+y,xy) のとりうる領域は変換元の図形に関係なく,ある一定の図形を描くのです。実際に平面全体を変換してみましょう。"実数"条件だけで,既に点 (x+y,xy) はある領域を表しているのです。詳しくは次のページをご覧下さい。
  『不等式の表す領域と解の実数条件』(早苗雅史)  http://www.nikonet.or.jp/spring/real/real.htm

右の図のようなベクトル がある。実数s,tをとり,ベクトル とする。実数s,tが,−1≦s≦2,0≦t≦2 の範囲を動きとき,点Pの存在範囲を図示せよ。

 基本的には容易な問題ですが,s,tの値を具体的に与えたときの終点Pの存在位置を手軽に図示することで説明の効率が良くなります。GRAPESの「点を打つ」機能を用いることで必要な位置で点を取ることができます。

D題意をつかませる

平面上に1辺の長さが1の正三角形がある。tを実数とするとき,平面上の点Pで, かつ かつ を満たすもの全体からなる領域を D(t) とおく。
(1) を満たす点Pからなる領域を図示せよ。
(2) D(0) を図示せよ。
(3) D(t) が空でなく,かつ△ABCに含まれるようなtの範囲を求めよ。

 内積と正射影の関係を考えさせる問題です。1辺の長さが1の正三角形のためAPのABへの正射影の長さが,そのままtの値となります。Pの点をマウスでつまんで移動することでtの値の変化と求める領域の関係が読めるようになります。題意さえつかめれば容易な問題であることにきづきます。

4 GRAPES講習会 in 数実研

 GRAPESはこれまでに何度も数実研で取り上げられ,様々な形で多くの先生方が使用しています。北海道ではメジャーな数学ソフトになっているのではないでしょうか。驚くべき事は,機能もインターフェースも進化し続けているということです。 友田先生はこのソフトの講習会を大阪で毎年開いていますが,今年はこの講習会を北海道で開催することになりました。数実研恒例の夏期合宿にあわせて開催します。愛知教育大学の飯島先生のお誘いで,昨年の日数教論文発表大会(鳥取)でご一緒したのが御縁で開催することができました。友田先生の他にも数人の先生方が本州から参加する予定です。数実研のような本当に小さな研究会にわざわざ来ていただけるのは,驚きとともに本当に大きな喜びを感じます。この講習会を是非成功させることができるよう,多くの数実研会員の先生方のご協力をお願いします。
 なお,GRAPESは次のページからダウンロードすることができますので,まだ触れられていらっしゃらない方は,是非お試し下さい。その素晴らしさに感動することでしょう。 「関数グラフソフトGRAPES」 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/  また,GRAPES用のテキストも販売されています。詳しくは次のページをご覧下さい。 「GRAPESパーフェクトガイド(改訂新版)」友田勝久 著 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/guide.html