- はじめに
いよいよ平成15年度から新教科「情報」が登場する.情報化時代が教育の分野にも待ったなしの状態で押し寄せてくることになる.
残念ながら新課程では教科「数学」からは実質的に姿を消すことになる.しかし,私自身としては数学的な視点や考え方を「情報」の中においても育んでいきたいと考える.
さて,今回のこのテキストを用いた実践は,そんな新教科「情報」を意識しながらのものである.プログラミングは「情報B」の中で扱われ,多くの学校では敬遠するところが多いと思われるが,以前の実践
・『数学Aにおける「コンピュータの基礎」』
http://www.nikonet.or.jp/spring/mathA/mathA_0.htm
・『10進BASICで描くグラフィックス』
http://www.nikonet.or.jp/spring/10b_grp/10b_grp.htmの経験を活かして,よりスムーズな実践ができるよう配慮したつもりである.今回は特にメールでの課題提出や評価問題等においても工夫した.
- テキストの内容・配当時間
今回の実践はすべてオリジナルのテキストをもとに行われた.テキストは次のページで参照できる.
・『これだけで大丈夫 「情報」のためのプログラミング 10BASIC編』
http://www.nikonet.or.jp/spring/sanae/program/10Basic/10Basic.htm 計12回分のテキストでその内容は次のようなものである.
= プログラミングの基礎 =
【第1回】変数と式 【第2回】代入文・入力文 【第3回】繰り返し処理
【第4回】条件判断 【第5回】配列変数
= アルゴリズムの基礎 =
【第6回】最大・最小値,平均値 【第7回】並べ替え(ソート) 【第8回】検索
= グラフィックスの基礎 =
【第9回】グラフィックスの基礎 【第10回】曲線の描画
【第11回】図形の変換 【第12回】演習:図形の描画 また,付録として次のものを配布した.
= APPENDIX =
☆10Basicプログラミングの流れ ☆よく用いられる命令コマンド
☆よく用いられるグラフィックスコマンド ☆よく用いられるステートメント 今回の実践は3年生の「数学C」2単位,2クラスで行った。実施時期は'01年4月〜6月で,配当時間は次の通りである.
テキスト第1回〜第12回 | 13時間 |
練習問題 | 2時間 |
単元テスト | 1時間 |
合計 | 16時間 |
- 利用環境・使用ソフト
ハード面での利用環境については,次の通りである.
- サーバー機 SV98-model3(OS:WindowsNT4.0)
- 教師用クライアント機 PC98 VX20(OS:WINDOWS95,PC-SEMIで生徒用パソコンとつながっている)
- 生徒用クライアント機 PC98 VX16 24台(OS:WINDOWS95,生徒2人で1台を使用)
- インターネット回線 ISDN64Kbpsを24台(生徒用)+1台(教師用)で使用
- メールアカウント 生徒用のパソコンすべてに割振ってある
(メールサーバーは情報処理センター)
使用ソフトは次の通りである.
- (仮称)十進BASIC Ver.4.57
- Internet Mail 3.0
- InterNet Explorer 3.0
- 事前の準備
授業をはじめるにあたっての事前の準備として,以下のことを行った.
- 10進BASIC最新版のインストール
- 生徒用フォルダの作成(生徒一人ずつ)
- メーラーのチェック
- ブラウザのチェック
- サーバーへのテキストファイル(Webページ)のインストール
- 生徒用ブラウザにテキストページを「お気に入り」に追加
- 授業の進め方
授業はテキストをもとに行われた.授業の流れとしては主として次のような形である.
- 例題の説明
最初にテキストの例題を教師が説明する.
必要に応じて,黒板での説明,ディスプレイ上での説明(一斉送信)を与える.
10Basicを用いての説明やブラウザ上での確認などを行う. - 課題の演習
説明を受けた後,生徒は例題に沿った類題問題を行う.
教師は必要に応じて期間巡視しながら,生徒の質問に答える. - 課題の提出
課外を終えた生徒はソースプログラムを自分のフォルダに保存する.
その後,メールで作成したファイルを添付して教師側の指定したアドレスまで送付する.
教師は送られてきた課題を確認し,黒板の生徒番号にチェックする
- 指導上の工夫点
実際の授業を運営する上で工夫した点を次にあげる.
○テキストについて
- 1つのテーマ(今回はプログラミング)について間延びした展開にならないよう内容を精選し,学習回数を12回にとどめた.
- 課題の出力例を(OUTOUT)として先にテキストに載せておくことで,自分の解答があっているかどうかを確かめることができる.
- アルゴリズムの基礎の学習において,大量のデータを扱わなくてはならない時にはブラウザ上からデータをダウンロードできるようにした.
- 難解なアルゴリズムの他に,グラフィックスを取り入れることで生徒の関心を引き付けるようにした.
○指導について
- 課題をメールに添付して送付することで,毎時間の課題提出という意識をはっきりと持たせることができる.
- フォルダやファイル操作,ブラウザ,メーラーの扱い方などWindowsの基本事項を適宜指導した.
メールにおいてはアドレス帳の使い方やメールアドレスの登録と選択など,日常的によく使う操作法なども指導した. - 編集段階においてもカット&ペーストやショートカットキーなど編集の基本事項を適宜指導した.
- 自由課題を行う上でデザインし易いように,マス目の入ったグラフ用紙を配布した.(ブラウザ上からでもダウンロードできる)
- 評価問題をきちんと提示することで,どういった点を学習すればよいか生徒に周知徹底させた.
- 授業の様子
テキストの一部を割愛したところもあったが,ほぼ予定通り行われた.授業の様子としては次のような感じであった.
- 最初はパソコン操作や日本語入力,メーラーの操作に慣れない生徒がかなりもたついていたが,次第に習得していった.
- 期間巡視も後半になると質問も少なくなり,課題をこなすのに一生懸命であった.
- 毎回の課題を消化できずに進度に追いついてこれない生徒もいた.そうした生徒は休み時間に早めに来て,課題作成に取り組んでいた.
- 生徒間の能力格差が大きく,一人でどんどん先に進む生徒と毎回の課題を消化できない生徒の格差は大きかった.そのため,パソコンに対する興味・関心度も差が出て,興味を持つ生徒,劣等感を持つ生徒が生まれてきた.
- 最後の自由課題では自分のアイディアと力量とを相談しながら,様々なユニークな作品が多く見られた.
- 課題を家からメールで送ってくる生徒もいた.また,10BASICのソフトをフロッピーにコピーした生徒も30名以上いた.
- 全体的に生徒は熱心に取り組んでいた.
= 授業風景 =
= 生徒作品 =- 授業全体の反省点
反省点としては次の点があげられる.
○環境的な側面
- 2人に1台ということで,やはり環境としては残念であった.
- ブラウザやメーラー等に不具合が何度か出たが,そうした場合への対応に時間が取られる.
- 一斉送信時に生徒のモニターに映し出すために,作業を中断させなくてはならない.やはりモニターがもう一台必要であろう.
○内容的な側面
- アルゴリズムの基礎では,デバッグ機能などを用いて説明したが,内容として難しい点も多くあった.内容を精選し,もっと分かりやすい題材作りが必要であろう.
- 最後の自由課題においては,自分の好きな色を256色の中から選びたい生徒が多かったが,色の番号が分からず途惑っていた.事前に色の説明とサンプルを配布しておくべきであった.
- 10進BASICではソースファイルの他に,出力されたテキストWINDOWやグラフィックWINDOWの結果も保存できる.生徒にファイルを保存させる場合,保存させるファイルをきちんと徹底させるべきであった.
- 生徒の感想
詳細な資料は生徒から授業についてのアンケート結果を『これだけで大丈夫 「情報」のためのプログラミング 10BASIC編』の「授業の感想・様子」のページにまとめてあるのでそちらをご覧いただきたい.特に顕著な点を以下に挙げる.
- 難易度では半数以上の生徒が「並べ替え(ソート)」を難しいと答えていた.全般的にアルゴリズムの基礎的な分野が難しいようである.
- 興味・関心度では「アルゴリズムの基礎」より,より基本的な「プログラミングの基礎」をつまらないと考えていたようである.
- 最も大きな特徴は「グラフィックスの基礎」においては,興味・関心度がかなり高い点である.特に最後の演習では7割近い生徒が面白いと感じていたようである.
- コンピュータ自体に劣等感を持つ生徒も生まれている.理解できる生徒とそうでない生徒の格差がはっきりと出てくることも,その原因と考えられる.
また,生徒の生の声をいくつか挙げておく.
- 最初はただ何となくやったけど,段々と楽しくなってきた.授業が進むと解くのが苦労したが,逆に苦労した分だけ楽しく思えた.最後の演習で,とある人の顔を作りたっかたが,顔の色(肌色)がなくて黄色の顔になったのが何かやりきれなかった.最近になって家でパソコンを使用する機会が多くなったのも,この授業をやったからだと思う.
- 簡単な授業と難しい授業の差がはっきりしていて,すぐ出来て提出したり,なかなか出来なくて次の時間に提出したりして大変だった.
- 何回もやるたびにいろんなのが増えていって,難しすぎました.全然分かりませんでした.でも最後のグラフィックスのやつはなかなか楽しいと思いました.だけど自分で絵を作るやつは,もっと良い絵を作りたかったです.
- 7回8回ぐらいが一番難しかった.なにをどうしていいか分からなかった.最後の図形を作るのはとても楽しくできた.
- 評価問題について
プログラミングの基礎やアルゴリズムの基礎における問題については,これまでも多く扱ってきた.現課程に数学においても評価問題としてはある程度定着しているといえる.では,グラフィック関係をどう評価問題に取り入れていったらよいであろうか.新教科「情報」の試作教科書においてもそのあたりがはっきりしていない感じもある.
実は,新教科「情報」における「図形と画像の処理」「コンピュータデザインの基礎」といったコンピュータグラフィックスに関する分野には,様々な数学的要素が盛り込まれていて,CG分野における評価問題としても十分活用できるのである.そうした問題をまとめたのが次のレポートである.
・『新教科「情報」CG分野における「数学」』
http://www.nikonet.or.jp/spring/cg/cg.htm 今回の評価問題でもデザインと数列,図形の変換などを取りいれた.詳しくは『これだけで大丈夫 「情報」のためのプログラミング 10BASIC編』の「練習問題」のページを参照していただきたい.
- 今後の課題
全体的・構造的な課題として次のような点があげられる.
- この授業以外でもコンピュータが多くの生徒に使用されており,機器の整備・メンテナンスが大きな問題となる.
今回は時間割編成の段階で,できるだけ5次限目に配置してもらい昼休みに授業準備をおこなった. - 40人の生徒に対してのコンピュータを用いた授業は,1人の教師での指導には限界がある.実習形式の授業では複数の教師が指導にあたる方が,よりきめ細かな指導ができるであろう.
- 回線が細いため,インターネットを用いたブラウジングができなかった.ローカルな環境での指導しかできず,早急なインターネット環境が望まれる.