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数学教育実践研究会基調報告

 これまでのレポート発表などを分野別にまとめて活動内容の概要をまとめ,今後の研究の方向性を探ってみたい.なお,レポート内容が多岐に渡るため,あくまでも事務局としての私的な分類となってしまった事を発表者の方々に予めここでお詫びをしたい.(以下,文中の敬称を省略させていただくことをご了承願いたい)

【数学T・A】

 「和関数としての2次関数のグラフ」(札新川中村)は2次関数 f(x)=ax2+bx+cg(x)=ax2h(x)=bx+cの和としてf(x)=g(x)+h(x) と考える事により,曲線の概形を容易に掴み得るだけでなく各次数持つ意味を分かりやすく説明している.なお,このレポートは,更に3次関数にも拡張され等比分割性などの考察も行われ第51回大会でもその成果が報告されている.その他,2次関数については,切片形 の形からの導入・展開や,極線と極線とで囲まれた面積からの考察など別視点からの分析も見られた(札藻岩 菅原).また,札東 大山により関数の機能をブラックボックスを用いて合成・逆関数など基本的概念の分析説明を図るなかなか定着しがたい関数概念を説明するシェーマの工夫が紹介された.離散系では,札新川 中村より「重複組み合わせ」の旧来からの指導事例をまとめるなど,実際の授業への研究が報告されている.また,コンピュータを利用してのシミュレーションに関しては,札稲北 早苗によりVisual Basicを用いて最大最小問題,不等式の解などを具体的問題に対して数多くの教材例が紹介された.どれもテーマが絞られており授業における教材のイメージ化に有効であると思われる.また,IBM"関数ラボ"を使ってのグラフの指導例などが野幌 細野,札新川 中村,苫東 矢嶋より報告されている.Windows95などが浸透してきてはいるが旧来の機械をもつ学校においては,今後も重要なソフトウェアとなる事が予想される.数学Aに関しては,数列における指導例として"ハノイの塔"を実際に生徒に試行させる事により等比数列のメカニズムを体感させる指導例が小樽桜陽 岡部から,また,「数学Aにおけるコンピュータの基礎」の指導案とその実践記録が札稲北 早苗により報告されている.

【数学U・B】

 数教協にも所属する石狩南高 清水により積分の積分の導入に関して,数学史的考察および区分求積を用いての演習などを通しての授業実践例が紹介された.また,この実践例をうけて札厚別 川崎よりその授業展開を自校においても工夫実践した報告があった.緻密な指導案と授業後の生徒の反応などのレポートもあり,授業の様子が伝わってくる.このような,同一テーマに対する研究の深化が今後も望まれるところである.図形と式・軌跡・領域に関しては,Visual Basicによるシミュレーション,関数ラボを用いて線形計画法の授業実践例など生徒の興味関心を高める工夫が見られるが報告されている.

 数学Bに関しては,平成9年度は新課程で導入された複素(数)平面をテーマとして設定した.札東 大山による複素数を変換作用素として展開していく報告,石狩南 清水による極形式の導入実践例などこの分野に関しては今後のより一層の展開が期待されるところである.確率分布に関する報告は見られなかった.

【数学V・C】

 数学Vについては札北 長木による極限計算おけるロピタルの定理を使った指導例,また,分数関数の逆関数の求め方に関する札新川 中村の考察などがあった.本研究会が比較的,会員の共通関心事項として必修科目の教材研究が多いためこの分野の報告は少ないようである.新課程になり微分方程式がなくなりはしたが,分数関数・無理関数などを含み,結果としてこれまでに分数式の計算がおろそかになり,ややもすると計算力が未熟なままで数学Vを履修するといった事による弊害が起こりうる.この点を,教育課程の面からも研究する必要が出てきているように思われる.

 数学Cに関しては,「いろいろな曲線」に関するレポートが数本あった.いずれも何らかの形でコンピュータを利用するものであり,今後授業への実用実践例の研究が展開される事を望む.また,苫東 矢嶋から「資料の整理」についての授業試案が報告された.各学校の実状では,数学Cは,「行列」「いろいろな曲線」の2分野を履修させるところが多いようではあるが,数学Bの確率分布との関連では選択肢の一つと一考してみる必要もある.

【実践報告】

 札稲雲 大河内より教科通信を通して生徒の数学的興味関心を喚起する実践例が報告された.教師の側の情熱が伝わってくる実にボリュームのある報告であった.また,苫東 矢嶋からは,課外活動でのパソコンの導入から授業へと模索していく苦労が報告され,今後新たにパソコン利用を考える時の指針となる資料となっていた.

 「まず教材研究ありき」ではあるが,やや授業での実践報告が少ないようである.共通テーマに対する共同研究の形で,これまで報告されたレポートを受けて実践報告などをするという研究体制を推進していく必要性を痛感する.

【教育課程】
 新カリキュラムは,すでに5年目を迎えている.戸惑い混乱する時期に「数学T・A」「数学U・B」の指導計画についての分析が報告された.このレポートは,北数教全道大会でも紹介された.現在の履修形態に大いに影響を与えたものと思う.

【コンピュータおよびトピックス】

 コンピュータに関する報告は,内容が多岐に渡り分類が非常に難しい.単なるコンピュータに関するものばかりではなく,数学教材をコンピュータを使って視覚的に解説しているものなど多数ある.そのため,上記の分類とも重複する部分がかなりある事もご了承願いたい.

(1) パソコンを利用しての教材開発

 開発環境は,Basic( Quick Basic ,N88-Basic,Visual Basic ,十進Basic),Java,関数ラボ,LOGO,VRMLなどがあった.導入されている機械でWindows環境が利用できるかが分かれ目である.コンピュータ教室での利用に限定した場合は,導入されている機械により制約が出てくる.プロジェクターなどを使って普通教室でOHP的に利用する場合には選択肢は増える.しかし,これらの利用法はコンピュータを使わなくても適切な教具を工夫すれば代用が可能であれば,コンピュータを持ち込まないでも手軽な教具の方が授業効率も良い.選択のポイントは,開発の手軽さであろう.また,問題解決型で生徒に利用させながら発見的にコンピュータを利用する報告(「新フーリエの冒険」〜札稲北 早苗)もあった.他にもフラクタル,カオスなどを題材として「実験数学」を指向した発表が多数ある.これらは,ほとんど「数学のいずみ」でも実際に体験できる(javaで記述されているため).

 逆に,Windows環境の中でもN88-Basicなどプログラムの利用が可能な「十進Basic〜札新川 中村」の利用報告などもあり興味を引いた.wwwのプラウザ上で利用するVRMLというほんの数行の記述で立体シミュレーションを可能にする報告もあり驚かされた.今後の展開を期待したい.いずれも,これらの発表から,実際に「授業などで生徒にどう利用していくか」が今後のテーマとして残っている.この部分の研究が今後待たれるところでもある.

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