第54回北海道算数数学教育会 札幌大会 高等学校部会
第5分科会 教具・コンピュータ

「実験(実見)的数学のすすめ」

〜身近な素材を利用しよう〜
 2次関数の指導を中心に

札幌藻岩高等学校  菅 原  満
 

!はじめに

 「テレビゲーム世代」という言葉が死語に感じられるほどの勢いで子供たちの周りには,パソコンのみならず情報機器がごく自然に溢れている.最新のテレビゲームにおける画像のリアリティは本当に素晴らしいものである.3D画像などはまるで実写と疑うほどの出来上がりになっている.登場人物がゲーム機の中で"生きている"といった方が適切かもしれない.仮想現実と現実世界が子供たちの心象の世界でパラレルに進行しその境界が今失われつつある.

 昨年は「教室に視覚数学を!」というテーマでGrapesなどフリーソフトを使って教材のイメージ化を図るレポートを発表させていただいた.

 北数教全道大会も今年で54回目を迎え,今年から第5分科会の名称が「教育工学」から「教具・コンピュータ」に一新された."教具"という名称が前面に出てきている以上それについてのレポートがあってもよいであろう.北数教での発表において教具といってまず浮かぶのは関数教材での"ブラックボックス"であろうか.昨年の講習会における大山斉先生(当時札幌東高校)の熱心な講演を思い出す.また,留萌大会では萩生田健先生(当時留萌高校)が,手作りのサイコロを使った確率の授業についての発表など素晴らしいものであった.

 今回の発表のテーマは"できるだけ手間をかけずに視覚化した授業"である.今年度の授業から「2次関数の最大値・最小値の応用」を中心に発表させていただく.また,場合分けのシェーマについては札幌新川高校 中村文則先生の数実研での発表を全面的に使わせていただいた.

 視覚的な授業展開を考えたときに忘れてならない点は,教材作成にかかる準備時間と素材の入手のしやすさであろう.どんなに優れた教材展開もその準備に膨大な時間と労力がかかれば毎日の雑務に追われる高校教師にとっては辛い日々となる.

 簡便性をモットーとしたため教具としては稚拙なものではあるが,使ってこその教具である.どんなに簡単な教具でも黒板とチョークの授業とは違った効果が期待できる.参加された諸先生にいくらかでも参考になれば幸いである.

北数教高校部会ホームページ『数学のいずみ』 URL:http://www.nikonet.or.jp/spring/
札幌藻岩高校 菅原 満 manchan@mti.biglobe.ne.jp


■■■ 2次関数の最大値・最小値〜ハサミと紙 ■■■

2次関数の最大値・最小値に関する問題は,次のように分類できる.

  1. 定義域の制限なし
    例1)y=-2x2+3x-5 の最大値・最小値があれば求めよ.またそのときのxの値も求めよ.

  2. 定義域の制限あり
     @関数・区間ともに固定
      例2)y=x2-2x-2 の最大値・最小値とそのときのxの値を求めよ.
     A区間の一端が変化
      例3)aを正の定数とするとき,0≦x≦a における関数y=x2-4x-1 の最大値と最小値を求めよ.
     B区間の両端が変化
      例4)2次関数y=x2-4x-1 のa≦x≦a+1における最小値をm(a),最大値M(a) とする.
       このとき,m(a),M(a) をaの式で表せ.
     C関数が変化
      例5)2次関数 y=x2-2ax-1 の0≦x≦6 における最大値と最小値を求めよ.

 今年度の授業ではこの分類に従い,指導順序も上記の流れで行ってみた.指導にあたって留意した点は以下の通りである.

◆◆ 動きを伴う教材の視覚化(教具とシェーマの活用)◆◆

 平行移動のときなどグラフを動きが欲しい場面がある.動き全体を提示する場合,頂点など一点に着目させる場合がある.パソコンによるシミュレーションも行ってきた〜H10発表レポート「教室に視覚的数学を」〜が,今年度はA3版の用紙・ハサミ・磁石を教室に持ち込み授業を実施してみた.紙で作った放物線は"書き込み可能","移動・固定が容易"など利点が多い.なによりも準備の手軽さが一番であった.

【A―Aの指導例】

  1. 用意したA3の紙に放物線を書いておく.黒板方向に巻いておき左端を磁石で固定する.巻いてある部分を戻し用意したA3の紙に放物線を書いておく.黒板方向に巻いておき左端を磁石で固定する.巻いてある部分を戻して片端を変動させ,最小値の変わり目を確認する.
    ※札幌稲雲高校 大河内先生の実践では模造紙を用いて行っていた.模造紙の方が圧倒的に見やすく効果が高いことは言うまでもない.

  2. 前項でシミュレーションをした後,シェーマを用いた解説を行う.
     生徒には右のシェーマを用いて最大値・最小値の変わり目の表現をするよう指導する.
     この図をすぐ提示するのではなく,最大値M,最小値mそれぞれの場合について考察し右図にいたる.
     太線部がそれぞれの変わり目となり,右端の値より変わり目のaの値を見て取れるようにする. シェーマの下にaに関する数直線を描き,縦に分割し場合分けをして解答する.

 BとCは定義域の区間幅が等しい点で,同様の要素を含んでいる.生徒から見ると"場合分け"の絡んだ問題は苦手とする傾向も変わらない.ここでもA3紙を使って簡単なシミュレーションをしてみよう.
 指導順序はCをグラフに視点を移すことにより区間移動型のBの考えで見ることからB→Cとする.

【A―Bの指導例】

  1. Bの例題を提示する.その後おもむろに紙とはさみを取り出し,A3紙の紙切りを始める.
     まず,放物線を切り出す.これに軸を赤チョークで書き込み黒板に磁石で固定する.次に,もう1枚のA3紙から長方形の窓を切り取り,切り取った部分の両側の縦線部分にa,a+1と区間の両端の値を書き込む.以上で準備完了である.
     まず最大値に着目させ黒板に固定された放物線の上に紙をかぶせゆっくりと左右に移動させる.これだけである.あとは,これに自分なりの演技を織り交ぜながら"変わり目"を考えさせる.
     最大値は変動しながらも区間内での最大値を保持している点が理解されれば充分であろう.
     次に最小値も同様である.何でもないようだが,突然に紙とはさみを取り出す姿に「何のつもりだろ?」とこちらに注意が集中する効果も手伝って生徒の理解は上々であった.

  2. Aと同様にシミュレーションが終わったらシェーマを用いて考察する.テーマは"省力化"である.場合分けの数だけ図を書くのは大変である.
     生徒が思考する際に利用するシェーマも広い意味では教具の一つと考えられる.教材理解を補助するものは全て教具と考えている.今年度の授業では上記BCの指導にあたって新川高校中村先生の数実研におけるレポートを全面的に参考にさせていただいた.


【A―Cの指導例】

  1. Bは区間が移動したのとは異なり,Cは区間は固定されているがグラフが移動する場合である.
     ここでも先ほど切り出した放物線と区間窓のA3紙を使ってシミュレーションをする.
     ここでも最大値,次に最小値と片方ずつ考えさせるとよい.
     前回と裏返して区間窓の方を黒板に固定し,区間の両端の値を書き込む.その際,両側の区間外の部分を縦折りしておくと,シミュレーション中区間窓が折れ曲がってこない.放物線紙を区間窓の裏側に差込んでゆっくりと左右に移動させる.最大値は変動しながらも区間内での最大値を保持している点が理解されれば充分であろう.次に最小値も同様にシミュレーションする.
     ここで一度手を止めて,シェーマの考察に移る.放物線紙と区間窓は磁石で固定しておく.

  2. 今回もテーマは"省力化"である.場合分けの数だけ図を書くのは大変である.
     特にグラフが移動するということでBよりも図を書きにくい.最大値・最小値の一方を表現するとしてもそれぞれ3通りほどの図を描かねばならない.「何か省力化の良い工夫はないか?」などと発問してみる.その際,ヒントは先ほどのシミュレーションにある.
     ここで,先ほどの放物線紙と区間窓に再度登場してもらう.
     今度は,放物線紙を固定して区間窓を動かしてみる.視点をどちらに固定するかの違いのみで現象的には同様であることが見て取れる.
     すなわちBで使ったシェーマは,ほんの少しの改良で使用できる.

 今回は札幌新川高校 中村文則先生の数実研における発表を授業に全面的に利用させていただいた.これまでの数実研や北数教で数多くの素晴らしいレポートを発表されている中村先生だが,私は『小手技』シリーズのファンの一人であり,このレポートも『小手技シリーズ』の実践編と言ったところである.感謝!


《参考レポート》

『二次関数の最大最小問題のちょっとした小手技』
札幌新川高校 中村文則
『教室に視覚的数学を!〜数学用フリーソフトウェアを利用した教材作成例』
札幌藻岩高等学校 菅原 満