〜数学用フリーソフトウェアを利用した教材作成例〜
札幌藻岩高等学校 菅原 満
1.はじめに
つい2年ほど前までの話である.私は,軌跡分野の授業のためにせっせとVisual Basicでプログラムを作っていた.それ以前のQuick Basicで作成したときに比べて格段のに少ない作業量でかつ見栄えがよいではないか.しばらくは気のついた時に簡単なプログラムを作成したものである.しかし,次の授業で使う教材を1コマの空き時間で作れるほどの技術は私にはなかった.当時すでにグラフ表示ソフトとしてDOS上で動作する「関数ラボ(日本IBM)」があった.これは,1コマの空き時間があれば教材を完成させられるものであった.しかし,プレゼンテーション用としてだけではなくプリント教材作成の時にグラフや図を入れたいと思うのは当然のなり行きであろう.ほどなく時代はWindows時代へさらにインターネット時代へ突入していく.
インターネットの普及に伴いネット上からダウンロードできる数学用フリーウェアソフトが増えてきた.これまでのFD,CDといった媒体に比べ通信を使った普及は,利用者ばかりでなく開発者にとっても朗報であった.
利用する側からすると常に最新のソフトが入手でき,いつくかのソフトを目的に応じて使い分けることが可能となったのである.また,教育関係者が開発をしている場合がほとんどで再配布に関してもフリーである場合が多い.生徒一人ひとりに利用させることも可能である.
本レポートでは,私が普段使っている3本のソフトを使っての教材作成の実例を報告したい.以下に利用しているソフトウェアについて簡単にまとめておく.
2.使用したソフトウェアについて
ソフト名 | Function View | GRAPES /Win | Geometric Constructor/Win |
---|---|---|---|
Version | ver.3.303 | ver.5.32 | ver. 1.1.4 |
著作権者 | 和田 啓助 (群馬県桐生工業高等学校) | 友田 勝久 (大阪教育大学附属高等学校 池田校舎) | 飯島 康之 (愛知教育大学数学教室) |
使用OS | Windows95,WindowsNT4.0 | Windows95,WindowsNT4.0 ※DOS版もあり | Windows95,WindowsNT4.0 ※DOS版もあり |
ホームページ URL | http://www.tohgoku.or.jp/~kei-wada/index.htm | http://www.ikeda.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomoda/grapes /index.html | Http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teacher/iijima/gc/test-gcwin/download.htm |
用途 | 関数グラフ表示 | 関数グラフ表示 | 図形作図ツール |
再配布の条件 | 再配布自由 | 再配布自由(条件付き) | 研究目的以外の配布禁止 |
ダウンロード時のファイルサイズ | (本体・Demo) fv3303.exe(291KB) (ヘルプ) manual.exe(277KB) ※zipによる自己解凍形式ファイル | (本体) grps532e.zip (254KB) (ヘルプ) grps532m.zip (204KB) (sample) grps532s.zip(89KB) | VB5(SP3以降のDLL,OCXが組み込まれている場合)をインストールしているか,必要なDLL等がすでに組み込まれている場合は,実行ファイルのみでOK.そうでない場合は, gcw114a.lzh(4092KB)等をダウンロード後解凍してセットアップする. |
“Function View”と“GRAPES”の2つのソフトはともに関数グラフ表示ソフトであり,図形作図ソフトである”Geometric Constructor”とはその目指すところも違い同列には比較することはできない.ソフトが本来持つねらいを熟知した上で自分の授業における適切な使い分けを実践していくべきであると考える.
4.教材作成に当たっての留意事項
一口に教材を作成するといっても,その場面は様々である.
@イメージ化し難い教材をVisualに表現しプレゼンテーションする
A発見学習的に,生徒自身に試行錯誤を経験させてイメージを掴み取らせる本レポートでは,コンピュータによる教材が有効だと思われる場面のみに限定して話を進めたい.やみくもにコンピュータを使ってもその教材に適さない場合もあるだろうし,ソフトウェアの選択・設定次第では予想した対象以外に思考が向かい効果が少ないということになるかも知れない.
また,同じプレゼンテーションといってもプロジェクターやパソコンLANで見せるだけでなく,プリント教材で使う場合も多い.前出のソフトを使えば授業プリント,テストなどで必要なグラフ・図を挿入することが容易に可能である(Windowsワープロなら尚のこと都合がよい).実際このレポートもWordというワープロとフリーウェアの画面キャプチャソフトを使って作成している.ただし,教科書のコピーで済むのであればそれを利用した方がよい.我々がさらに必要だと思うが,存在しない場合に作成することが大切である.ベクトルの授業での斜交座標,2次曲線で利用する2焦点を中心とする円群など手作業では面倒な図もこれらのソフトを使えば簡単に作成できる.
さらに忘れてはいけないのは,どんなに優れたソフトウェアであってもそれ自身が数学を語ることは不可能であるという点である.Aのような授業を考えても,限定された時間の中で所定の効果を上げることは至難の業である.何を調べるかの「対象の設定」さらに「探求方法の提示」は教師が用意すべき内容となる.コンピュータを使う授業には,教師の側の教材に対する新たな研修が必要とされると思われる.
現在の勤務校にはコンピュータが生徒分設置されていない.そのため,授業にはノートパソコンを持ち込みプレゼンテーションするといった有様である.結局プリント教材への利用が大半を占めている.本校にも今年度中にはパソコンが導入されるという話なのだが……そのため,前節のAに該当する形態に関しては未実践であることをご了承願いたい.プレゼンテーション教材を作る場合は,一つの画面に情報を詰め込みすぎてはいけない.情報の与えすぎは却って生徒の想像力を失わせる.一つの問題に対してもソフトの簡便性を生かしていくつかのFrameに分割して生徒の想像力を補助するものにすべきである.プレゼンテーションのみで授業は終わるわけではない.その後の仕上げにも教師の工夫が必要とされる.以下に,教材作成の具体例を示してみる.
6.あとがき
私が普段使っているフリーソフトウェア3本による簡単な教材作成例を紹介してきた.本レポートを作成するにあたり3つのソフトを新たな気持ちで使ってみたが,開発者の諸先生の数学教育に対する熱意がひしひしと伝わってくるのを強く感じた.私の実践は拙いものであるがこれを参考に「使ってみようかな」と思ってくれた方が居たら幸いである.そして,皆で実践を積み重ねフィードバックしていくことが,開発者の方々の熱意に応えることだと考える.
『FunctionView Ver.3.30操作manual』(和田啓助)
『GRAPES User’s Manual』(友田勝久)
『Geometric Constructor / Win テスト版のマニュアル』(飯島康之)
『ネット上からダウンロードできる数学用フリーウェアソフト』(早苗雅史)