「数学科での中高連携」その後A
北海道上川高等学校
若林 理一郎
1 はじめに
上川高校に赴任して、間もなく2年が経とうとしている。「魅力ある学校づくり」によって、「生徒数確保」「高校存続」という学校の生命線が維持されるという世界の中で仕事をしてきた。そのような状況において、教員全体は精一杯突っ走ってきたような気がする。そのおかげか、何とか目標に近い受検生を確保できそうな状況である。
この小レポートでは、今年度の実践を中心に少しばかり触れていきたい。
2 FSタイムの変化と効果
連携型中高一貫教育校となって、初めての入学生を迎えた。その1期生の担任として、また、今後の上川の行く末を占う学年を受け持つことになって、大きなプレッシャーを感じた。そして、結果的には、「自分の学年をどう育てるか」ということで精一杯で、昨年度ほど中学校に行ってティーム・ティーチングを行うまでに至らなかった。また、校内会議や生徒指導等で、放課後に中学校との教科会議を持つ時間もあまり得られず、お互いに時間割をメール交換しているのが主となってしまった。
今の教員規模で、担任業務の傍らで中学校に行っての実践というのは、同一校舎でなければ厳しい。逆をいえば、担任以外の教員がフリーの時間を使って、定期的に中学校での実践に取り組むのが望ましいのではないか、というのが最初の反省である。
そのような中でも、昨年度の継続実践と新しい取組も行ってきた。
まずは、中学校からの提案によるFSタイムについてである。開始した平成13年度は、FS1〜3(25分間、対象は全学年)とFS4(50分間、対象は3学年)の2つの形態で実施された。数学科では、中学校教員がメインとなって取組や出席状況などから評価を行い、高校教員はサブとなって生徒への助言等に当たっていた。
今年度は、FS1〜3での取組を1〜5まで拡大した。より多くの教科でのFSの効果を期待してのことである。
数学科では、中2・3と中1の2クラス編成とし、前者が中学校の数学科教員、後者が他教科の中学校教員が指導にあたり、高校教員が特に後者のクラスの専門的指導に当たることにした。
私自身は、後者のクラスに現在まで10回程指導に行った。中学校教員が課題設定、全体指導、私が専門的な指導を必要とする生徒への講義及びその後の課題設定を行った。
この指導の役割分担によって、今まで以上に効率的な指導が可能になったというのが、私自身の感想である。学力的な観点から複数クラスで展開したことで、それぞれの層に合わせた課題設定が可能となり、また、高校教員が入っての指導の際には、専科外の教科でも中学校の教員が指導に当たることで、生徒と高校の数学科教員との橋渡しとなって、授業の円滑な進行やきめ細やかな指導がしやすいと考えるからである。
3 日常の授業における連携
私自身が興味を持って取り組んでいることは、「連携型中高一貫教育における平常授業での指導の可能性」である。その中でも、中高の学習内容を連携させて、学習目的を更なる明確化と6年間を見通して学習を意欲的に取り組むことについて考えている。
昨年度は、中学2年生の「1次関数」の授業で、次数が増えると、グラフにどのような変化が起こるかということを、高校で学習する「微分」と関連させながら、 "FunctionView" を利用して実践した。
今年度の新たなものとしては、中学3年生の「相似な図形」と高校数学Aの「等比数列」を連携させて、紙の面積についての予測、コピー機の表す数字に数学史を織り交ぜて実践した。(授業案参照)
また、中学校の選択学習において、内容構成を中高共同で立案し、「総合学習」の関連づけや2進法の仕組みについて知るために「点字学習」を行った。概要としては、点字の仕組み(規則性)、パソコンとの関係、点字で文書を作る練習(翻訳機も利用)、町内にある点字を探すという流れで、福祉活動にも興味・関心を持たせようという意図も含んでいた。
しかし、この時間自体が選択学習の一部(選択B)であり、高校でいう1単位にも満たないこと、従って、授業も不連続となり、生徒への定着が難しい状況にあったということで、次年度の内容について、再検討することになった。
4 今年の反省と来年に向けて
いろいろと関わっていくことで、中学校の状況が理解出来るようになってきた。そのことで、互いのシステム違いも認識するようになった。中学生の名前も少しずつ覚えてきて、高校の職員室で話題になることもあった。中高合同の環境学習等を通して、中学生が「旭川でなく、上川高校で・・・」と考えてくれるようになってきた。
中学生が次第に上川高校へ意識を向けてくれる中で、我々は「魅力的な授業づくり」について、更に研究と実践を繰り返して行かねばならない。
教育課程上の連携で文部科学省の研究指定を受けているある学校では、「教育課程上の特例」を受けて、中3と高1で基礎力を高める学習を週1単位設けて、学力の底上げが進んでいるという。また、その授業の中で、共同開発の教材を10以上作成し、意欲的に学習に取り組めるような研究も進めている。
このような「特例」を得ることができれば、中高一貫教育のメリットをより生かすことが出来ることは間違いない。しかし、既存の小規模校同士が、従来のシステムを使って、どこまで生徒の学力向上が可能となるか。そのためにどの程度の学習内容等の連携が可能かを探っていきたいと考えている。
さて、今年度、上川高校では26名の中3生を新入生として受け入れ、私は新1年生の担任として、昨年度指導した中3生を改めて指導に当たることになった。
今、入学式から早くも1年が経とうとしているが、常々思うことがFSにおける1人1人の生徒状況の把握が、現在行っている生徒へのあらゆる指導に役立っているということである。
学力面は言うまでもなく、性格・取組姿勢・人間関係など、多くの生徒情報がFSでの指導によって得られた。中学校の担任からの引継もさらに受ける中で、学級編成や指導の重点項目や指導のスタンスなど、指導の方向性を決める上で、より適切な決定ができたのではないかと考えている。 このような意味において、私自身は中高一貫教育の大きな意義の一つを見出せたと考える。