平成11年度教職経験者研究協議会資料

個に応じた指導を推進するための
指導・評価の工夫・改善

北海道千歳北陽高等学校
熊田 達夫

1 はじめに

 高等学校進学率が97%の時代になり、従来の評価基準においては幅の広い学力差を持った生徒が入学してくる。また、価値観の多様化により、高等学校での学習の目的を失った生徒も増えつつある。さらに、社会変化の影響を受けて複雑な生育歴を持った生徒も今後増加することが予想される。これらの生徒は数学の学習はもとより、学びそのももから逃避しようとしている。


2 個に応じた指導・評価のあり方

 教育は本来、個人を対象として、個を生かすことを目的とした営みであると、とらえることができる。一人・一人の生徒は学習の習熟の程度、理解の速さや深さ、興味・関心、知的探求心、創造的な心、学習への適性などにおいて差があり、様々な個性を持っている。
 これらの違いを押さえた上で、個性を生かし、生徒の特性等に多様な学習活動が展開されなければならない。
 そのためには、従来の授業に対する教師の意識を以下のように転換する必要がある。

  1. 生徒観の転換を図る
    @多様な良さや可能性を持った個性的な存在ととらえる
    A自分なりの恩いや願いを持った主体的な存在ととらえる

  2. 指導観の転換を図る
    @生徒の側に立ち、良さや可能性を引き出し、伸長させる
    A主体的な学習活動を授業の中心に位置付ける

  3. 評価観の転換を図る
    @生徒の良さや可能性を共感的にとらえる。
    A自己実現を支援する
    B指導と評価の一体化を図る

 指導に当たっては生徒の学習意欲を高めるため、以下のことに注意している。

  1. 生徒の興味・関心や学力の実態をよく把握し、生徒の学習段階にあった指導内容や指導方法を工夫する
  2. 生徒の抱えている疑間や誤りやすい個所を把握する
  3. 日常における具体例を多く取り入れ、数学の有用性を認識させる
  4. 授業の中で生徒に疑間を投げかけ、生徒が発見する喜びを味わったり、数学が創り出され行く課程を体験したりできるような場を設定する。
  5. 生徒の学習段階にあった適切な謀題等を与え、思考力を高める。
  6. 生徒の人格を尊重しながら努カを認め、きめ細かい指導・支援する

 これからの評値は、生徒の学習状態の評価を通して、教師が指導計画や指導方法について自己評価し、生徒の学習意欲の向上につなげて、生涯学習の基礎を培うものでなければばらない。そのための評価の観点としては以下のことが挙られる。

  1. 生徒一人一人の個性や学習状態を十分に把握する
  2. 授業形態や進度は適切であるか絶えず確認する
  3. 学習の進んだ生徒や遅れている生徒への対応は適切か
  4. 生徒の学習についての希望が満たされ、意欲を持って学習しているか
  5. 指導内容は生徒の実態や進路希望などにあっているか
  6. 生徒一人一人が生かされ、集団として活発な授業展開になっているか


3 本校生徒の実態を考慮した教材の検討

 低学力や学習意欲が低い本校生徒の実態を考慮した教材作成の視点を列挙すると以下のことが考えられる。
  1. 予備知識の量や計算力が不足していても、全員が授業に参加できる教材
  2. 高校生になったという気持ちにふさわしい新鮮さと意外性のある教材
  3. 生徒たちが身につけてきた否定的な学習観・数学観を変える教材
  4. 本校は他校以下であるという劣等感を感じさせない教材
  5. 生徒たちの日常生活に根ざした現実味のある教材
  6. ゲーム性などがあり、生徒と教師がともに楽しむことができる教材


4 具体的なイメージを育てる指導

 数学の美しさの一つにその抽象性がある。しかし、本校生徒にはその抽象性が数学を難しく感じさせ、数学離れを引き起こす一因になっている。そこでに具体的なイメージをつかめやすい指導を心がけている。
 例えば、因数分解の指導ではべきタイルを用いて、因数分解の意味は多項式を積の形に変形することであることを埋解させている。
 2次関数の平行移動の説明では、2枚のシートを実際に動かしてその理解を助けたり、2次関数の変域に制限のある最大値最小値の間題では自作の教具を利用して、間題の意味の埋解をたすけている。
 順列・組み合わせの指導では、生徒に実際にカードを動かさせて、間題の意味を確認さている。
 指数関数の特徴はその変化の大きさにあるので、そのことを身近に感じてもらうために、実際に模造紙に書かせたりしている。(時間的余裕のあるとき)


5 教科通信「数楽」の発行

 章の始めの導入ときや、時事的な数学的な話題、教科書に開連するが授業で触れることができない内容、数学が持っている歴史的な発展や日常生活と深く結びついている文化史的側面を生徒に伝えたくて、教科通信「数楽」を発行して、生徒の数学への興味・関心を高めようと試みている。

      ⇒ 教科通信「数楽通信」


6 生徒による間題作成

 すでに実践されている先生方も多いと思いますが、生徒に単元終了後に学習内客を元に生徒に問題を作成させていた。教科書の例題を焼きなおした域を出ないものではあるが、数学が生徒にとってより身近なものと感じられたようだった。今は実施していないが、生徒の問題を生徒自身に評価させたり、コンクールさせたりして、生徒が主体的に間題作成に取り組めるような工夫を考えている。
 また、進学校などでは生徒の解答の別解を紹介して、それぞれの長所・短所を比較検討させることも、数学の持つ自由性や生徒同士の相互理解が深まるのではなでしょうか。


7 個に応じた読書指導

 生徒の読書離れを改善するために、朝の10分間読書運動が盛んです。数学に関する興味・開心も多様化しています。教科書で触れることができない内容でも、生徒の数学能力を伸長させる内容がたくさんあります。それを生徒に伝える手段として、本校生徒の実態を考慮して以下の数学の本(マンガ)を紹介しています。
 進学校などではなかなか時間が取れないこと思いますが、もう少し程度の高い本を夏休みなどに自由研究の課題図書として推薦したら、生徒の数学に関する興味関心が深まると思います。

二ヤロメのおもしろ数学教室

赤塚不二夫 著  角川文庫 1985年7月10日再版発行
天才パカボンー一家が0の発見、分数の誕生に始まって、3次方程式の歴史、確率や微積分の話を経て、最後はリ一マン幾何学を用いた宇宙論をマンガで説明しています。マンガを見ただけでわかる気分になる不思議な本です。
マンガ数学人門岡部恒治 著  筑摩書房 1989年3月25日第1刷発行
中・高校生向きに図形、方程式、集合、確率、微積分などの話をマンガと文章で、やさしく解説した本です。中でも「分数の不思議」と「市松模様と数学の感覚」は秀逸です。
ヒト、数学に出会うL.サーレム F.テスタール C.サーレム 著  深川洋一 訳  丸善1994年
高校生が人類の知的文化活動のひとつとしての数学象をおおまかにつかむのに最適な本です。ごく初等的なことから、オイラーの公式eix=cosx+isinxなどの大学初年級にわたるようなことまでの豊富な話題が興味深く用意されています。イラストと文章が2ぺ一ジにまとめられているので肩が凝りません。
マンホールのふたはなぜ丸い?中村義作 著  三笠書房 1993年9月10日第1刷
日ごろ、何気なく見過ごしている身の回りの物事に少し注意の目を向けると、そこにはたくさんの美しい真理が秘められています。そういうものに脚光をあてて、特に数学の立場から、その素晴らしさ・美しさを鑑賞できる本です。数式や計算はいっさい不要で、読み進んでいくうちに、「こんなことにも数学が関係していたのか」と驚くこと請け合いの本です。


8 生徒による授業評価

 どの先生も授業の終わりに、その時間の学習内容の定着を確認するために小テストを実施していると思います。しかし、小テストの連続だけでは、生徒に主体的に授業に参加しているという意識を持たせつづけるのは難しいので、小テストの最後に自己評価をさせている。自己評価の内容は、どこまで到達したか(到達度)と学習意欲の2点である。それを5段階に分けて絶対評価している。自己評価を集計することによって、自分の授業評価の改善と学習意欲の低い生徒の個別指導に利用している。課題としては、生徒指導に迫われて、なかなか個別指導ができない現状がある。

      ⇒ 「数学確認テスト」


9 授業評価のアンケート

 教師は生徒を評価することは熱心だが、自分が評価されることは好まない傾向が見うけられる。しかし、授業というものは不完全な教師と不完全な学習者(生徒)がともに補い合って、カをあわせて創っていき、お互いが成長するものと考えている。現状に安住することなく、自分も教師として生徒に学び、さらに力量を高めたいとおもい、学年末に生徒に授業アンケートを実施している。
 また、教育の世界にも説明責任が間われる時代になってきたので、このような授業評価はますます重要になると思う。

      ⇒ 「数学授業アンケート」


10 理科と連携を深めた教材

 科学史をひもとくと、数学と理科(待に物理学)が互いに閣連して、発展してきました。新学習指導要領では「総合的な時間」において教科横断的な内容を学習すると示されました。
 今後、数学と理科が協力した教材を開発する必要があります。

  1. パワーズ・オブ・テンの授業
    前任校で指数法則が自然科学と密接にかかわっていることを理解させるために、スライドを中心とした授業「パワーズ・オブ・テン」を実践した。

          ⇒ 「公開授業 指導案」

  2. 「遠山啓のコペルニクスから二ユートンまで」の教材化について
    上記の本は、遠山啓が市民大学での講座の内容まとめたものです。目次を見ると
    などで、ヨーロッパのI6世紀から17世紀にかけての近代数学の発展まとめたもで、当時の科学者たちがいろいろ実験を繰り返して、ニユートン力学を創りあげた歴史をやさしく述べています。この本での実験はたいそうな道具・設備のいらないものなので、「総含的な学習の時間」で理科の先生とティーム・ティーチングをして、実験を数学化して、理科や数学の楽しさを生徒に体験してもらって、少しでも理科離れ・数学離れを防ぎたいと考えています。