「絶対値のついた1次不等式」について

札幌篠路高等学校  真鯛 和弘

中村文則 様

 拝啓 先生のレポートはいつも興味深く拝見させていただいています.先日は数実研の夏季セミナーでたくさんの面白い話を聞かせていただき有り難うございました.今年の4月から進学でいえば中間レベルの高校に転勤し,先生のレポートはとても参考になりました.

 今回お便りしたのは,その中の「絶対値不等式のレポートについて少し考えてみたので,その結果をご報告し,併せて先生のご意見をうかがおうと思ったからです.


1.「絶対値のついた1次不等式」について

 絶対値の記号 l l や絶対値のついた方程式,不等式は生徒にとって(そして教師にとっても)分かりにくい(教えにくい)部分です.その点では,絶対値の中の式の値が原点からの距離を表すと考える「まなぷ法」は,直感的にもよく分かる方法だと思います.私もこの方法を用いて問題を解いた経験があります.

 さて,レポートの前半の3題

   (1)lx-3l<4, (2)l2x-3l<5, (3)l3x+4l>2

については「まなぶ法」は正しい解法だと思います.しかし後半の3題

   (1)l2x-3l≦x+1,(2)l3x-1l<x+3, (3)lx-1l≧2x+3

のような問題については,「まなぶ法」には不十分なところがあると思います.よく指摘されるように方程式や不等式を解く場合,必ず同値関係を保つように式に変形しなければなりません.

 例えば,絶対値のついた式などで両辺を2乗すると,同値関係が破れることがあるからです.
 前半の3題のような問題,すなわち

   |ax+b|<k (a>0,k>0とします)

のような型の問題では,

   |ax+b|<k と -k<ax+b<k

とは同値です.ところが後半の3題のような問題,すなわち

   |ax+b|<cx+d (a>0,c>0とします)

のような型の問題では

   |ax+b|<cx+d と -(cx+d)<ax+b<cx+d

とは同値ではありません.一般に,-(cx+d)<cx+dとはならないからです.同値関係を保つには,cx+d≧0の場合とcx+d<0の場合を両方考える必要があります.例えば後半の1番目の問題は次のように解くべきだと思います.

 (1) l 2x-3 l≦x+1

[解]

(T)x+1≧0の場合 すなわち x≧-1 … @ のとき
 与式から
   -(x+1)≦2x-3≦x+1
です.左辺と中辺から 2/3≦x,中辺と右辺から x≦4.
共通範囲は 2/3≦x≦4.これは条件@を満たしているので,結局
   2/3≦x≦4
となります.

(U)x+1<0の場合 すなわち x<-1 … A のとき
 与式から
   |2x-3|≦x+1<0
すなわち,|2x-3|<0となります.ところが,絶対値の記号の意味から,
つねに |x-1|≧0 です.これは矛盾.つまり,条件Aのもとでは与式を満たすxの範囲はありません.
したがって,(U)の場合は考える必要はなくなります.

(T),(U)からもとめる解は
   2/3≦x≦4 となります.

(2)|3x-1|<x+3 も同様に,x+3≧0の場合だけを考えればよいので,結局答は「まなぶ法」で求めたものとー致します.

(3)|x-1|≧2x+3 は次のように解きます.

[解]

(T)2x+3≧0の場合 すなわち x≧-3/2 … @のとき
与式から
   x-1≦-(2x+3) または  2x+3≦x-1.
それぞれを解いて
   x≦-2/3 または x≦-4 です.
条件@と合わせて,
   -3/2≦x≦-2/3 となります.

(U)2x+3<0 の場合 すなわち x<-3/2 … A のとき,
   2x+3=一k (k>0)とおくことができます.与式から
   |x-1|≧-k
となりますが,絶対値の意味から,与式はすべてのxの値に対して成り立ちます.
条件Aと合わせて,
   x<−3/2 です.

(T),(U)からもとめる解は
   x≦-2/3 となります.

 結局,答は「まなぶ法」で求めたものとー致しますが,不十分なところがあることがわかりました.

 話をまとめると,「絶対値のついた1次不等式」では「まなぶ法」が有力な解法であることがわかりましたが,私個人としては,グラフによる解法がわかり易く好きです.


2.グラフによる「絶対値のついた1次不等式」の解法

 次のような不等式を考えます.

   |ax+b|<cx十d (a>0,c>0とします)

これを,

    y1=|ax+b|
    y2=cx+d

とおいて,グラフをかいて y1<y2を満たすxの範囲をもとめます.

 一般に,y1=|ax+b|のグラフはV字型のグラフになります.

 y2 =cx+d のグラフは1次関数の直線のグラフですから y21<y2 を解くためには,2つのグラフの位置関係(交点)が重要になります.これは次のように,大きく3つのタイプに分類できます.

 グラフがかければ,後は交点を計算して,条件を満たすxの範囲をもとめればよいわけです.後半の問題では,(1)と(2)は@のタイプ,(3)がAのタイプになります.

 以上,蛇足を書き連ねましたが,先生のご意見をうかがえればと思っております.

 先生のご健勝をお祈り申し上げます.

敬具

1998年8月14日 真鯛和弘  

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