和関数としての3次関数

 次に、3次関数のグラフを、和関数を利用して素描することを考えていこう。

2次関数と同様に、3次関数 の、各項の係数のグラフ確定要素としての意味を調べてみる。

より
    
 これから各項の係数は、x=0においてそれぞれ次の役割をもつことがわかる。

 定数項dはy切片、1次の項cの接線の傾き(すなわち、は、x=0におけるの接線の方程式である)また、2次の項bは、y軸(の近傍)におけるグラフの凹凸を表している。

 このことを利用すると、x=0におけるグラフの状態から3次関数の各項の係数の符号を判断することが可能となる。

 たとえば、右図Aのグラフ は、x=0における交点のy座標(y切片)、接線の傾き、グラフの凹凸より、d>0,c>0,b>0、また、 であるから、a>0となる。

 このように、グラフのy軸での状態やグラフの開きをみることにより、3次方程式の各項の係数の符号を容易に求めることができるが、しかし、このことはグラフの素描には必ずしもつながらない。3次関数 が与えられたとき、係数の符号から判断できることは、グラフの開き具合、y軸近傍のグラフの状態と、ほんの僅かな情報に限定されているのである。

 そこで、2次関数同様に、3次関数についても和関数を利用し、2つの関数に分解することで概形を調べてみよう。

 

 3次関数を次のように2つの関数に分解する。
  
 このとき、は、x=0におけるの接線の方程式である。

また、
  
であるから、は原点で接し、x軸とで交わり、で、極値をとるグラフである。

 こののグラフを直線のグラフに、和関数と考え、x=0で接するように乗せる(ぶら下げる)とのグラフが出来上がる。だが、実際にはこれだけでグラフの概形を捉えることは難しい。

 放物線が和関数を利用して容易にグラフが描けたのは、
    
すべての放物線は、相似である
という重要な性質に寄与する部分が大きかった。放物線が直線 x軸で接することさえ理解すれば、グラフの開きが同じ放物線を描けばよいのである。だが、3次関数の場合は、和関数とみても、 は不確定要素の係数を2つ有し、単純に として点をプロットすることはできない。

 そこで、3次関数の次の性質を利用してみよう。
    
3次関数はその変曲点において点対称である

 

さて、を分解して得られる の変曲点を求めると、
     より、
    ∴ 変曲点は である。

 この変曲点に の値を加え、点をy軸方向にスライドさせるとの変曲点となる。そうして、のグラフを、x=0で に接し、さらに変曲点で点対称になるように描けばいいわけである。

 ところで、x軸との交点の座標をP、原点以外の極値、変曲点からx軸へ下ろした垂線の足をそれぞれQ、Rとすると、
    P,Q,R
であるから、4点P、Q、R、O(原点)は等間隔に並ぶ。さらに、変曲点における点Pの対称点からx軸に下ろした垂線の足をSとすれば、この点も4点と同じく等間隔に並ぶのは明らかである。

 

 

 これから3次関数は、x軸およびx軸に平行で変曲点、頂点を通る直線と、y軸およびy軸に平行で点P,Q,R,Sを通る直線により、8つの合同な長方形上に分割されることになる(右上図)。

 ここで、 とおくと、 であるから、長方形の2辺の長さの比は、1:2aである。よって、のグラフは点Pの位置(曲線とx軸との交点)さえ分かれば、8つの長方形をアウトラインとして、頂点、変曲点を押さえて簡単に描くことができる。

 さらに、 は、x軸を に移す等積変換であることを利用すると、8つの合同の長方形は等面積の平行四辺形に変換される。各点P,Q,R,Sの間隔は不変であり、y座標の値も一定数の加算であるから、長方形と平行四辺形のy軸方向の辺の長さは等しい(右図)。

 

 

 以上のことを踏まえ、の素描法についてまとめてみよう。

@ の変曲点を求め(x軸との交点をPとすると、線分OPを1:2の比に内分する点が変曲点のx座標Rである)、和関数により、の値を加えての変曲点を求める。

A 直線に平行で、の変曲点を通る直線gを引き、この直線gに対しての反対側に、gに平行で等間隔になるように直線を引く。

B変曲点を通りy軸に平行な直線を引き、その直線を軸として、ORの長さで等間隔になるように両側にy軸に平行な直線を2本ずつ引く。

C8つの平行四辺形をアウトラインとして、変曲点で点対称になるように のグラフを描いていく。

Note)

  は等積変換であるから、8つの長方形と曲線によって分割された各部分の面積は上の平行四辺形においてもその面積は保存される。

 として計算してみよう。

    とすると、 であるから
図形の面積を下図のようにおくと、

    

    

よって、 となる。

 さて、 から等積変換により を生成しても、その面積は不変であるから、下右図のような面積比が得られることになる。

 ここで、直線 と放物線 で囲まれる部分の面積Sは、
  

であたえられる。

 なお、一般に、 は、その変曲点を通り、と、変曲点以外の2点で交わる直線と、その直線に平行で、に接する2つの直線によって、前述したのと同様の方法により、等面積の8つの平行四辺形に放物線は分割される。

Note)

 すべての3次関数がその変曲点において、点対称であることは、変曲点をとるx座標を中心(極)にしてTaylor展することにより示されるが、和関数の考えでは、について、確認すれば十分であろう。

  の変曲点は、であるから、変曲点が原点になるようにを平行移動すると、
     

より奇関数となり、原点対称であることがわかる。よって、変曲点において、点対称であることがわかる。