【INDEX】 【BACK】 【NEXT】
【4】出だしがかんじん(導入に神経を)


 数列にしても,順列組み合せにしても,三角関数,指数関数にしても,微分積分にしても多くの興味深い世界へと展望がひろがってゆく。しかしこれらの理論は日常の思考と関係のない特殊な発想をしているわけではない。従って或る分野の教材に入る際の導入の工夫が大切である。ごく自然な問いかけの中から興味・関心を引き出し,更に豊かな発想を育んでゆくように導入に工夫してゆきたいものである。ここで多くの教師たちの工夫の中からいくつかの例を取り上げてみよう。

  1. 落下運動と微分(白樺学園高校 氏家先生の実践)

    自由落下運動から斜面の実験へ,ガリレオの思考経過をたどりながら斜面の運動についてグラフを作り速度について考えてゆく。適切な問いかけによって自然に瞬間の速度を考えるには極限の考え方が必要なことが導かれる。ここから導関数へと入ってゆく。(別冊資料参照

  2. 確率を考える為に実験をしてみる(留萌高校 萩生田先生の実践)

    確率の概念形成のために実験から入る。この為に折り紙で手作りのサイコロ作製から始める。その後も要所要所において適切な問いかけが用意されていて次第に確率についての認識が深まってゆく。そのように工夫されているプランであると思われる。(別冊資料参照)

  3. 高校でのわかる「授業」の取り組み(小樽桜陽高校 岡部先生の実践)
     ―数列の導入教具として「ハノイの塔」を用いた試み―

    「ハノイの塔」についてのゲームを通して数列の奥にひそむ規則性に目を向けさせ自分から考えることの楽しみを体験させるために工夫されたものである。
    岡部先生はこの中で次のように述べておられる。「この授業を通して数列が身近に感じてくれたと思う。それはゲームを夢中になって楽しんだことから生まれる。数列を有効に使うと役に立ちそうだというイメージが出てくる。さらにそのイメージから,よしやってみようという意欲が出て数列の理解を助けることになる。その意味では,このパズルはよい教材である。」(別冊資料参照

  4. 2次不等式の解法のちょっとした小手技(札幌新川高校 中村先生の実践)

    2次不等式の解法は最近は2次関数のグラフを使用した解法として指導されることが多いようである。この方法に折り紙によるカモメを利用して理解し易いような工夫が展開される。(別冊資料参照

  5. ドラエモンの"バイバイン" (札幌篠路高校 真鍋先生の実践)

    5分ごとに個数が2倍に増えてゆく「バイバイン」によって,くりまんじゅうは急激に増えてゆく。そのものすごさは宇宙でさえもあふれかえる程のものとなる。離散変化による指数関数ではあるが,この性質は生徒達の世界観をも大きく変えてしまうという。(別冊資料参照

  6. 転がるタイヤの謎(札幌篠路高校 真鍋先生のプラン)
     ―サイクロイド曲線の数学―

    タイヤが転がるとはどういうことなのか。また,滑るとはどのようなことなのかを考えつつサイクロイド曲線について考察してゆく。ガリレイのパラドクスとそれに対する解答等も関連してこの曲線についての興味と理解が深まってゆくと思われる。(別冊資料参照

  7. ジェラシー大作戦

    軌跡の方程式を求める問題で,動点が複数個になると急に難しく感じてしまう生徒が多いように思われる。そこで動点と動点の関係,動点と定点の関係を3人の人物の関係と動きとして説明した際に意外に反響が大きく,それ以後生徒達がこの問題を"ジェラシー大作戦"と呼ぶようになった。以下のような問題である。

    "ある高校のIちゃんは,生徒間でのアイドル的存在で陸上部で活躍している。彼女は放課後グランドで円形のトラックに沿ってランニングをする。陸上グランドに隣接するサッカーグランドにはいつもA君が来ている。彼はサッカー部のゴールキーパーである。A君はゴールの位置からランニング中のIちゃんに熱い視線を注ぐ。彼はこの見つめ続ける行によって憧れの気持ちがIちゃんに必ず伝わるのだと固い信念を持っている。心中穏やかでないのはJ君である。彼はA君の行が成就するのを絶対に阻止しなければと決心し次のことを発見した。それはIちゃんとA君の中点にJ君が居ればA君からIちゃんは見えなくなってしまうということである。J君はどのように動くことによって目的を達することができるか"
    いきなり円の方程式や点の座標は等というよりは以上のような話をした方がイメージは思い浮かべやすいようである。中には身につまされる体験の持ち主もいるのかもしれない。軌跡の方程式に対する苦手意識は薄められていくようである。

 以上いくつかの導入段階での工夫を見てきたが,いろいろな分野でもっともっと様々な工夫が集積され,それらが互いに有効に使われてゆくようになってほしいと思うのである。

【INDEX】 【BACK】 【NEXT】