情報化と教育

2_1 中教審1次答申(情報化と教育)から

 昨年の7月に中教審の第一次答申として「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」が発表された。この中で高度情報化時代を見据え、近い将来全ての学校がインターネットに接続することがうたわれている。また、情報化の進展と教育について二つのポイントがあげられている。一つは情報化が進展するに伴い「どのような教育が必要か」ということであり、もう一つがコンピュータや情報ネットワークの力を「どのように生かしていくべきか」ということである。具体的には、

 情報教育の体系的な実施という点に関しては、ハードウエアの整備だけでなく、教育の実践経験を通して作られた、良質で多様なソフトウエアが整備されることの重要性が指摘されている。実際に学習に役立たせる教材や情報を、教師自身が探すのも大変であるが、それを作成するというのは本質から外れているといえる。自分たちの学習活動や生徒の実態にあったソフトウエアの検索・試行が簡単にできるための体制作りが、これから大いにクローズアップされることになろう。

 「数学教育」に絞ったとき、現段階でどれだけの教材がネットから取得できるであろうか。まだまだ供給側が不足しているか、またはデータベース化が遅れているのは明らかである。国立教育会館が全国の教育情報のナショナルセンターとしての役割を果たすべき構想が進んでいるようであるが、その機能が早期に十分発揮できるされることを期待したい。また、北海道においても昨年平成8年度から、ソフトウエア教材開発委員会が情報処理センターに開設された。10年計画で各教科・分野で教材ソフトウエアを開発していこうというプロジェクトである。

 しかし、プロジェクト主導で一方的にソフトウエアを構築していくのはある種の問題を含んでいると同時に、自ずと限界もあるような気がする。ネットウエアの利点をもっと生かして、行政主導ではない、現場の教員の声を生かすようなそうした柔軟な対応が望まれるのではないであろうか。

 次に、情報機器やネットワーク環境の積極的な活用による、教育の質的な改善・充実という点に関して考えてみる。今年の5月に出された第2次の答申案の提言の一つに「個性重視」「脱画一教育」がある。一人一人の能力・適性に応じた教育の実現という観点からも、今までのような「受け身の教育」からの転換が要求されていくものと考えられる。そうした意味ではインターネットのもつ教育の可能性は大きなものがあるであろう。将来の新しい学校の姿や教育形態が浮かび上がってくるかもしれない。しかし、それはまた「教育の本質とは何か」さらには「教師の役割とは何か」を我々に問いただすことにもつながるといえる。



2_2 「情報教育ネットワーク形成推進事業」の意義と問題点

 次に本年度よりスタートした「情報教育ネットワーク形成推進事業」について述べたい。この事業は情報処理センター及び道立高等学校による情報教育ネットワークを形成するため、本年度は道立高等学校10校とこねっとプラン校2校を接続して次のような試行・検証を行うことを目的としている。

  1. ネットワーク接続法の一方式として、インタ−ネットを経由した接続形態について試行し、最適な接続形態を策定するための資料を収集する。
  2. ソフトウエア教材開発委員会で提供するソフトウエア教材のテスト・検証を行い、必要に応じて改善を行う。
 ここで、ソフトウエア教材開発委員会とは、道立高等学校における情報教育ネットワーク活用のために設立され、主としてソフトウエアの研究・開発に携わる組織のことをいう。10年間にわたる長期プロジェクトで、情報処理センター長が委員長を務める。

 この事業はまだスタートしたばかりで、センター自体が手探り状態という感じを受ける。それは仕方がないことであるが、来年度はさらに規模を急激に拡大して多くの学校に接続されることが決定されていることを考えた場合、方向性として強く疑問に感じることがある。それは、最初に外枠の環境だけを整えることを主としていて、どういった活用をしていくべきなのか、どういった実践例があるのかなどまったく説明がないままスタートしている点である。初年度に選定された学校のほとんどが商業・工業高校を中心として選定され、普通科高校にあまり選定されていないことも考え、センター自体の行政としての硬直性が感じられる。ただ環境を整えるだけの行政機関では意味がないといえる。

 次にセンターが情報の供給元となろうとしているソフトウエアの開発・ライブラリーに関して考えてみる。ソフトウエアの開発委員として札幌市内及び近郊から22名の教員が委嘱され開発にあたっている。構成される教科の内訳は、5教科のほかに芸術や体育、商業・工業など、ほぼすべての教科から2名づつが開発にあたっている。その2名がチームを組んで1年に1つの教材作成を10年にわたって作成していこうというわけである。問題点は既にこの点から存在しているといえる。つまり、ソフトウエアの開発?なるものが、1つの教科においてたかだか2〜3名の教員だけで行っていこうという、その発想そのものに問題があるのではないであろうか。情報処理センターの商業・工業の先生が主体となっているため、コンピュータの技術的なものがやはり主体となりがちである。教科における教材というのは別にコンピュータに関係するものである必要はなく、また幅広く多くの先生方の日常的な実践から蓄積されていくものであると考える。センターはそうした観点で幅広くライブラリー化を図ってもらいたいと考える。



2_3 情報化教育の現状

 インターネットの教育利用の現状はいったいどうなっているのであろう。大阪教育大学の教育情報リンクリスト「インターネットと教育」において実施した「WWWによる教育システムに関する調査」の中から、関係する部分を紹介してみる。

 学校へのインターネットの接続は急速に拡大し、情報教育の必要性は確実に増してきている。特に北海道でもそうであるが、こねっとプランなどの民間レベルのほかにもオホーツクインターネットや標茶町インターネットのように地方自治体を中心とした普及が目立っているようである。小・中・高校・養護学校などにおいて、'97年度中に3,000校(全体の約7%)が接続されると予想されている。ただ、学校でのシステム環境は校内LANまたはイントラネットに直結した接続もあれば、校内に1台のパソコンへの接続という場合もあり、実際に満足のゆく環境にあるかは疑問がある。先の「情報教育ネットワーク形成推進事業」試行校10校のうち2校は1端末接続校(Windows未設置校)である。また、インターネットの接続形態においても全国的に見てもかなりのばらつきがあるようである(次の表参照)。こうした、ハード面の整備はコンピュータの更新時期に合わせて、順次進んでいくものと考えられる。

<学校・学級ページの接続形態>
1学校はインターネットに接続されていない124(25%)
2公衆回線(ダイヤルアップ、アナログ)で接続138(28%)
3公衆回線(ダイヤルアップ、ISDN)で接続116(23%)
4専用回線(アナログ3.4kHz)で接続_29(_6%)
5専用回線(デジタル64kbps)で接続_58(12%)
6LAN(イーサネットなど)に直結_22(_4%)
7その他_11(_2%)
   「インターネットと教育利用の現状'97.1」大阪教育大学Webページより

 次に、公開されている学校・学級のページ数であるが、大阪教育大のホームページに新たに更新されたリンク情報(新たにリンクさせたい場合はその情報を阪教大のページにURL登録するようになっている)だけでも急激な広がりを示しているのが、次の表かもらよく分かる。ここに登録されていないものも含めると、すでにかなりの数がWebページとして公開されているようである。ただ、公開されたページがなかなか更新されない、管理者の負担、魅力あるページの不足など多くの問題点を含んでいると思われる。そもそもの学校のWebページ公開の意義が何なのか、という疑問も出てきているといえる。既に、公開することの“物珍しさ”から飽きがきているともいえる。

<ホームページ開設状況>
  学校数 ホームページ開設数 全体比(%)
 小学校 24,482  601  2.5 
 中学校 11,269  538  4.8 
 高等学校 5,496  693  12.6 
 養護学校など 975  73  7.5 
 専門学校 2,956  396  13.4 
 短期大学 598  115  19.2 
 大学 576  420  72.9 

 具体的な活動例を道内のこねっとプラン参加校(小・中・高あわせて40校、'97.8現在)の実践例をもとに見てみる。全国的な活動例としては、Phenixで学校間を結ぶ「こねっとセミナー」や「先生のためのマルチメディア研修会」('97.8)などがあり、道独自の活動では「さっぽろ雪まつり」「冬の暮らし」等にからんだ企画などが実施されている。また参加校独自の活動では、ホームページ立ち上げ、学校間交流、学校行事のモバイル中継、ジョイントアート、地域紹介等の事例発表が出されている。
 しかし、これらはほとんどがNTT側で企画を設定することが多く、教科サイドにたった内容等の実践例はあまりないようである。「こねっとプラン」も今年度で支援予定期間が終了し、参加校のこれからの活動が注目される。



2-4 必要とされる教育・学習情報

 次に、どんな教育・学習情報が不足しているかについてであるが、大阪教育大の調査では次のような結果が出ている。第1位は教育実践報告で35%に達し、電子図鑑・画像資料(21%)、教育用ソフトウェア(20%)、国内地域交流の相手(19%)、学習用電子百科事典(17%)が続いている。
 この結果はインターネットを教育に活用しようとしている現場の実態を如実に表しているように思われる。つまり、学校としての総務的・分掌的な活用や他校・地域とのコミュニケーション機能の必要性も大事であるが、既存の教科の枠内での活用をはかりたいという願望があるということである。つまり、使える教材やソフトウエアに対する情報が不足している、または情報が取得しにくいということがいえるのではないだろうか。実際に「高校数学」という中で教材を探そうとしても、なかなか大変である。のちほど、そうした情報のうち私が巡り合えたものをいくつか紹介するが、情報を簡単に取得するまでにはなかなか至っていない感じを、私自身は持っている。これに対する傍証として、阪教大の解説の中では「自由記述欄に学習指導要領に準拠した教科別のデータ集、リンク集を指摘する声が多かったことがあげられる」とも述べられている。
 また、この結果の中で注目すべき点は第1位にあげられている「教育実践報告」である。今までの現場の中における教育では、過去の実践報告が次に生かされるということはなかなか難しいものがあった。なぜなら、そうした実践報告が蓄積されていないか、または研究会に参加する一部の教員でのものでしかなかったからである。今の実践が次の実践へ、そうしたつながりが今までは起こりづらかった。学習への教材としての活用と同時に、そうした教育実践が、広範な地域から簡単に得られることができれば教員自身の指導力アップにつなげることができるであろう。
 こうした様々な要求は、「プロジェクト主導だけでは納まりきれないニーズ」が明らかに発生しているといえる。もはやインターネットは「試行」の段階から「実践」の段階へと推移しつつある。

<要求される教育・学習情報>
「インターネットと教育利用の現状'97.1」大阪教育大学Webページより