「数学」教育にしぼったWebページ
3_1 公開されているWeb
さて、 「数学」教育という観点で公開されているWebページにはどんなものがあるのであろうか。既にかなり多くのページが多岐にわたり公開されている。インターネットの教育利用についても全国様々な地域で試みがなされている。そうした情報を簡単に手に入れられるメリットがアクセスする側には存在し、まさに「資料庫」としての役割がある。また、発信者側にとっての「公開」のメリットはどこにあるかというと、公開すればそれについて関心を示す人が存在するわけで、メールの併用により様々な連携や議論が日常的に可能になるといえる。つまり「情報化メリット」は発信者でないとなかなか享受しにくい点があるのである。
「数学」教育にしぼったWebページについて考えた場合、大まかに次のようなものが公開されている。
- 数学教育に携わる人のためのガイド
教師や教育研究者が主として公開しているもので、次のようなものがある。
- 学会・協議会・研究会等の組織で公開しているもの
- 大学・研究所等で公開で公開しているもの
- 論文・口頭発表資料・教育実践記録等の公開
- 書籍・ツール等の公開
- プロジェクト、講演資料等の公開
- 数学教育リンク集
残念ながらまだ高等学校の数学教育に関わる研究会やプロジェクトに関わるものは少ない。愛知教育大学や上越教育大学などのような教育大学関連のものや、「全国インターネット教職員リストフォーラム」や「教育に関する会議室」などのような教育に関する情報交換の場を設定するプロジェクトなどが中心となっている。先に見た現場でもっとも必要とされる「教育実践報告」については、「数学科におけるインターネットの活用(MATH-CUT STUDIUM)」、「GCワールド−授業実践−(愛知教育大学数学教室)」などがあるが、数学教育に限った場合、まだまだ不足していると思われる。
- 数学の題材に関するもの
- 学習用の教材に促した題材に関するもの
- 学校のカリキュラムにとらわれない題材に関するもの
- 教材データベースに関するもの
- 数学オリンピックや入試問題に関するもの
- コンピュータソフトを用いたりその普及に主眼をおいたもの
数学の様々な題材をネット上で公開しているものも多い。学校の学習の延長線上にあるものから、学校の学習にはとらわれないものまで様々である。「中学生でも解けるぞ!特選・大学入試問題集」(数学のひろば)ではちょっとした知識があれば解くことのできる大学入試問題を集め、ヒントや解答などが載っている。その一方で、教育大生が公開している「ししゅう画をつくろう!!」などの様に数学(算数?)をやさしく解説しているものもある。分野は様々であるといえる。
ソフトウエアを主体としているものも少なくない。「数学教育とテクノロジー(IES)」や「教育用ソフトウェア 先生のためのソフトウエア情報(日立中部ソフトウェア) 」などソフトウエア会社が主体となっているものの他に、個人で教材を作成して公開しているものも多い。そのほとんどは自分で作成したコンピュータソフトの公開やダウンロード等による普及が主となっている。「関数グラフシュミレーションEureka」での関数グラフシミュレーションソフトの公開配布や「好きです!JAVA」のように、Java等で作成したものの公開など多彩である。
ソフトウエア以外の数学の話題を主体としているものもある。例えば、円周率πに関わる題材でも「円周率を音符で表現したらどんな音楽になるか」、それをネット上で再現してみたり、「数学の部屋」や「和算の館」、「遊びと数学」、「数学の見える丘」などネット上では様々な視点から数学をとらえる題材がころがっている。一部の限られた地域・人だけでは手に入れることのできないような、そうした題材の取得をネットは可能にしてくれるといえる。
中には興味をひくような題材もあり、そうしたもののリンク集・データベース化が望まれるところである。「数学博物館」や「こねっと・ワールド 教科別索引高校数学」などそうした方向性を目指しているページもある。しかし、既存のリンク集ではジャンルの幅が広すぎたりして、“数学の教材”に絞ったものはまだまだ少ないのではないのであろうか。
- オンライン授業に関するもの
青塚剛志の「高校生のための公開講座」ではレベルに合わせた問題が出題されていて、個人で開いているページにしては十分楽しめるといえる。
北教大岩見沢校の「Online Class」はネット上での講座を開き、メールでの試験や電子会議室での質疑応答などがなされている。このページの受講ガイドの中でオンラインのメリットとして、次のように述べられている。
- 自分の理解力ににあわせた学習ができる
- 好きなときに、好きな場所で学習ができる
- マルチメディア教材やインタラクティブな学習教材など良質な教材を用いた学習ができる
また、「ネットクラスルーム」や「てんぐ倶楽部」などのような商業サイドのものは、既にかなり多く公開されている。
私が知り得ただけでも既に様々な形で公開がなされている。こうした中でいくつかの点について指摘してみる。
- 数学教育に限定した研究会・プロジェクトの不足
- 興味を引くような題材のリンク集・データベース化の必要性
- インターネット・コンピュータを主体としたものが多く、教科指導を中心とした「教育実践」を主体としたものが少ない
自分にとって必要な情報は何なのか。われわれがどのような題材をどのような形態で用いるのか、また本当に効果的な形で用いることができるのか。それとも、まだ活用できる情報が少ないのか。いろいろな吟味や議論がこれからも必要であろう。また、それを生徒に還元できるだけの「情報量」を持ち、教師自身がいかに「情報活用能力」を身に付けていくかもこれからの課題である。いわゆる「学習のコンサルタントデザイナー」としての役割も教師に必要とされる時代になってきた。
3_2 数学教育への利用の形態
それでは、数学教育へのインターネットの活用法にはどんなものがあるのであろうか。橋場弘和の「数学教育におけるインターネットの利用」('96)の中では、次のような提唱がなされている。
- 数学教育の素材(教材・指導案・実践記録など)の蓄積
- インターネット上に散らばる、数学に利用できる多様な素材の発見
- インターネット上の数学教育の素材を利用した教育実践
- VRMLやJavaなど、新しいインターネットの技術を使った教材の試作
- 数学教育におけるインターネットの可能性を探る議論
この中では数学に関する様々なトピックスのみならず、実践記録までも“素材”として語られている。
それらを蓄積、取得、実践し、そしてそれを検証することの必要性をうたっているといえる。そうした“素材”にまず目をむけることが大事であり、数学教育にどのようにこれから生かしていくべきかを探ることから始めるべきなのであろう。
現実問題、数学の一斉学習の中にインターネットを活用しようとしても今の現状ではかなり無理がある。それは、
- ネットの持つ「地域性不依存」「時間的不依存」「人的不依存」という特性に適応しない
- 「数学」の一斉学習の中では「調べ学習」的な要素は適応しづらい
- ネットワーク上での数学教材に関するデータベースが整備されていない
- シミュレーション型で「発見学習」的に用いることができるJavaやVRMLに関する教材が少ない
- 生徒が全員で活用するためには、機材の整備や速さ・費用等を含めた環境面で問題がある
など、様々な要因があると考えられる。しかし、視点を「指導する教師側の教材開発・指導法の研究」という観点からと「学校の一斉授業という枠を取り払った学習」という両面から考えてみた場合、現状でも様々な可能性を秘めているといえる。それは、橋場弘和の提唱にも共通するものがあると思われる。
まず教員の側にたった場合、様々な教材や実践記録などを享受できると共に、互いの実践を比較したり検証したりすることが可能である。「数学におけるインターネットの活用(MATH-CUT STUDIUM)」や「新潟インターネット教育利用研究会(NICE)」、「和歌山大学教育学部付属中学校」をはじめ、各県の数学研究会での公開も相次いでいる。また、「教育に関する会議室」などのように先生同士の情報交換を設定するなどの試みも始まっている。今のこの実践を次にも生かしていく。限られた地域だけでは得られない情報。ネットをまず教員自身が活用する価値は十分あるのではないであろうか。
次に学習者の側に立った観点で考えてみよう。昨今、情報化や社会の変化に伴い数学の必要性が増してきているにも関わらず、生徒たちの数学離れが確実に進んできている。その原因の一つとして、これだけ世の中のマルチメディア化が進んでいるにも関わらず、学校の一斉授業の中ではそうした現実に対応しきれていない側面があるといえる。生徒の実態に迎合しなければいけない、などということは決してない。しかし、生徒の持つ興味・関心が多様化している現在、何らかの方法でそれらに対応していく必要もあるのではないであろうか。生徒が自分の問題・関心のある場面を広げながら学習し、自分のペースで進めていく、またはフィードバックする。そうしたことをネットは可能にしてくれる。
「インターネットは数学教育を変えるか−自律的蓄積型データベースMathOn-line−」(旭川凌雲高校 奥村稔)の中で次のように述べられている。
教師が行う授業の内容と生徒が学習すべき内容とは、一般的には同じではない。普通はそのギャップを埋めるのに生徒は苦労するのだが、そこで用いられるのは参考書や問題集である。しかし、参考書や問題集で語られるのは到達すべき問題への解答方法であり、紙面などの制約からそれらがすべて数学が本来持つ内容を提示しているとは思えない。理解への道で出会う多様な間違いや、ちょっと横道にそれることが許されるような豊かな数学の世界が求められる。
一斉授業の中での学習はもちろん大事である。しかし、その中では補いきれない「数学に対する興味・関心」の芽を大事に育ててあげることは否定されるべきではない。生徒一人一人の興味や関心には、当然個人差がある。一人の教師が繰り広げる「教室での世界」では学べない世界がそこにはあるのではないだろうか。そのとき「探求学習支援者」としての役割が、教師には生じる。
3_3 研究組織としての活動
現在、教育関係のホームページとして公開されているのは、学校紹介を中心とした学校関係のものや大学・短大の研究室関係のものが多いようである。また「NICE」のように教育関連の研究プロジェクトも多く見かける。しかし、数学に関していえば研究組織や研究会単位で公開しているものは、まだまだ少ないのではないかといえる。
公開されている数学教育に関する研究会のページは主としてインターネットと教育の研究を中心としたものが多い。「教育とコンピュータ利用研究会(ACE)」のページの序文には、次のように記されている。
新学習指導要領の実施、5日制の導入等、21世紀を目前にしてわが国の教育が大きく変わろうとしています。また社会における情報化の急速な進展により、教育内容の精選、教育方法の高度化、多様化が求められています。教師には情報及び情報手段を主体的に選択し、活用していく力を身に付け、教育の質的充実を図ることが求められています。
ACEだけではなく、「Eureka Project」や「新潟インターネット教育利用研究会(NICE)」なども同様な趣旨と考えられる。このように“教育と情報化”を前向きにとらえ、これからの教育に生かしていこうとする研究会がネット上では中心となっている。
このほかに、「長野県数学会」のように長野県内の高校の教師が主体となって公開しているものや、「数学教育研究会」のように数学に付いてのいろいろな題材を研究しているところもある。
また、インターネットを教育に生かした実践を公開している「数学科におけるインターネットの活用(MATH-CUT STUDIUM)」、「GCワールド−授業実践−(愛知教育大学数学教室)」、「インターネットと教育(和歌山大学教育学部付属中学校)」なども、これからの情報化を見据えたページであろう。
しかし、これらもインターネットを主体としたページであるといえる。数学教育に関わる教師たちにとって、単にインターネットという範疇にこだわらず、日常の研究や実践の積み重ねの成果やノウハウを蓄積していくことのほうが大事であるといえないであろうか。
普段の研究会の発表そのものを、また特にコンピュータにこだわらず「数学」の内容を“素”のまま蓄積していくことのほうが将来的な広がりもあり、また内容的にも良いものが培われていくのであろう。
研究組織自体にとっても、これまでの貴重な実践による財産を次にも生かしていけるという大きなメリットがあるといえる。
また、インターネットを結ぶ全国の教職員リストを作成し情報交換の場とする「全国インターネット教職員リストフォーラム」や、教育に関する事柄を話し合うための「教育に関する会議室」などのプロジェクトもこれからは重要となっていくであろう。
愛知教育大学の飯島康之の「教育研究・実践のための情報発信基地のためのインターネット利用」の中で、教育現場全てをつなぐネットワークの可能性として次のような点を指摘している。
- 「時間や場所による制約」の解消
- 資料の送付等のコストの解消
- 「地域依存」から「研究テーマ依存」の研究グループの可能性
- 特別な日に開催する研究会から日常的なコミュニケーションへ
- 自分があまり自信がないことに関与することの削減
これからの研究会の在り方として、おおいに考えさせるところが多い。現場の仕事の中では時間的な制約も多く、なかなか研究会に参加したくても都合がつかなかったりする。また地域的に遠く、参加するのが無理だったりすることもある。そうした制約が解消されるという利点もあるが、逆に人と人との直接的なコミュニケーションが阻害される危険性があるということも念頭に置きながら考えていく必要があるであろう。