平成15年度からの新課程においては「数学B」のおいてのみ,コンピュータが扱われることになりました。内容としては「統計とコンピュータ」における資料の整理及び分析への活用と,「数値計算とコンピュータ」のおける簡単なアルゴリズム理解の2箇所です。つまり,これまで数学A,B,Cそれぞれあったコンピュータに関する部分は,数学Bの一部を除いて消えることになったわけです。
反面,新課程では新教科「情報」が必修科目として設置されることとなりました。普通科目「情報」は,様々な情報を活用するための知識と技術の習得を通して,情報に関する科学的な見方・考え方の習得すると共に,情報社会に主体的に参加する能力・態度の育成を目標としています。
こうした新教科登場の背景には,学校現場において"コンピュータを用いた教育"というものがなかなか浸透しない現実と,急速に進む情報化社会との大きなギャップが生じていたことが原因と考えられます。
ここで問題となるのは新教科「情報」の登場で,コンピュータを用いた数学教育の後退が危惧されることです。北海道においては平成12年度から14年度の3ヶ年で400名の情報の免許を持つ教員が誕生しますが,そのうちの4分の1から5分の1が教科「数学」の教員だと予想されます。現状においてコンピュータに興味・関心を持つ教員の多くが「情報」に流れるとなると,数学の授業の中でコンピュータを用いた授業がかなり減ってしまうことが予想されます。つまりコンピュータは「情報」に任せればいい,そんな雰囲気さえ生まれる可能性さえあるのです。
教科「情報」において習得した知識・技術や基本的な態度を他の教科へも効果的に活用していくことが当然理想です。しかし,次期新課程では実質的にコンピュータを扱う部分が削除され,現場の数学の少なからぬ教員が「情報」の免許を取得している状況を考えると,少ないながらも培ってきたコンピュータを用いた教育が後退するのではないかという大きな危機感を抱かざるを得ないのです。
3_2 進む校内LAN整備とブロードバンド化
そうした状況のもと期待されるのは「教育の情報化」プロジェクトによる校内LAN整備です。全ての教室にコンピュータとプロジェクタを設置し,インターネット接続を可能にするこのプロジェクトは,既に平成12年度から開始され3ヵ年で整備されることになっています。コンピュータやインターネットを『道具』として活用できる環境を作ることにより,「分かる授業」を目指そうとしています。
また道では平成14年度に道立学校298校全てと道立4教育機関を光ファイバーで接続するブロードバンド対応の環境整備事業に着手します。このブロードバンド化により,コンピュータ教室や校内LANにおける全パソコンから同時に高速なインターネット接続が可能となります。
こうした校内LAN整備やブロードバンド対応による環境整備が進むことで,学習形態にも当然大きな変化が生じることが期待されます。画像系の教育コンテンツをスムーズに取り出し,従前の形態では限界がある内容を視覚的に説明することで,より効率の良い授業の展開が可能になります。つまりインターネットを教材庫として,Web上から様々な教材を取り出し,提示することが可能になるのです。プレゼンでの授業が日常的になり,黒板とチョークだけであった授業の形態が遠い昔のこととなるかもしれません。
しかし,現実に目に見える変革があるかどうかは,生徒の理解力を上げたり,興味・関心を引き出すために,どれだけ"面白い"または"効率がよい"授業を行うことができるかどうかが問題だといえます。そのためには何が必要なのか。ハード的な環境整備が達成された場合,必要なのはそれを活用するだけのコンテンツがあるのかどうかが問題になってきます。
3_3 良質なフリーソフトの出現とそれを利用したコンピュータ利用の場面
手軽に教室でパソコンを用いたプレゼンテーションできる環境が整う中,数学用の機能性に富んだ良質なフリーソフトの役割も増加すると考えられます。
これまでも,コンピュータを道具として"ワンポイント"で活用する実践例は少しずつ増えてきていました。それを可能にしたのは,良質なフリーソフトの出現とネット上からの配信です。ネット上からいつでも最新のものを簡単に手に入れることができ,またフリーとは思えないような優れたインターフェースを備えているため,誰でも簡単に操作することができるのです。こうしたフリーソフトは,指導の効果を高め,よりVisualで分かり易い授業を実現させました。グラフ作成や平面幾何,3次元空間,アルゴリズムなど,ソフト毎の利点を生かして,その場面場面に適した使い方が容易にできます。校内LAN環境の整備に伴い,こうしたフリーソフトを用いた実践例の蓄積も今まで以上に重要になっていくでしょう。コンピュータは道具から環境へと変化していくのです。
3_4 不足するコンテンツ 〜求められる教材のデータベ−ス化
こうした「教育の情報化」のための校内LAN整備やブロードバンド化には,機器の設置やインターネット整備などの環境整備がきちんと進むのか,またシステム管理をどうするか,など残されている課題も多いといえます。しかし,それ以上に大きな問題点は教育用コンテンツをどうするのか,という点です。
既にWeb上では様々な情報が公開されてはいます。しかし,欧米に比べるとその絶対量は圧倒的に少ないといえます。特に生徒用向けの教材や教師向けの授業に使える教材,実践事例など,コンテンツ不足は明らかです。
検索サイト(infoseek)の日本語サイトで「高校数学」で検索しとところ,3,000件弱のサイトが検索されたのに対して,英語サイトで「school mathematics」で検索すると750万件をこえるサイトが検索されました(2001.1)。どれだけ有用なサイトであるか,という質の問題もあるであるでしょうが,圧倒的なコンテンツ不足は明らかです。これは技術や量の問題ではなく,一種の文化の問題であり,慣習の問題だとも考えられます。
大阪教育大学の教育情報リンクリスト「インターネットと教育」の調査結果('99)では,インターネット上で不足している教育・学習情報を質問した結果,圧倒的に多いのが「教育実践事例報告」(38.5%)です。,この傾向はここ数年変わっていません。そして「学習指導案・授業案」が29%でこれに続いています。現場の教師のニ−ズが教育実践事例報告や学習指導案・授業案など,実際の現場に直結するような情報にあるわけですが,まだそれが十分に供給されていないのが現状だといえます。
現場に即したコンテンツをいかにして構築していくか,そうした「構築手法」自体の開発・普及の研究が必要でしょう。
3_5 人的なネットワークの必要性 〜ともに数学教育について考えてみませんか
「数学教育実践研究会」は平成6年1月に,札幌市内の高校の数学教師を中心として設立されました。その背景としては,情報化や社会の変化に伴い数学の必要性が増してきている反面,子供たちの数学離れが確実に進み,決して楽観視できない状況になってきたことや,新指導要領のカリキュラム改変に伴う多様化する数学履修内容の現場サイドへの対応の苦悩があげられます。
学習指導要領では,「情報化社会における数学教育の多岐にわたる必要性」が強調され,従前の「体系的に組み立てていく数学の考え方」のみならず,併せて「それらを積極的に活用する態度を育てる」という主体的かつ意欲的に取り組もうとする態度の育成が重点に置かれています。本研究会はそれを踏まえつつ,「高校数学で扱う教材およびそれらの関連性を分析し,生徒達に効率よくその教材のもつ本質的意味を理解させる」ことを目的とし,あくまで「教材の研究分析」に力点をおいた活動を展開しています。
ホ−ムページ「数学のいずみ」には様々な意見がメールで送られてきます。内容もとても熱心なものが多いといえます。これまでは地域的な問題や時間的な制約などもあり,研修をしたくてもなかなかできない人も多かったのではないでしょうか。そうした制約をネットは解消してくれます。数学には無限の楽しさがあるのです。そんな面白さを生徒にも伝えたい。そのために自らも数学の題材を研究していく。是非,数実研に参加して共に活動しませんか。また,会に参加しなくてもメーリングリスト「izumi」を運営していますので,是非そちらに参加されることを期待します。
→「メーリングリスト「izumi」に参加しませんか」
http://www.nikonet.or.jp/spring/ml_izumi\ml_izumi.htm