現時点で授業に使用できるフリーウェアのツールの中から下記の3本をその教材作成例と共に紹介します.いずれのツールもその開発者の熱意が感じられる素晴らしいソフトです.
またこれらのツールを効果的に使うには,教材研究における授業要点を明確化し,それぞれのソフトの特性を把握したうえで使い分けていくことが重要です.
ソフト名 | Function View | Grapes | Geometric Constructor/Win Geometric Constructor/Java |
Version | ver.4.43d | ver.6.00 | ver. 1.7.2 |
著作権者 | 和田 啓助 (群馬県桐生工業高等学校) |
友田 勝久 (大阪教育大学附属高等学校池田校舎) |
飯島 康之 (愛知教育大学数学教室) |
使用OS ※開発言語 |
Windows95, 98, Me WindowsNT, 2000, XP ※Borland Delphi |
Windows95, 98, Me WindowsNT, 2000, XP ※Borland Delphi |
Windows95, 98, Me WindowsNT, 2000, XP ※GC/Win〜Visual Basic GC/Java〜Java |
ホームページ URL |
http://hp.vector.co.jp/authors VA017172/index.htm |
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/ ~tomodak/grapes/index.html |
http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/ teacher/iijima/gc/ test-gcwin/download.htm |
用途 | 関数グラフ表示 | 関数グラフ表示 | 図形作図ツール |
再配布の条件 | 再配布自由 | 再配布自由 (条件付き) | 研究目的以外の配布禁止 |
2_1 作図ツール「GeometricConstructor」
2_1_1【特 徴】
GCは単なる「演示型(シミュレーション)型」ソフトではありません.勿論そのようにも使えますが,「発見学習型」「問題解決型」などの多岐にわたる学習形態で授業を展開する際にも有効です.勿論,その際に教材の分析,発問の仕方などをトータルに考えていく必要があることは言うまでもありません.これまで中学校で扱われてきた図形に関する教材が平成15年度からの新カリで高校へ移行してきますが,この図形分野を扱うツールとしてGCは実績をあげてきています.以下GCマニュアルより特徴の抜粋です。
2_1_2 【教材作成例】
《例1》垂直2等分線の描く軌跡〜包絡線による2次曲線の描画 |
(発問1)「Fig.1で点Aを左右に動かすと何が見えてきますか?」
(Fig.1) |
(発問2)「点Aが円周上を動かすとき,何が見えてきますか. さらに円の位置を変えるとどうなるでしょう」
(Fig.2) | (Fig.3) |
<作成手順概要>
■[Fig.1]点Aを直線上で左右に動かす
■[Fig.2],[Fig.3]点Aを円周上で動かす
《例2》w=1/zによる変換で複素数zはどのように変換されるか |
これは1_6で作用素としての図形変換を十進Basicで行った教材です.この変換は「単位円に関する共役反転変換」になっており平行移動,回転などとは異なり生徒にとってイメージしにくい教材です.この変換についての理論的側面は次のレポートが参考になります.ではこの教材のイメージ化をGCで行ってみましょう.
→「メビウスのわだち」(中村文則) http://www.nikonet.or.jp/spring/mebius/mebius.htm
(発問1)「点zが直線上を動くときの像1/zの軌跡は」
(ア)直線が原点を通らないとき
(イ)直線が原点を通るとき
(発問2)「点zが,円周上を動くときの像1/zの軌跡は」
(ア)原点が円の外部にある場合
(イ)原点が円の内部にある場合
(ウ)原点を通る場合
発問をしてからの考える間を大切にしたいものです.この段階ではのような数式ではなく,実際に生徒自身が点を動かすことでイメージをつかませたいところです.(Fig.4)
数式はその後で理論補強をする場面で登場する訳です.
<作成手順概要>
■[Fig.4]点Aを直線上で左右に動かす
■[Fig.5]点zを円周上で動かす
現在GCはネットワーク環境での使用を積極的に推進しており,使用するパソコンに依存しないJavaで作成したヴァージョンがあります.これにより,インストール作業を必要としない形での利用が可能となっています.パソコンにインストールするソフトを制限されている場合などにおいてもネットワーク環境があればどのパソコンからでもGCが授業で使えます.前出の「GC
Forum」では,すぐに体験できます.
またGCの基本的は操作については,次のレポートにも参考にしてください.
→「Let's enjoy using GC」(菅原満) http://www.nikonet.or.jp/spring/gc_ex/gc_ex.htm
2_2 グラフ表示ソフト「Grapes」
2_2_1【特 徴】
GRAPESは,パソコンの画面上に陽関数,陰関数,媒介変数表示の関数および極方程式のグラフを描き,それを様々な角度から調べるためのソフトです.特に分かりやすいユーザーインターフェイスと,グラフ上での細かな指定が可能なため高い表現力を持ち,基本機能の充実とともにプレゼンテーション能力が非常に高いソフトです.以下に特徴をまとめておきます.
2_2_2 【教材作成例】
Grapesは,後述するFunctionViewと同様にグラフ描画ツールとして,すでに全国的に利用されているソフトです.その授業実践報告も多数発表されています.ラベルへの数式挿入,スクリプトの実行など工夫次第で何でも出来てしまうのがGrapesの特徴です.スクリプトを使ったプレゼンテーション型教材を作成してみましょう.
《例1》「不等式の表す領域と解の実数条件」 |
「点P(x , y)が原点を中心とした半径1の円の周および内部を動くとき,点Q(x+y, xy)の動く領域を図示せよ」
解)x+y=u,xy=vとおくと,
x2+y2=u2-2v≦1…@,
t2-ut+v=0の実数条件よりD=u2-4v≧0…A
よって求める領域は右図.
生徒は@は大丈夫なのですが,Aの実数条件を忘れることが多く,「x, yがどんな実数をとっても表しきれない(u, v)がある」または「u, vが実数であってもx, yが実数とは限らない」などと説明しても釈然としない様子です.
To see is to believe. Aの実数条件をイメージ化してみましょう.新しい思考パターンを身に付けるには試行錯誤が必要です.生徒は教師のシナリオどおりには理解してくれません.
提示用教材は「これだ!」と思ったときに"短時間で作成可能"であることが重要です.授業のなかで数分間しか使わないプレゼン教材を数時間もかけて作成するのでは,日常の教材研究に逆効果になりかねません.準備時間は短時間でできることにこしたことはありません.
Try and errorをする場面も設定しておくとよいでしょう.それには"点のドラッグ"を利用します.
では,機能を確認しながら作ってみましょう.
<作成手順概要>
さらに,次の改良を加えてみます.
(a)点Pを移動方向を制限する
■ドラッグモード
■パラメータを使って動かす
(c)点Pの座標をラベルに表示する
(d)スクリプトによる自動実行
Grapesの特徴の一つにこの簡易スクリプトがあります.これを使って「不等式の表す領域と解の実数条件」の提示用教材を作成すると次のようになります.
メモエリアへの記述内容 //で始まる部分はコメント文 |
<B><L>《不等式の表す領域と解の実数条件》</L></B> 点{P(x,y)}が原点を中心とした半径1の円周上および内部を 動くとき,点{Q(x+y,xy)}の動く領域を考えてみましょう <Green>@点{P}をドラッグしてみましょう A半径{k}変化させて周上を動かしてみましょう B最後に平面上の点を全て変換してみましょう</Green> #//初期化 #k := 1 #Px := 1 #Py := 0 #draw /描画/ #ClrAimg //残像消去 #------------------------- #//円周上を動かす(半径固定) #for t := 0 to 2 * Pi step 0.2 # Px := k * cos(t) # Py := k * sin(t) # draw #next t #t:=0 #Px:=k*cos(t) #Py:=k*sin(t) #draw #------------------ #//円周上を動かす(半径Auto) #ClrAimg #for k := 1 to 0.2 step -0.1 # for t :=0 to 6.28 step 0.2 # Px := k * cos(t) # Py := k * sin(t) # draw # next t #next k #Px := 1 #Py := 0 #draw #------------------ #//平面全体を変換する(原像あり) #ClrAImg #for t := 2.5 to -2.5step -0.2 # for s := 2.5 to -2.5 step -0.2 # Px := s # Py := t # draw # next s #next t #Px :=1 #Py :=0 #draw #--- #------------------ #//平面全体を変換する(高速) #ClrAImg #for t := 3 to -2.5 step -0.2 # for s := 3 to -3 step -0.2 # Px := s # Py := t # calc //描画せずに計算のみ # next s # draw #next t #Px :=1 #Py :=0 #draw #--- #HideScript // #On k Change //変数kが変化したとき実行する #Px:=k #Py:=0
Grapesの表現力の高さを利用して2次関数のグラフの一般形での係数の意味を考えるゲームを作ってみましょう.
《例2》 の係数を変化させて与えられた放物線に一致させるゲーム |
Grapesでは,「メモ」機能で数式や変数の値を表示させることが可能です.また,データパネルの部分的な表示・非表示も可能になっています.
<作成手順概要>
2_3 関数グラフ表示ソフト「FunctionView」
2_3_1【特 徴】
前出の「Grapes」とほぼ同様の機能を持ちながら,さらに次のような機能を備えています.
解析的表現が主体のGrapesにGCの作図ツール的機能を付加したグラフ作図ツールといったソフトになっています.このため,教材作成にかかる時間が軽減されて使いやすいソフトになっています.
この機能を使った教材作成例を紹介します.
2_3_2 【教材作成例】
《例1》2定点A(0, 6),B(9, 0)と円x2+y2=9の周上を動く点Pがある.このとき,△ABPの重心Gの軌跡を求めよ. |
通常この教材では△ABCの重心をなどのように解析的に表現して設定する必要がありますが,FunctionViewでは「△ABCの重心」という図形的表現が可能です.
<作成手順概要>
<プレゼンテーション概要>
3つのフリーソフトにはそれぞれの特徴がありますが,これらのソフトに共通していることは現場の授業で培われた意見を吸い上げて,日々バージョンアップを重ねていることです.各々の作者とも校務を抱える中での作業は並大抵の労力ではないことと察し敬意を表します.
教材研究の最中に「ちょっと精確に図(グラフ)を描いて調べたい」という要求を満たしてくれることは,授業のみならず個別指導のときにも威力を発揮します.また,日常的なプリント教材作成の際も工夫次第で手軽かつ精確な図(グラフ)を挿入できます.是非一度,手近なパソコンに入れて使ってみてください.