毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-04 1992.8.19(Tue)

★深淵なる円周率(π)の渾沌(カオス:khaos)からの誘い!!★

今回は円周率の話をしよう.円周率は君達にもなじみの深い物の一つだろうが, 以外と知られていないのが現実だ.π=3.14は知っているだろうが,π=3.14は世を忍ぶ仮の姿.しかして,その実態は….右表を参照の事(円周率π 2,500桁).これも,πの姿のごく一部でしかない.πは無限に続く数の列である.そして,その真の姿を見た者は未だに誰一人いない.

〜深淵なる物〜それは円周率である.無限に続く円周率は,その無限の深淵から我々に静かに,しかし,確実に,そして熱いメッセージを送り続けている.君達が知らないのは,円周率の声を聴こうとしていないからだ.円周率の誘い声は,甘く魅力的ではあるが,誰にでも聞こえる誘い声ではない.数学に魅かれ,円周率に魅かれ,そして,精神の澄んだ者のみが,その甘い声を聴くことが出来る.君達の精神は果して澄みきっているだろうか?

円周率の真の姿を捕らえようと,古代より幾千人もの人々がπに挑んできた.しかし,誰一人その姿を捕らえた者はいない.いつもいつもそうだ.πはいい女のように,抱きしめられるなと思った瞬間,腕の中からスルリと逃げていくんだよ.(ちょっと例えが,俗だったかな.)でも,本当にそんな感じなんだよね.(ところで,いい女てどんな女なのかって?男子も女子も興味があるでしょうが,その話はいずれまたの機会にしましょう.)

俺も,一時期円周率の魅力に取り憑かれたことがあったが,その深淵なる深みに足を捕られ,もがき苦しんだ事を覚えている.どんなに追い求めても,追い求めきれない苛立ち,どんなに恋焦がれても,手に入らない悲しみ.それでも,胸の中に湧きい出る円周率への憧れ.君達には理解できるかな?もし,理解できたら,君達は既に,円周率の甘く,優しい誘い声が聴こえているのだろう.そして君達はその円周率の渾沌たるカオスに悩み苦しみ,自分の力のなさを嘆き悲しむのだろう.

では,少し真面目な話をしよう.

円周率πは,W・ジョーンズの著書の中で,はじめて使われた.1706年の事である.π自体,『周囲』という意味のギリシャ語περιψερειαの頭文字を利用した物である.

現在最古の数学書といわれる古代エジプトの『リンドのパピルス』には,πの値は示されていないが,円の面積を「直径からその1/9を減じた長さの2乗」と述べている.すなわち,円積率は64/81となる.円積率の4倍がπであることを知っていたとして,256/81,すなわち,3.16049…がπの値である.『リンドのパピルス』は紀元前2000年頃の巻物であるが,筆記した僧アーメニによれば,さらに1500年以上さかのぼるという.

歴史上の各国の円周率の値を調べてみると,次のようになる.

バビロニア :紀元前2000年頃,25/8

ヘブライ  :紀元150年頃, 22/7

古代ギリシャ:アルキメデス(287-212,B.C.)によれば,211875/67441

古代中国 :劉 (9A.D.頃), 3.154

王 (9A.D.頃), 3.14

祖沖之 3.1415926<π<3.1415927

江戸初期日本:3.16

次に,現代の円周率計算の進歩を述べると,次のようになる.現代は全てコンピュータに計算をさせて,その有効桁数を競っているといってもいい.

実行年
正確な計算桁数
計算時間
 1981年
 1982年
 1982年
 1982年
 1982年
 1983年
 1985年
 1986年
 1986年
 1986年
 1987年
 1988年
    2000036桁
    2000050桁
    2097144桁
    4194288桁
    8388576桁
   16777206桁
   17526200桁
   29360111桁
   33554414桁
   67108839桁
  134217700桁
  201326000桁
  137.3時間
      不 明
      7時間14分
      2時間21分
      6時間52分
     30時間以下
     28時間
     28時間
      6時間36分
     23時間
     35時間15分
      5時間57分

 もし興味があれば,君達も円周率の渾沌を覗いてごらん!その深淵からの誘いに身をまかせ,渾沌たるカオスの中で人生などを考えてみるのも,また,一興かもしれないよ.

円周率の誘い声は,伝説のローレライのような歌声かも知れないな,きっと.

Printed in Tounn.1992.
Written by Y.O^kouchi.1992.
Copyright 1987,1992 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.