毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-11 1992.10.7(Tue)

★タイムパラドックス★〜『時間』の謎に迫る!!〜

前回でのパラドックスの話は理解してもらえただろうか?パラドックスは考え出すと泥沼のような世界に引きずり込まれてしまうところがあるのだが,それがまた面白いところでもある.いずれ,いまだに答が見つけられていないパラドックスを紹介しようと思っているのだが,その時にはおもいっきり考え,悩んでみてほしい.

今回は以前の4次元の話とも関連するタイムパラドックスについて話してみようと思っている.3次元に新たに時間軸を加えて4次元の世界を考えるのであれば,時間軸を移動してタイムトラベルも可能になるはずである.つまり,3次元世界でのタイムトラベルは不可能であるという事である.まあ,それはいいとして,SFなどにでてくるタイムトラベルの話は君達も何らかの形で知っている事であると思う.有名なのは,スピルバーグのBack to the Futureがある.

そこでである.今回はこのタイムトラベルについてもう一度しっかりと考えてみてほしいのだ!タイムトラベルができるものと考えて・・・.実はこの謎を考えていくと『時間』の正体の一端が浮かび上がってくる.

次のパラドックスを考えてみてほしい.

君が,タイムマシーンに乗って10年前の世界へやってきた.そこで,まだ5才の自分を見つける.もし,もしである.その5才の自分を君が殺したとしたらどうなるだろう?5才の君が死んでしまえば,10年後に15才になる君がいなくなるという事である.という事は,タイムマシーンに乗って10年後にやってくる君自身がいなくなるという事である.10年後にやってくる君自身がいなくなれば,5才の君を殺す事もできない事になる.今確かに5才の君を殺したのに,殺した瞬間に,5才の自分を殺せなくなるのである.この不可思議な現象をどう説明すればいいのだろう?

似たような事をもう一つ考えてみよう!今度は君があと10才年齢を重ねて25才になっていたとして,30年後の世界にタイムマシーンで行き,若い頃の自分の父親(母親)にあったとしよう.同じぐらいの年である.君と,母親(父親)が恋に落ち,本来は君の今の両親が結婚をしなければ,君が生まれてこないのに,君と母親(父親)が結婚をしたとしよう.その瞬間に君は生まれなかった事になる.という事は,30年後にタイムマシーンで母親(父親)を誘惑しに行った君がいなくなるという事である.誘惑しに行く君がいなければ母親(父親)は,本来の歴史通り,君の父親(母親)と結婚をし,そして君が生まれてくる事になる??ちょっと待て!!自分の親を過去に行って誘惑すると,自分の存在がなくなり,その結果自分が生まれてくる???これはどういう現象なんだろう???

次に,今度は君がタイムマシーンで60年後の世界に行き,75才の自分にあったとしよう.そこで,君が老いた自分自身に嫌気がさし,衝動的に75才の自分自身を殺してしまったとする.するとどうなるのか?別にどうもならない.75才の君が死んだという事実だけが残るだけでその世界に対しても,君自身に対しても何一つ矛盾が起こるわけではない.その世界で,60年後の世界で15才の君が殺人犯として追われるだけの事である.

殺人犯として追われる君は,まずいと思いタイムマシーンで現在に逃げ帰ってくる.たとえ衝動的とはいえ,たとえ自分自身とはいえ,人を殺してしまったというその罪の意識が君の良心を襲い,君自身をぼーぜんとさせていた.うつろな足どりでタイムマシーンを降り,気分を変えようと外にでて歩いていくと,君は赤信号を見落とし,車に跳ねられてしまった.即死である.ここで,初めて矛盾が起こるのである.15の君が自動車事故で死んでしまったならば,75才の君は存在しない事になる.なにしろ15才でこの世とおさらばをしてしまったのだから!75才なんかになれはしない.であれば,75才の自分を15才の君が殺す事も出来ず,ましてや罪の意識にさいなまれて,事故に遭う事もなかったのである.つまり,75才の自分を殺した事については,矛盾はないが,戻ってきて15才で死んでしまうと,75才の自分がいなかった事になり,いなければ,殺す事も出来ずに,そして罪の意識も感じず事故で15で死ぬ事もなかった事になる.つまり,事故死をすると事故死しなかった事になる.これはどう説明したらいいのだろう???

本当にタイムマシーンが出来たら大変な事になる.悪用するつもりはなくてもタイムマシーンを使うという行為が歴史をぐちゃぐちゃにしてしまい,パラドックスだらけの世の中になってしまう.上の問題すら解決できないのに,こんな問題を一人一人が抱え込んだらみんなが自殺したくなるであろう.しかし,パラドックスだらけになってしまったら,自殺しても,自殺できないという事もありうる.????考えるな!!考えたら本当に分からなくなるぞ!!まあ,それも面白いのだけれど.

ところで,上のタイムパラドックスの話を考えてみて一つ気が付く事はないだろうか?そう,矛盾が起こるのは,説明のつけられない事が,現象が起こるのは,実は共通している時に起こるという事に気が付かないだろうか?

タイムトラベルをしても,タイムパラドックスが起こる時と,起きない時がある.いつ起きて,いつ起きないのか?過去にタイムトラベルをすると,必ず矛盾が,説明できない現象が起こるのである.しかし,未来へタイムトラベルする分には全く矛盾は起こらない.それこそ何一つ矛盾しないのである.

ではSF作家はどうやってその矛盾点を,タイムパラドックスを解決しているのか?全く無視したり,あるいは,自分自身には遭えないという都合のいい設定をしたり,時間には自己修復機能があり,多少の事をしても歴史は変わらないんだという設定をしたり(これなんかはかなり自分かってな設定であるけれども)して話を書いている.だが,厳密に言えばおかしな事だらけである.ドラエモンの話もそうである.スピルバーグのBack to the Fu-tureもそうである.ドラゴンボールもそうである.だからといって,あまりにも厳密に論理的に話をつくろうものならば,心が踊るような,わくわくするような,手に汗握るそんな冒険活劇が作れないし,厳密過ぎて,堅い話は面白くない.

ちょっと話がそれてしまったが,これまでの話の中で一つだけであるが,『時間』の持っている性質が分かったのではないだろうか?君達は気が付いていないかな??もう一度頭を冷やして,最初から最後まで読んでくれれば,時間が持っている性質,特徴が一つ見えてくるはずである.

そう,賢い子は気が付くはずである.『時間』は,一方方向にしか進めないという特徴があるという事である.我々3次元の世界では,縦も横も高さも全てが,どちらの方向へも移動可能であるのだが,つまり,右へも行ければ,左へも行けるし,前にも行ければ,後ろへもさがれる.上にも行ければ,下にも行けるのである.移動のついての制限は全くないのである.ところが,『時間』は移動の制限があるのである.つまり,順方向,未来へとしか移動できないのである.タイムパラドックスが起こるという事がその『時間』の一方通行の性質を如実に表している.もし,『時間』が双方向への移動が可能であるのならば,過去への移動に関して矛盾は起きないはずである.そう,未来への移動の時のように.

現在『時間』については,全てではないし,ましてかなり,とも表現できないが,いくらか物理学の世界で解明されている.らしい.らしいというのは,俺自身良く分かっていないからである.『時間』というものが.まあ,俺はしがない一介の数学教師である.理論物理学,量子物理学を振りかざし,『時間』という怪物に挑んで行く事もできないから仕方がない.

もし,本当に『時間』という謎に興味があるのであれば,物理学の世界へ足を踏み入れるしかない.まあ,道内では北大ぐらいであろう,時間の謎に迫れるとすれば.できれば,首都圏の東大あたり,あるいは関西の京大へでも行かなければダメだろうが.もし,もし本当に興味が持てたのならば,自分の生涯をかけるに値する仕事であるから,今からなりふり構わず勉強し,気違いだと呼ばれてもいいから,『時間』に挑んでみてほしい.量子物理学は確かに強力なアイテムであるが,誰もが使えるものでもなければ,誰もが手に入れられるものでもない.だからこそ,そのアイテム,量子物理学を手に入れた者は,神秘の怪物『時間』に立ち向かわなければいけないし,立ち向かうチャンスが与えられた事になるのである.挑めるのであれば,挑んでみたいよね!!そう思わないかい??

『時間』の謎は永遠かもしれない.もし,この世界に永遠なものがあるとすれば,それは『時間』であろう.

Printed in Tounn.1992.
Written by Y.O^kouchi.1992.
Copyright 1987,1992 MAT Inc.
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