毎週水曜日定期発行 Weekly Mathematics Magazine | 《数学通信》
MAT-19 1992.11.11(Tue) |
★タイムパラドックスに挑むパラレルワールド★〜枝分かれ宇宙論を展開する!!〜
MAT Information第13号に続いて,再びタイムマシンの話をしよう.
覚えているかな?タイムマシンを存在しないのだという事を,もし,存在したら,そして,過去への時間旅行が出来たとしたら様々な矛盾が起こるという事を,前回は話したよね.
今回は,タイムマシン存在の立場で,時間は逆行できるんだという立場でタイムパラドックスに挑んでみたいと思う.さてさて,これからの論理は,果たしてタイムパラドックスを打ち破る事が出来るのか?そして,時間という不可思議な化け物の正体をつきとめる事が出来るのか?どこまで出来るかは分からないが期待していてもらいたい.
まずは前提として,タイムマシンは存在するのだとする.時間旅行は,過去への時間の逆行は出来るのだとする.
すると,13号で話したような矛盾,タイムパラドックスが起こる.だが,その矛盾,パラドックスを解消する理論がでてきたら?矛盾が起こらないという事は,パラドックスが起こらないという事は,タイムマシンは実現可能という事になるし,時間旅行もできるという事である.
ここで登場するのが,パラレルワールド,いわゆる枝分かれ宇宙論である.つまり,我々の世界は,正しくは,我々と似た世界は,別の次元に無数に存在するという考え方である.つまり,時間をも輪切りのように薄くスライスして考えるのである.今の宇宙は今の宇宙として存在するが,1秒前の宇宙は1秒前の宇宙として,別の次元に存在するのである,という考え方である.理解できるかな?分かりやすくいうと(たいして分かりやすくなかったりするかも知れないが),時間というのは一過性の物ではなくて,同時進行的な物であるという事である.10年前の地球も今の地球も同じように存在し,今も10年という時間の流れの差を持って同時に歴史を作っているという事である.ただ,それは当然の事ながら,同一次元,同一空間に存在し得ないのだから,別次元,別空間にあって,確認する事が出来ないのだが.だから,時間を逆行する,あるいは時間を順行するという事は,13号で話した概念とは異なってくる.わかるよね?
13号で話した時間という概念は,時間は唯一の流れであって,その時間は一過性の物であるが故に逆行する事は出来ない.その概念に,考え方に基づいて考えると様々な矛盾が起きて,それがタイムパラドックスとなって我々を苦しめるのだという事であった.
だから,根本的に時間という概念の捉え方を変えてみるのである.時間とは唯一の物ではない.無数に,無限に同時に進行する川の流れのような物であると捉えるのである.つまり,時間の流れは1本の線ではなく,それこそ,100本,1000本,無限本の線だと捉えるのである.であれば,時間旅行をするという事は,その時間の流れを,時間の線を,移ると考える事が出来る.それは2本並んで流れている川をボートで流れているときに,一方の川から,他方の川へボートを移すような物であると考えればいい.以前の考え方は,時間を逆行するという事は,1本しかない川で,急流を上流に遡っていくという考え方に例えれるよね.わかるかな?
さて,それでである.そのような時間概念で話を進めていくと,タイムパラドックスをもののみごとに解決する事が出来る.
では,早速タイムマシンに乗り込んで過去の世界へいってみよう.君達が10才年取っていて,25才の設定で20年前の世界へいく.そこで,君達の母さん(あるいは父さん)を誘惑して,恋に落ちたとする.さて,するとどうなる?13号の話では,将来生まれてくるはずの君が生まれない事になり,今いる自分の存在が消滅してしまう.すると,タイムマシンで時間を逆行してきた君がいなかった事になり,父さんと母さんは無事に結婚し,君が生まれる事になる.そう,自分の存在を消すと,自分が生まれてくるという矛盾が起こってしまったはずである.これがタイムパラドックスであったはずだ.
ところが,今度は違う.25才の君達が20年前の世界で母さん(父さん)を誘惑しても君の存在は消えないのである.なぜならば,今という世界,次元と,20年前という世界,次元は全く別の物であるから,全く別の時間の流れの川だという事になるからである.だから,元の時間の流れの中では,ある日突然君は行方不明,それこそ,神隠しにあった事になっているのだ.しかし,そんな事も時間の流れとともに人々の記憶から消えていき,君の存在していた事すら忘れ去られてしまうのだが.(ちょっと話がそれてしまったね.)そして,新しい時間の流れの中では,君は突然の予期せぬ訪問者であるが,それはそれとしてすんなり受け入れてもらえるというわけだ.
ちょっと待て!!!そんな事をしたら歴史が変わってしまうではないか!!!そう考えてあわてる,あるいは怒り出す人もいるかも知れないが,それはそれでいいのである.本来,元の時間の流れと,20年前の時間の流れは別の流れであるのだから,同じ歴史をたどる必要も,必然性もどこにもないのである.君達が20年前に訪れた時点で,そこには新しい歴史が,新しい結幕が作られていくのである.つまり,君達が20年前に時間旅行をした瞬間に,新しい宇宙が,パラレルワールドが誕生した事になる.一方の宇宙では,君達の本当の父さんと母さんが結婚し君達が生まれているというのに,もう一方の宇宙では,君達と君達の母さん(父さん)とが結婚し,そこに新しい歴史が築かれていくという考え方である.わかってもらえるよね.
枝分かれ宇宙論というのは,時間を逆流した時点で,そこからの歴史が変わってしまうという考え方である.逆流した時点で新しいパラレルワールドが出来上がるという考え方である.こう考えれば,いわゆるタイムパラドックスは全て解決する.
この考え方はよく利用されているよね.例えば,ドラゴンボールなんかはそうだし,去年だったかな?映画化されたゴジラ(年末には最新作,ゴジラ対モスラが公開される.)なんかにもこのパラレルワールドの,枝分かれ宇宙論の考え方が用いられている.
どう考えるかは,時間の流れをどう捉えるかという事である.時間という物の正体が明らかにされない以上,我々の想像を超えられない.だが,正体がわからない以上どう考えられるかは自由である.
自由であるからこそ,夢が広がるとも言える.夢の広がりが未来を創り出すとも言える.
ただ,タイムマシンを実用化するためには,どちらの考え方をしてもかなりのエネルギーが必要である事はわかるよね.時間という激流を,豪流を逆行したり,順行したりするのであるから.そして,仮に時間を移動する高エネルギー源を手に入れられたとしても,その高エネルギーに耐えられるボディーを作る材質が必要になる.当然の事ではあるが.
まあ,要は今の所はタイムマシンは夢の又夢と言うのが現実的の所だと言う事だ.
でも,夢を見るのはいい事だし,楽しい事だよね.これから先の現実的な未来は,どう考えても明るい未来だとは言えない.解決できないような難問が山積みされていて,ただひたすらに滅びの道を歩み続けていくしか,道が人類には残されていない感じだ.
そんな中で,純粋な科学が,純粋な理論が,ひょっとしたら輝かしい未来を見つけだしてくれるかも知れない.儚い希望ではあるが.
本当に早く時間の謎を,時間の正体を突き止めてくれないだろうか?もちろんできる事ならば,それを俺がやりたいのだけれど,自分の力を知っている以上そんな途方もない事を言えないわけだし.でも,自分で出来ないからと,誰かがやってくれるのただ待っているのも,ものすごく辛いよね.自分の運命を他人に託しているようで・・・.
さて,今回の話はいかがでしたか?パラレルワールドを考えるという事は,時間という物の概念を根本的に見直すという事が必要になる.時間をいつも同じ物と捉えてしまうと,前回の考え方と,今回の考え方との間に矛盾が生じてしまう.いいかい?時間の正体がわからない以上,時間の捉え方もわからないと言う事を忘れてはいけないのだよ.
もし,君達が新たにタイムパラドックスを解消する時間の概念を見つけだしたらぜひ教えてもらいたい.それは一つの大発見につながるかも知れないから.
Printed in Tounn.1992.
Written by Y.O^kouchi.1992. Copyright 1987,1992 MAT Inc. MAT is Mathematics Assist Team Corporation. |