毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-20 1992.11.18(Tue)

★日常の中の数理−Part1−《バーコード》★

君達は,「数学なんか社会へ出てからは使わないや.」「数学なんか役に立たないじゃないか.」と思っているかも知れないが,それは大きな間違いである.現代社会を陰で支えているのは,まさに数学なのだから.数学はとても地味ではあるが,現代社会に無くてはならない重要な学問になっている.

現代のような情報化社会に於いては,あるいは,コンピューター社会に於いては,数学はまさに空気のような存在になっている.空気のような存在とは?誰もその存在に,あるいは存在価値に普段は気が付かないし気にも止めないが,それがないと生きていけない,そういう存在の事をいう.数学はまさに現代社会の空気である.

そこで,今日は君達に日常生活の中に浸透している数学の一例を紹介しよう.君達もご存じの通り,【バーコード】である.セブンイレブンやローソン,あるいはデパートなどで買物をした時に,レジがスキャナーを使って値段を読み取っている光景を見たことがあると思うし,実際に缶コーヒー等についているバーコードを見たことがあることと思う.

このバーコードには,2種類あって,図1に紹介するように,大きめの標準タイプと小さめの短縮タイプだ.

 どちらのバーコードにも下に数字が書いてある.君達はこの数字の持ってる意味あいについては知らない人が多いと思うし,又,どんな意味があるのか知りたい人も多いと思う.

標準タイプと短縮タイプとでは,それぞれの数字の持つ意味が違う.それぞれの数字の持つ意味については,図2を見てほしい.

 さて,このバーコードはJANシンボルと呼ばれ,JANシンボルは,アメリカを中心としたUPC(Universal Product Code)とヨーロッパの国際機関(EANA)のいずれとも互換性のある「共通商品バーコード・シンボル」として,規格・制定された物だ.

そして,このバーコードを工学的に読み取る仕組みがPOS(Point of Sale;販売時点情報管理)システムで実現された.このPOSシステムを実現させるためには,数学が陰で大きな働きをしているのだ.

ところでPOSとは?店頭のレジスターをコンピュータの端末と考えて,レジを商品が通ると,その商品がデータ化されてその支店の集計に,あるいは本店,管理本部へと集計されて送られるシステムである.つまり,今までは,各支店で月末にその月の売上を集計分析して,次の月には何が売れ筋の商品で,どの商品が売れ行きが悪くて,各商品をどれだけ仕入れればいいのかという事を考えなければならなかったが,このPOSを利用すると,各支店が独自に判断しなくても,レジを商品が通る度に,全てがデータとして(どの商品がどれだけ売れたか)本部にまで送られるので,各支店での売れ行き,売れ筋の商品,販売量が本部の分析室で直に管理できるし,各支店への配送量をダイレクトに決定する事もできる.そういう意味では,セブンイレブンやローソンのようなコンビニエンスストアーには最適のシステムといえる.最初にこのシステムを導入したのがセイコーマートだという事である.

それでは,どの様に大きな働きをしているのかというと,まず1つは,全ての会社と商品の記号化である.メーカーコードとアイテムコードで,どのメーカーのどういう商品かということがすぐに判断できる.次に,チェックシステムが完備されていることである.バーコードの一番最後のチェックデジットがそれにあたり,このコード1つで,印刷による不備,ゴミ,水などによるバーコードの劣化,が原因となる読み取りミスが検出できるのである.そして,これを支えているのも,数学の計算式である.

 更に3つ目.バーコードを読み取るスキャナーから発せられたレーザー光が必ずしもまっすぐにバーコードを横切るとは限らない.斜めに横切る場合も有り得るし,逆さに光があたることも有り得る.従って,レーザー光がバーコードを全部読まなくても,あるいはどちらから光があたっても,正確に読み取れるような工夫もしてある.それが,黒白のバーコード独特の模様である.注意深くバーコードを見てほしい.バーには長いバーと短いバーがあることに気が付くことと思う.そして必ず長短のバーが左右対象になっていることにも.この長短のバーの配列がまさしくレーザー光のあたり方に影響をされずに正確にデータを読み取るための工夫である.

この場では,詳しい話を余りできなかったが,数学は我々の日常生活に多大な影響を与えていることだけは確かであるし,これからも数学は我々の生活を支えるために限りなく発展を続ける事は間違いない事である.

数学がいかに我々の生活を支えているかについてはこのような例を通してシリーズで紹介していきたいと考えている.

 ご期待のほど.

Printed in Tounn.1992.
Written by Y.O^kouchi.1992.
Copyright 1987,1992 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.